16-21.聖女と女神
ニクスから経緯を聞き終えたノアとセレネ。
アルカと話ができるようになってから、
ニクスに何があったのかその殆ど全てが語られた。
「あ~。そういう・・・」
「これは・・・」
「アルカのやりすぎね」
「孤独な人見知りに少しずつ歩み寄っていったと」
「アルカの認識はズレているわね」
「あくまでもトドメでしょうね。
その前から感情は芽生えていたのでしょう」
「本人も人見知りのくせに、
弱ってる人には完璧な対応するからね」
「私もセレネも経験ありますよね」
「そうなのよね・・・なんだかなぁ」
「人見知りが絆された結果、極度に執着するのも
アルカと同じですね。
私もそんなアルカを見たことがあります」
「なにそれ羨ましい・・・」
「精神状態こそ落ち着いてはいますが、
今もそう変わってはいないと思いますよ?」
「セレネ。ノアの言う通りです。
アルカは本当に心の奥底から
二人のことだけを特別に思っております。
それは、アリアやルカ、レーネ、その他の方々、
そして私に対して向けるものとは明確に異なります。
重さが、深さが違うのです。
本当にアルカはあなた方を失えば生きていけないと、
そう思っているのです。
どうかその事だけは信じてあげて下さい。
あの気持を疑うことだけはしないでください。
お願いします」
「「・・・」」
「これが演技ならもうどうしようもないわね。
それを知っていてなお・・・
だからこそとも言えるのかしら」
「ええ。何だかニクスに・・・
ニクス。大丈夫です。
疑っていわけではないのです。
私達もニクスが見たのと同じ感情を
アルカに対して抱いているだけなのです。
だから不安が抑えきれなくなるのです。
それは信じていないからなのではありません
信じているからこそなのです。
私達もアルカを失えば生きてはいけません。
だから私達はあなたを警戒するのです。
私達からアルカを奪ってしまうのではないかと。
あなたもアルカに対して同じ感情を抱いてしまうのではないかと」
「どうかご安心ください。
私はあなた方からアルカを取り上げたいわけではありません。
ただアルカの側にいたいだけなのです。
今はまだ許して欲しいなどとは言いません。
ですが、いつかあなた方とも仲良く出来る事を願っております」
「ニクス。あなたはまだ理解していないわ。
あなたは何千年も生きていたのに、
本当に恋をしたことがないのね。
私達と、アルカと同じ感情を抱けばその程度では済まないの。
そして、何れは間違いなくあなたもそう感じるはず。
だから、まずは私達とも話し合いましょう」
「あなたはアルカの心に一番近いのだから、
今のまま放置しておくわけには行かないの。
私達があなたをよく知らなければ、
私達があなたに悪い印象を持ったままなら私達は安心できない」
「あなたがアルカに今よりさらに強い執着をもったのなら、
あなたなら何でも出来てしまう。
アルカと触れ合いたいと思ってしまったら・・・
だから、まずは話しをしたいの。
私達の想いを知ってほしいの。
私達にあなたを教えて欲しいの」
「こちらこそお願い致します。
セレネ。それにノアも。
あなた方も私にとって大切な存在なのです。
今はまだ理由を明かせませんが、
ある意味ではアルカ以上に重要です。
私もあなた方とわかり合いたいと願っております」
「それは初代聖女、いえ、アムルが関係する事ね」
「・・・」
「私はアルカみたいに甘くはないわ。
権能だかなんだかは知らないけれど、
伝えられる言葉に制限があるからって、
情報が得られないわけでは無いもの」
「・・・」
「今回の趣旨とは少しズレてしまうけど、
あなたが私達にどんな感情を抱いているのか、
その根幹に至る理由なら関係もあるものね」
「だからこの話は続けさせてもらうわ。
あなたが私達を大切に思うのは、
アムルと私達が似ている事に関係があるのでしょう?」
「・・・」
「二人ともがっていうのは疑問だけど、
私達はアムルが転生した存在なの?」
「違います」
「私達の中にアムルがいるのね」
「・・・」
「やっぱり・・・
あなたは以前、アムルの心を救うようにと願った。
なら、アムルの心はどこかにあるはずだものね。
私達はアムルを救うことができるのね?」
「可能です」
「これは答えられるのね。
そうすると・・・
アムルの心は私とノアの中に分割されているの?」
「・・・」
「それをやったのはあなたね」
「・・・」
「ノアが一族から疎まれたのも、
あなたのせいなのね」
「ノア。本当に申し訳ございません。
どうかあなたの気の済むようになさってくださいませ」
「・・・もう関係の無いことです。
気にする必要はありません」
「そもそも、今のまともに喋れない状態で謝罪だけしたって意味がないわ。
ちゃんと自分の口で経緯を説明できるようになってから出直してきなさい」
「はい。いずれ必ず」
「セレネ。ありがとう」
「話しの続きに戻るわよ。
私達のパスはアムルの心が原因ね?」
「・・・違います」
「少し言い淀んだわね。
直接の原因では無いけど、
関係はあると言ったところかしら」
「・・・」
「続けましょう。
私達はまだアムルの為に何も出来ていないわよね?」
「違います」
「私達のこれまでの行動でアムルは救われているのね?」
「・・・」
「何で同じ質問でも否定ならできるのかしら。
結局与えている情報に変わりは無いのに」
「そうでもありません」
「過去や未来に関わる事で無ければ話ができるの?」
「・・・違います」
「出来ないけど、それ以外にも出来ないことがあるのね」
「・・・」
「アムルは邪神に唆されたのね」
「・・・」
「アムルは邪神から力を貰ったのね」
「違います」
「アムルは心だけ邪神に支配されてしまったのね」
「・・・」
「私達にアムルの心を封じたのは邪神の影響を取り除くためね」
「・・・」
「どうして今なのかしら。
アムルは六百年も前の人よね・・・
私達より前にも同じようにアムルの心を癒やした人達がいるのね?」
「違います」
「邪神の影響が薄まるまでは出来なかった事だから?」
「・・・」
「今まではあなたがアムルの心を守っていたの?」
「・・・」
「大体のことはわかったわ。
けど、やっぱりあなたの気持ちも聞きたいわね。
あなたが伝えられる事に制限があるのは今だけ?」
「違います」
「私達がどうにか出来ること?」
「出来ません」
「何れは解決する手段があるのね」
「・・・」
「それは私達が死ぬこと?」
「・・・違います」
「まあ、解決するとは言えないものね。
けど、死後に話をする手段は存在すると言ったところかしら」
「・・・」
「これは過去や未来の事ではなく、
本来、この世界の住人が知り得ない知識だから話せないのね?」
「・・・どうかここまでに。
これ以上続けてしまえば、
私が話さずとも関係の無いことです」
「相変わらず回りくどい言い方するわね。
まあ、それも制限のせいなのでしょうけど。
ともかくわかったわ。
ここからは、元の話に戻しましょう」
「感謝します」
それからまた暫く、三人での話し合いが続いた。
今度はアルカの事を中心に。
それぞれの想いとニクス自身の事も交えて。