16-16.修羅場
「「さあ！選んで！」」
二人は私に左手を差し出した。
「お願いよ！
私は二人のどちらかが二番だなんて思いたくないの！
絶対にそんな事は認められないのよ！」
「往生際が悪いです」
「もう諦めて欲しいのだけど」
「お願いだからぁ！
二人の事が本当に大好きなの！
差なんてつけられないの！
出来るできないより、したくないの！！」
「「・・・」」
予想外の展開に動転し、
二人の差し出した手をまとめて握りしめながら、
半泣きで縋り付く。
「流石にプロポーズの場でそれは格好悪いわ」
見るに見かねたノアちゃんが代案を提案する。
「じゃあ、私達には普通につけて良いので、
アルカの分は一番の方につけさせて下さい」
「結局同じじゃない！！」
「時間を置いてあげようって気遣いじゃない」
「それまで私だけつけられないの！？
それだとノアちゃんとセレネが結婚するみたいじゃない！」
「どの道同じことでもありますし」
「けど、確かに微妙ね。
アルカとの繋がりだって事にも大きな意味があるもの」
「なら、やっぱりこの場で選んでもらいましょう」
「そんなぁ～！！」
「どうしたらわかってくれるのかしら」
「無理強いしても本当は意味がないのですが、
それでも一度選びさえすれば、
なし崩しに出来ると思います。
アルカですし」
「そうよね。アルカだし。
少し可哀想だけど、強制する事も大事よ。
私達好みに育てるには必要な事だもの」
「まあ、そこまで可哀想に思う必要もないでしょう。
私達を納得させる前に、
この状況を作り出したアルカの責任です」
「同意するわ。
短慮な所は散々指摘しても治らないのだもの。
たまには荒療治も必要よね」
「・・・やっぱ返して。
まだ二人には早かったのよ」
「「嫌！！」」
「だってそんな風にゴネられるなんて思っても見なかったわ！
私がどんな気持ちでこの日の準備してきたかなんてわかってるでしょ！」
「ゴネてるのはどっちよ！
私達の気持ちだってずっと知っていたじゃない！
それを見ないふりしてきたのはアルカの方でしょ！」
「二人とも落ち着いて下さい！
いくらなんでもそれは無いです。
この場で喧嘩するのはあんまりです」
「アルカ。
返してなんて言うのは酷すぎます。
私達も追い詰めすぎた事は謝ります。
けれど、一番にして欲しい私達の気持ちは、
ずっと言ってきた事です。
その上で、私達を納得させれば、
アルカの二人ともが一番という言い分を認めても良いと言ったはずです。
アルカはその為になにかしてくれましたか？
本当に真剣に考えてくれましたか？」
「セレネ。
私もセレネと同じ気持ちです。
けれど、アルカの気持ちが全くわからないわけでもないでしょ？
アルカは酷いことをしました。
けれど、どうか怒りは抑えて下さい。
この場で怒鳴り合いの喧嘩なんて止めましょう。
アルカはそんな事の為に頑張ってくれたんじゃないんですから」
「そうね。ノア、ごめんなさい。
熱くなりすぎたわ。
アルカ。ごめんなさい。
言い過ぎました。
だからどうか撤回だけはしないでください。
本当にアルカの気持ちは嬉しかったんです。
それだけは疑わないで下さい」
「セレネごめんね・・・
ノアちゃんもありがとう。ごめんなさい。
二人の言っていることが正しいの。
私が中途半端だった。
自分の事しか考えていなかった。
もう絶対に返してなんて言わないから。
どうか持っていて。
それで必ず私につけさせて。
ちゃんとするから。
選べるなんて約束は出来ないけど、
ちゃんと二人の事を納得させてみせるから。
だから、どうかもう一度だけチャンスを下さい」
「「うん」」
「ありがとう。ごめんなさい」
そのまま泣いて縋る私を抱きしめる二人。
結局こんな事になってしまった。
セレネの言うとおりだ。
私は都合良く見ないふりをして押し通してしまおうとした。
挙げ句、酷いことを言って傷つけた。
その上でセレネから謝らせてしまった。
本当に怖かったのだろう。
私が返してなんて言ったせいで、
私の心が離れてしまったのでは無いかと少しでも不安にさせてしまったのだろう。
私はその気持が邪神に利用される程強いものだと知っていたのに。
本当にごめんなさい。
ノアちゃんの言うとおりだ。
私は二人を納得させる為の行動を何もしていない。
ただ、日々気持ちを伝えていればいつかわかってくれるなんて考えていた。
ただ、選べないと喚いて縋っただけだ。
そんなの責められて当然だ。
それだけじゃ足りないと何度も言ってくれていたのに。
ノアちゃんだってセレネと同じように傷ついたはずだ。
なのに、私達がこれ以上傷つかないよう、
自分の気持を我慢して諭してくれた。
ノアちゃんの優しさに救われた。
本当にありがとう。
そんな二人に、
未だに縋り付いて泣いている私は一体何なんだろう。
これが三人で手を取り合って生きていく事だとは到底思えない。
私が二人にするべきことはこんなことじゃない。
二人が心の底から受け入れてくれるようにならなきゃ。
私なら、二人が寄りかかっても問題ないのだと思わせなきゃ。
少なくとも、今の私に二人ともが一番だなんて言う資格は無いんだ。
