16-13.飴細工
『アルカは何故あの二人にそこまで執着するのですか?』
『恋しているから?』
『私に聞かれても・・・』
『だって私の心は見えているのでしょう?
逆に何で聞いたの?勝手に読み取ればいいじゃない。
別に隠したりなんてしてないわよ?』
『見ても意味がわからないからです。
特別性的な感情が強いわけでもありません。
他の子達にも可愛いと思っています。
愛おしくすら思っています。
けれど、他の子達へ向ける感情とは明確に違うのです。
重さが違うのです。
心底、執着しています。
あの二人が世界の全てだと信じきっています』
『そこまで?』
『ええ。間違いなくそう思っています』
『二人にも今の聞かせてあげたいわ。
そうすればもう少し信じてくれるかもしれない』
『私にも指輪くれるんじゃなかったんですか?』
『・・・欲しいの?』
『冗談です。アルカの気持ちはわかってます。
どうせ私には・・・』
『勝手に人の心覗いて落ち込まないでってば!
毎度毎度、結構面倒くさいわね!
そんなの仕方がないじゃない。
まだニクスと出会ってから半年程度しか経っていないのよ?
そんなホイホイ恋心なんて芽生えないの!』
『わかってますよ・・・』
『ニクスには私しかいないのだものね』
『それなのにアルカは他の子しか見ていません・・・』
『だからそれも仕方がないじゃない・・・』
『・・・ぐす』
『ほら、泣かないで。
ニクスの事も大切に思っているわ。
私がきっと何とかしてあげるから。
沢山の人と出会えれば、
ニクスにも好きな人ができるわ』
『ひっぐ・・・』
『何で!?何で余計に泣き出すの!?』
『あるかのばがぁ・・・』
ニクスとの接触が途絶えた。
どうやら一方的に切られてしまったらしい。
まあ、別に珍しくもないのだけど。
ニクスは精神的に幼い。
そしてメンタルが弱い。
所謂豆腐メンタルだ。
結構簡単にボロボロ崩れる。
おからかもしれない。
数百年、数千年に渡ってこの世界を見守り続けてきたにしては幼すぎる。
脆弱すぎる。
いや、弱いだけではないのだろう。
強すぎる部分もある。
あの弱さを抱えながらも、
人々に恨まれるような事を選ぶだけの強さがある。
好きな人に嫌われてでも世界を守るという意思がある。
世界中の人々に忘れ去られても心折れない強さがある。
数千年を一人で生き続けてなお、
あの精神性を保っている事も、ある意味では強さだ。
何だかチグハグだ。
多分、どうしても譲れないものが、柱となっているのだろう。
それはどうやっても折れない強固なものだ。
その周りに、せっせと薄っぺらな飴細工でも纏わせているようだ。
どれだけ剥がれ落ちても、溶け落ちても、
どうにかして纏わせ続けている。
心を捨ててしまわないように努力し続けている。
なんだかそんな印象だ。
もしかしたら怖いのかもしれない。
全てを諦めて柱だけになることが。
世界を守るためだけの機械に成り果ててしまうことが。
ニクスは人でありたいのかもしれない。
神であっても、人の心を持ち続けていたいのかもしれない。
それ程までに人が好きなのかもしれない。
けれど、一人では心は育たない。
根付かない。
頑強さを得られない。
ニクスは一人だ。
神の座には他の誰もいない。
私達をどれだけ見守ろうとも、
それはまるで盤上の駒を見るように。
テレビ越しに映像の中の人を見るように。
それでは心が育たない。
私とは違う強制的な引き籠もりだ。
外に出たいと、自分で選ぶことすら許されていない。
だから私に縋るのだろう。
アムルとの思い出に縋り続けているのだろう。
きっとニクスも理解しているのだ。
自分の本当の心を育て上げるには、他の誰かが必要なのだと。
だから人恋しくてたまらないのだ。
私と話しをしたいのだ。
私から強い感情を向けられたいのだ。
私からそんな感情を向けられている二人が羨ましいのだ。
本当は誰からも好かれたいのだ。
そうして、
薄っぺらな飴細工ではなく、
強固なものにしたいのだ。
溶け合わせて混ぜ合わせて力強さを得たいのだ。
その為の熱が欲しいのだ。
火が、燃料が欲しいのだ。
けれど、それでは足りていない。
言葉だけでは足りていない。
冷えた体は温まりきらない。
誰かが抱きしめてあげないと。
温めてあげないと。
私はニクスを救い出そう。
きっといつか、神の座から引きずり降ろしてみせよう。
私が拐ってあげよう。
可愛くて優しい神様を温めてあげよう。
一緒に心を育ててあげよう。
だから待っていて。
必ず迎えにいってあげるから。
抱きしめてあげるから。
『・・・』