2-12.三日目
三日目の野営予定地に到着した。
「よろしければどうぞ~」
ノアちゃんは聖女と共に冒険者たちの間を回って
私の用意した果実水を注いで回っている。
また一日目に怒鳴り込んできた男が現れたが、
セレネが追い返した。
不信感は与えているだろうけど、
必要なことだから仕方ない。
これで仕込みは済んだ。
後は敵の動きを待つだけだ。
そうして、辺りが暗闇に包まれた頃、
想定通り敵が動き出した。
教会の騎士達は眠っている冒険者達の元に忍び寄っていく。
私は上空に上がり光球を放つ。
辺りが昼間かと思う程の眩さに包まれる。
目を覚ました冒険者達は
武器を構えて近づいてくる騎士達に気付き、
瞬時に戦闘態勢を整える。
「やはり何か仕込んでいたな!」
また、あの男か。あいつが敵のまとめ役かな?
果実水が怪しいことはわかっていても
決行せざるをえなかったようだし、
案外余裕がないのかな?
「それはあなた方ではありませんか?
食事に睡眠薬を仕込んでいた事はわかっています。」
セレネが冒険者達の間から出てきて返答する。
やっぱりあの子、根本的に迂闊だな。
頭は良くても経験が足りないのだろう。
別に守れるけど、わざわざ前に出ないでほしい。
私は上空から様子を伺いながら、
他の戦力を警戒して周囲の気配を探る。
「それで、ルキウス司教これはどういうつもりでしょうか」
「知れたこと。この期に及んで問答など無用だ。
聖女を捕らえよ!」
あの男ルキウス司教っていうのか。覚える気ないけど。
司教の命令で騎士達が動き出す。
冒険者達は状況がつかめないまま、
応戦するもの、逃げ出そうとするものなど様々だ。
まあ、伝える隙が無かったししゃあない。
私がやるとしよう。
私は上空から魔法の矢を放っていき、
近づいてきた騎士達から正確に撃ち抜いていく。
その時、高速でこちらに近づく気配を察知した。
なにこいつ!速い!
まさか、ここで味方が増えることはないだろうし、
敵よねあれ。
やっぱり仕込んでたんじゃない!
ここで新たに戦力を追加してくるなんてタイミングが良すぎる!
「アールーカー!」
その時、接近する影から聞き覚えのある声が聞こえた。
というか私の名前を叫んでる。
私が一瞬虚を突かれた隙に、
そのまま、飛び上がって斬り掛かってきた。
「クレア!?」
そのままの勢いで地面に叩き落され、
いつかのように慌てて距離を取る。
「今は相手してる場合じゃないのよ!
見ればわかるでしょ!
というかこんな所まで何しに来たのよ!」
私達の町からここまでかなりの距離がある。
誰も私がここにいる事をクレアに教えるはずがないし、
本気で意味がわからない。
「教会から依頼を受けたんだ。
強いやつと戦ってくれってな!
まさかアルカの事だとは思わなかったぜ!
これはもう殺るしかねえだろ!」
何が隠蔽したよ!セレネ、ダメダメじゃない!
こいつを寄越してきたって事は枢機卿とやらに
私のこと完全にバレてるわよ!
「後で必ず相手してあげるから、
今だけ見逃してくれない?」
「嫌だね!困るって事はそれだけ本気で来てくれるんだろ?
こんなチャンス見逃せないね!」
マズイマズイマズイ!
本気でマズイ!
こいつ引く気がない!
流石に予想外すぎるわよ!
ギルドの最高戦力ぽいぽいと貸し出してるんじゃないわよ!
依頼の精査はどうしたのよ!
ここでこんな奴相手にしてたらセレネを守れない!