16-8.方針
『どうせ心は読めるのだろうし、
ついでだから色々とぶっちゃけてしまうわ』
『改めて言葉にしておくけど、
ニクスは私に対して必要以上に気を使わないでね?』
『私がこの世界に呼ばれた事で私は元の家族と引き離された。
その事を恨む気持ちが無いとは言えないけど、
それでも私はニクスを許す事にした』
『だから、また私に問題があったのなら、
責める権利が無いなんて言わないでちゃんと言ってね?』
『さっきのはつい勢いで口にしてしまったのだろうけど、
それは逆に、軽口を言えるだけニクスも私に心を開いてくれたって事だと思うの。
それ自体は嬉しい事よ。
だからこれからもよろしくね?』
『わかりました。
アルカの心遣いに改めて感謝いたします』
『そんな風に改まる必要はないわ。
ありがとう。よろしくね、で良いのよ』
『ありがとう。よろしくです』
『こちらこそ』
『・・・アルカはジゴロさんなのですか?』
『あなたも大概チョロいわね』
『仕方ないでしょ!
私が何百年一人で過ごしていると思ってるんですか!
人恋しくだってなりますよ!』
『ごめんって。言い過ぎたわ。
話しくらいしか出来ないけど、
いくらでも聞いてあげるから』
『それよりまたセレネが見てますよ』
『それは早く言ってよ!!』
「アルカもすっかり夢中ね。
そんなにあの女と仲良くなってしまったの?」
私が慌ててセレネの方を向くと、
セレネも私を見つめていた。
というか、全員私に注目していた。
ちょっと長いこと頭の中で話しすぎたようだ。
「いえ、ちょっと敵の件でニクスにも助言を貰っていたの。
だからセレネの気にするような事は何も無かったわ」
「その割には随分慌てていたようだけど?
ともかく、今は話しを進めましょう?
後でゆっくり聞いてあげるから」
「そっそうね。
私もセレネとゆっくり話したいわ」
「私もですよアルカ。
何二人で済ませられると思ってるんですか?」
「もっもちろん!
ノアちゃんも一緒よ!
三人でゆっくり話し合いましょう!」
「何時までもくだらん茶番を続けるのは止めたまえ。
それで?女神ニクスとどんな話しをしたのかね?」
「えっと、まずは私には邪神以外にも、
この世界も干渉してくるってさっき話したじゃない?
それで、現状の敵対勢力がどの程度影響を受けてるのか聞いてみたのよ」
「それで?」
「多少は可能性があるだろうって。
けど、大半は私が中途半端なせいだって」
「あとは?」
「それだけ・・・」
「随分と長くお話していたようだけど?」
「・・・それだけです」
「君はもう少し危機感を持つべきだ。
女神まで口説いている暇があるのならもっと真剣になりたまえ」
「そんなこと・・・」
「それで具体的な方針だが・・・」
グリアは私の力ない反論を無視して、
会議を進めていく。
各地への連絡はグリアが担当してくれる事になった。
ギルド長ズと連携して事を進めてくれるようだ。
とはいえ、
一回の手紙の往復ですら数ヶ月単位となるだろう。
この世界の流通網はその程度だ。
その間、地下の町が心配だ。
けれど予想通り、
ルネルは転移装置代わりは拒否した。
あくまでも、人間達の政治の問題に首を突っ込む気は無いようだ。
ルネルが動いてくれるのは、
直接的な被害から私達を守るためだけだ。
それはあくまでも、ルネルの優しさだ。
不老魔法の件で失望させ、
その上で邪神という脅威が遠ざかった以上、
本来ならもう手を引いていてもおかしくないだろう。
それでも、まだ私達の事を気にしてくれているようだ。
ルネルは私達を鍛えてくれると言う。
素直に感謝しよう。
例えまたあの地獄が待っていようとも。
ルネルは私達がエルフの国に入る事も拒否した。
邪神の干渉の件だけでなく、
ルネルにとって不老魔法は、
それ程までに許しがたいものだった。
本当に私は酷いことをしているのだろう。
これだけ心配してくれる人の手を払うような事をしたのだ。
それでも、いつか許してもらえる事を願おう。
自分勝手だけど、私はルネルと決別なんてしたくない。
彼女もまた私にとって大切な人なのだから。
訓練はこの教会の中庭で行われる事になった。
まあ、ルネルと戦うのに派手な力は必要ない。
多少狭くとも問題はないだろう。
どうせ当面は何もさせて貰えずに転がされるだけなのだから。
こうして、再び教会での居候生活が始まった。