16-7.現状確認
私達はようやく状況報告を始めた。
教会に辿り着いてから、
既に数日が経過している。
「という事で、
邪神の干渉はとりあえず止まっているわ」
「そうじゃのう。
今は痕跡も見当たらぬ。
しかしお主・・・」
「ルネルどうかした?
なにか気になることがあるの?」
「お主、娘達の事をなんじゃと思っとる。
幼子に懸想した挙げ句、
人外に作り変えるなぞ正気の沙汰とは思えんぞ!」
あかん・・・
またヒートアップしそう。
邪神の痕跡を見るために私の体を覗き込んだせいで、また気になってしまったのだろう。
私が答える前に、
セレネがルネルに語り始める。
「ルネルさん。
ルネルさんが不老魔術を認められない気持ちは何となく想像できます。
もちろん私の想像など全然足りていないのであろう事もわかっています。
ルネルさんが私達の為に怒ってくれているのもわかります。
そして、優しいルネルさんに私達の今の姿を見せてしまったのは申し訳ないと思っています」
「ですが、それでも、
私達は自ら選んだのです。
いつかこの決断を後悔する事にもなるのでしょう。
アルカからもそう何度も諭されました。
それでも、私達は望んだのです」
「私も、ノアも、
そうしてでもアルカと一緒にいたいのです。
認めて下さいとまでは言いません。
見逃してくれと言いたいわけでもありません。
ですが、どうか責めるならアルカだけでなく、
私達も同じように扱って下さい」
「これは私達三人の責任なのです。
私達は三人で道を踏み外したのです」
「例えこの件でいつかルネルさんを敵に回したとしても、
私達は三人一緒に立ち向かいます。
いえ、実際には戦いにもならないので、
三人一緒に逃げ続けます」
「少なくとも、私とノアはその覚悟です」
「お主ら・・・はあ~。
もう知らんわ。
好きにせい」
「ともかく話しを進めさせてもらおう。
ルネル氏もこれ以上はその後に願う。
やらねばならぬ事も多いようだからね」
「遮って悪かったのう。
お主の邪魔をする気はない。
進めてくれ」
「感謝する。
それで、邪神の件は承知した。
アルカ君と女神に後の事は任せるとしよう。
あと問題なのは、
アルカ君の力を取り戻す事と、
女神ニクスの信仰を集める事だね?」
「ええ。
あと、出来れば何人かに連絡も取りたいの。
少し時間が空きすぎたわ。
私が動けなくなったと敵に悟られれば、
用心を続けても意味がなくなってしまうもの。
グリアはいい方法知らない?」
「その方法を話し合う前に、
君の言う敵について整理しよう。
我々は何を警戒しなければいけないのか知る必要がある。
そうでなければ方針も決められまい」
現状明確なのは、
一つ目が、
あの地下の町に干渉しようとしていた者達だ。
その多くはギルドに関係しているはずだ。
あの町の現状はギルドの管理化に置かれたとはいえ、
あの町が私の庇護下にあると考えられている限りは、
平和を保っているはずだ。
私がもはや気軽に行くことすら出来ないと知れば、
好き勝手しだす連中も出てくるだろう。
二つ目が、
かつて存在した、
パタラという男を首領とする、
ドワーフの魔道具を悪用する組織だ。
本拠地は私が壊滅させて、
各地の拠点は現在進行系でギルドが抑えているはずだ。
けれど、元々の敵も多く、
その上初動も遅すぎた。
既に私が本拠地を襲撃してから二年近くが経とうとしている。
残存勢力はまだまだいるはずだ。
首領のパタラ自身もまだ生きている可能性も残っている。
少なくとも、
私達はまだ遺体を確認していない。
巨大スライムもどきをけしかけてきた時に一緒に取り込まれてしまったのか、
あるいは、他のダンジョンに転移したのか。
それすらもわかっていないのだ。
ヘタをすると、更に力を増して暗躍し始めるかもしれない。
三つ目が、
それ以外の敵対者達だ。
私が世界を旅しながら、
中途半端に野望を止めて回ったせいで、
世界中に私に恨みを持つ者達が残っている。
こちらは予測も付けられない。
あと何人いるのか、
敵は組織なのか個人なのか。
どれ程の恨みなのか。
何一つわかっていない。
「今更改めて言うまでもないのだが、
よくもまあそれだけあっちこっち敵ばかり作ったものだ。
それにその認識は甘い。
まだ他にもいるではないか」
「君の行動を疎ましく思うのは、
何も悪意のある者達だけではない」
「君の行動によっていらぬ諍いが増えていると憤る者達もいるのだ。
例えばギルド本部にもいるぞ。
悪意ではなく、正義によって、
君の行動は咎められているのだ」
「事実、例のドワーフを祖とする組織が強硬手段に出たのは君がキッカケだ。
強すぎる君の力に対抗するために、
町一つを巻き込みだしたのだ」
「少なくとも、
彼らは六百年の間大人しくしていたのだ。
暗躍し、世界中に手を伸ばしつつも、
それでも大きな事件等起こさなかったのだ」
「君は虎の尾を踏んだと、
こんな迂闊な存在を野放しにしてはおけないと、
平和のためにそう思う者達もいるのだ」
「・・・はい、すみません」
『ちなみにこれって、
世界の干渉とか関係あるの?』
『流石に半々じゃないですか?
無いとは言いませんが、
あなたのせいである部分は多いと思います。
少なくとも、あの方はこんな事にはなっていませんでした』
あの方って魔王の事よね。
ややこしいから良い加減名前を教えて欲しいのだけど、
ルネルもニクスも何故か教えてくれないのよね・・・
ともかく、
魔王はもっと平和的に生きていたのか。
何かズルい・・・
『自業自得です。
あの方はちゃんと最後まで責任を持っていただけです。
何でもかんでも中途半端にしたのはあなたの責任です』
『ドワーフの組織なんて致命的なの残してたじゃない・・・』
『・・・失礼。それもそうですね。
そもそも私がアルカを責める等、許されない事でした。
アルカを最初に巻き込んだのは私です。
失言を謝罪します』
『気にしないでとまではまだ言えないけど、
お陰で今の生活があるのも事実よ。
ニクスの事は許すわ。
それに今の家族に合わせてくれた事も感謝してる』
『・・・ありがとう。アルカ』