16-5.うっかり
私達は遂に、セレネの教会の本拠地である、
クリオンの町に辿り着いた。
逸る気持ちを抑えながら、
真っ直ぐに教会に向かっていく。
どれだけ明るく楽しい旅路になろうとも、
やはり皆、どこか心細さはあったのかもしれない。
殆ど見ず知らずの土地にいきなり放り出されて、
普段とは大きく勝手の違う旅を強制させられた。
本当にニクスはもう少しどうにか出来ないの?
うっかりミスなのか、仕方なくなのか知らないけど、
神様なのだからもう少しやりようもあるでしょうに。
『神だからこそなのです。
私が手を出すには災いである必要があります』
『どういう事?』
『それが私の権能なのです。
副産物として力を与えているに過ぎません』
『実はあなたが邪神だったりしないわよね?』
『失礼な!なんてこと言うんですか!?』
『声大きい!頭痛くなるわ!』
『失礼。この地は力が集まりやすいようです。
今後は気をつけます。
それはともかく!
先程の言葉は聞き捨てなりません。訂正を!』
『だって災いを振りまくのでしょう?』
『違いますぅ!
無作為に振りまいているみたいに言わないで下さい!』
『だから大きいって!
ボリューム抑えて!』
『アルカこそ酷いこと言うの止めて下さい!
私にはそういう制約がある程度にお考え下さいませ!』
『まあ、仕方がないことだってのはわかったわよ。
それにしてももう少しどうにかならないの?
今回だって途中で私が心折れてたらどうするの?
セレネやクレアの時だってそうよ。
少しやりすぎじゃない?』
『皆さんには申し訳ないと思っています。
けれど、私だってやりたくてやっているわけじゃありません。
与える影響に応じて災いも大きくなるのです』
『苦労してるのね・・・』
『なんで私こんな事を話してしまったのでしょう。
アムル達にだって伝えなかったのに』
最後に独り言のような事を呟いて、
ニクスは一方的に会話を打ち切ってしまった。
折角話せるなら色々聞きたい事があるのに・・・
もしかしたら言葉もマズイのかしら。
あまり重要な事を喋りすぎるとそれに応じて災いも発生するとか?
なんて厄介な・・・
折角この世界の事を誰よりも詳しい存在と話が出来るのに、あんまり役に立たないわね。
『酷いことばかり考えていたら災いを差し上げますからね』
悪かったわよ。
あなた意外と可愛い性格してるわね。
まさかこんな簡単に拗ねるとは思わなかったわ。
「「「アルカ!?」」」
いきなり足元に空いた穴につまずいて転んでしまう。
「何今の!?
さっきまでそんな穴無かったわよ!?
あの女!遂に本性を表したわね!
今すぐアルカから離れなさい!」
突然叫びだしたセレネに周囲の人がざわめき出す。
この町でセレネは有名人だ。
なんたって教会の聖女様だ。
しかも信仰を広げる為に、
町の人々にも積極的に関わっている。
その聖女が白昼堂々、衆人環視の中で、
痴女のもつれみたいな内容を叫びだしたなんて洒落にならない。
まあ、誰も罵倒している相手が信仰対象だとは思わないだろうけど。
私とノアちゃんは慌ててセレネを抱えてその場を離脱する。
リヴィもちゃんと付いてきた。
『ニクスやりすぎよ!
いや、やったことそのものは軽いイタズラ程度だけど!
あなたが信仰集めの妨害してどうするの!?』
『すみません・・・』
『やっぱりあなたうっかり属性でも付いてるんじゃない?』
『・・・・・否定はできません』
やっぱ、この女神・・・
まあ、これ以上余計な事は考えるまい。
こんな場所で災いが起こったら、
セレネにも影響を与えかねない。
私達は急ぎ足で教会に駆け込んだ。
「ようやく帰ってきたと思ったら、
その慌てぶりはどうかしたのかね」
「いえ。ちょっとアクシデントがあっただけよ。
そっちは大した問題じゃないわ。
それより話したい事がいっぱいあるの。
時間もらえるかしら」
「もちろんだとも。
早速はじめよう。
ルネル氏も既に待っている」
ルネルがいたのなら、
私達がこの町に近づいた時点で気付いたのだろう。
グリアにも教えておいてくれたみたいだ。
「良かった。
それは心強いわ。
流石ルネルね」
「君は随分と雰囲気が変わったのだね?
まるでセレネ君のようだ」
「わかるの?
実は女神に力を押し付けられてね。
それで転移も使えなくなっちゃったのよ」
『言い方・・・』
『ごめんごめん。意外と細かいこと気にするわね』
『なんででしょう・・・
こんな風にムキになったのは初めてです。
久しぶりにお話しできたせいでしょうか』
『それは悪いことしたわね。
もう言わないから仲良くしましょう』
『そうして頂けると嬉しいです』
「やはりか。
君達が何の連絡も出来ないなど、
万が一も考えてしまったが、
アルカ君も無事に帰ってきてくれてなによりだ」
「心配かけてごめんね。
私が完全に力を失ってたから、
ギルドには知らせたくなかったのよ」
ギルド以外の手紙などの手段では、
私達の旅よりもっと到着に時間がかかる。
タダでさえリスクもあるのに、
わざわざ出す意味がなかった。
「わかっているとも。
用心するに越したことはない。
さあ、入ってくれたまえ」
グリアに案内された一室には、
既にルネルが待ち構えていた。
「お主らよくぞ無事に帰ってきた。
アルカは随分と・・・うん?
おい馬鹿弟子。何じゃその体は」
え?
「娘どもにまで・・・
お主覚悟は出来ておろうな」
何の話?
「自覚も無いとは・・・
嘆かわしい。
どこで教育を間違えたのじゃ。
まさかその様なものにまで手を出すとは。
今度こそ本当に見限りそうじゃ」
「待って!?
本当に何の話しなの!」
「アルカ、不老魔術の事です」
「あ!?」
「お主、本気で忘れておったな?」
「ごめんなさい!
これはちょっと出来心だったの!
ちゃんとルネルと会う時は解こうと思ってのよ!
ルネルが嫌いそうだって事はちゃんとわかってたわ!
でもちょっと色々ありすぎて抜け落ちてたの!」
「「アルカ・・・」」
「ほうほう。バレなければ良いと?
お主、わしを舐めておるのか?
いや、もう余計な口はきかんで良い。
話もあとじゃ。性根を叩き直してやる」
いつものように、周囲の景色が一瞬で変わる。