16-2.相談
「セレネちょっと相談したいんだけど」
私はノアちゃんが買い出しに出ているタイミングを見計らって、
セレネに話しかける。
「ノアの誕生日の事?」
「相変わらず話が早いわね」
「まあ、そんなコソコソしてたらね。
なにか隠したいのなら私に言わないほうが良いよ?
パスの事を忘れているわけじゃないでしょ?」
「まあ、そうなんだけどね。
けど他に手段も思いつかないのよ。
それでね、私って今ヒモ同然じゃない?」
「そうね」
「少しは否定して欲しかった・・・
まあ、つまり先立つものが無いとどうしようも無いわけなの。
だからと言って私がギルドに行くわけにはいかないわ」
「それで?何か考えがあるの?」
「ちょっと代わりに依頼の受注してくれない?
ちゃんと依頼自体は私が達成するから」
「あまり関心しないわ。
それは本来違反行為よ。
旅の為にやむを得ずならともかく、
ノアの為にするなら、ノアが嫌う方法はダメよ」
「そうよね・・・
考えが足りなかったわ。
やる前に止めてくれてありがとう。
他の方法を探してみる」
「じゃあ、こうしましょう。
私と一緒に依頼を受けるの。
それで二人で一緒にノアの誕生日プレゼントを用意するの」
「本当に良いの?
それじゃあ結局変わらないわよ?」
「全然違うわ。
私がノアの為に依頼を受けるの。
アルカはそれを手伝ってくれただけ。
これなら意味がぜんぜん違うでしょ?」
セレネはそんな屁理屈で私を助けてくれると言う。
折角だしセレネの気遣いに乗らせてもらおう。
「けれど私だって、
後ろめたい気持ちでノアの誕生日を祝いたくはないわ。
だから分不相応な依頼は受けない。
受けるのは私のランクで問題のない下位の依頼だけよ。
それでもいくつかこなせば十分でしょ?
旅の費用と比べたら微々たるものだもの」
「わかった。
それで十分よ。
いつもありがとう。
セレネがいてくれるから私は道を外さずにいられるわ」
「大げさよ。
・・・と思ったけど、割と言葉通りだったわね。
魔王化したら文字通り外道になってしまうのだし」
「もちろんそれも感謝してる」
私達はそんな冗談で笑いあった。
ここ一ヶ月程は落ち着いていたので、
だいぶ気楽になっている。
セレネが自身が嫌がっていた冗談をわざわざ口にしたのは、もう大丈夫よねと、そう言いたいからなのだろう。
だから私は笑って答える。
もう心配はいらないよと。
感謝を伝えるために。
安心させるために。
あれから神力の扱いもかなり上達した。
ニクスも久々に話しかけてきた。
これでニクスの授けてくれた二つの力を最低限使えるようになったのだろう。
まだまだ鍛錬もニクスの信仰集めも必要とは言え、
きっと暫くは大丈夫な気がする。
セレネもノアちゃんもリヴィも、
一緒に笑いあって過ごしてくれている。
これが続くなら私はきっと大丈夫だ。
今は、ノアちゃんとリヴィで買い出しに出ている。
私とセレネは書き置きを残して宿を後にする。
ちょっと前まで転移門を使えばすぐに連絡をとれたのに・・・
早く転移も使えるようになりたい。
神力はまだ纏う事と、
物質化する事しか出来ていない。
どうやって魔法に変換するのだろう。
グリアはどうやって、
そんな方法を見つけ出したのだろう。
昔、魔力と神力は似たようなものだと言っていた。
あくまでも、それぞれ単純なエネルギーでしかないと。
魔王やその力の一端を取り込んだ枢機卿は
闇の属性を神力に混ぜ込んで使っていた。
あれは魔法とは違う技術なのだろうか。
セレネですら、そんな事は出来ないという。
あれを再現すれば、
魔法を使えるようになるのだろうか。
それともあれは邪神の力の影響なのだろうか。
下手に真似をしないほうが良いのかもしれない。
ともかく、グリアに聞いてみよう。
彼女は自らが神力を使えないにも関わらず、
セレネの為に魔法に変換して見せたのだから。
改めてグリアの凄さを実感する。
ルネルと良い、本当に凄い。
その反面、私は自力で神力を扱うキッカケすら掴めなかった。
これだけ莫大な力を持っているのに。
見るに見かねたのか、
それとも最初から想定していたのかは知らないが、
ニクスが手を貸してくれなければ、
未だに使うことすら出来なかったかもしれない。
『ご安心を。比較対象がおかしいだけです。
あの方たちはバグか何かと思っておいて下さい』
『ニクスってもしかして私達の世界の知識もあるの?
バグってパソコンとかゲームとかの言葉よね?』
『ええ。存じています。
良い暇つぶしになりますし』
実際に使ってるんかい!
良いなぁ!私も欲しい!
『許可できません』
『ケチ』
『ドワーフの国の事を忘れたのですか?』
『あなたが魔王を転移させたせいじゃない』
『いいえ。
あの方が訪れなくともあの国は滅んでいました』
『詳しく話す気はある?』
『それよりセレネは良いのですか?
彼女の事もちゃんと気遣ってあげて下さい』
そう言って、
ニクスの声は途切れた。
なんでニクスがセレネの事を気にするの?
聖女だから?
「アルカ?
あの女との内緒話は終わったのね?」
セレネがブチギレてる・・・
ニクスと話すだけでも気配がわかるの?
それとも、単に放置しすぎた?
ニクスも警告するならもっと早くしてよ・・・
「セレネ?どうしたの怖いわ。
それより手を繋いでも良い?」
「なんで一々確認するの?
私はあなたのものよ?
勝手に繋げばいいじゃない」
「けれど、
手も繋いでくれずに長々と放置した挙げ句、
そんな風に話を逸らすなんて酷いわ。アルカ」
「ごめんなさい・・・」