15-12.かけるもの
私達は旅を続けていた。
依頼をこなした小さな田舎町を出た後は、
少し大きな町に寄り、旅の支度を整える。
道中の村々でもノアちゃんやセレネが
物物交換で色々手に入れてくれたが、
まだまだ足りない物は多い。
場合によってはここでも大きめの依頼をこなすべきだろう。
まあ、セレネとノアちゃんに任せておけば安心だ。
私は早く力を取り戻す為に、
神力の習熟に励むとしよう。
未だ力を操る事すら出来ていない。
力が存在している事はわかる。
私の全身から神力が溢れ出しているのは感じる。
けれど、自らの意思で操作する事が出来ない。
魔力はあんなに自在に扱えたのにどういう事なのだろう。
覚視もあるのだから、力の流れは全て視える。
ノアちゃんもセレネもリヴィだって扱えているのだから、
師匠に不自由もしない。
なのに、数日経っても未だにキッカケすら掴めない。
命がけの戦いにでも挑んでみるべきだろうか。
ルネルとの訓練は理にかなっていたのだろう。
追い詰められねば掴めない感覚もある。
魔力操作も覚視もそうやって身につけたのだから。
ルネルと言えば、
私の感の悪さはルネルのお墨付きだった・・・
やっぱりこのままではダメなのだろうか。
精神的な負荷が増えれば邪神の影響を受けてしまう。
だからといって、のんびりし過ぎなのだろうか。
ノアちゃんとセレネに頼り切って、
リヴィに癒やされて、
こんな環境では真剣になれないのだろうか。
いっそ一人で何処かに行くべきなのだろうか。
自分を追い詰めて、
心の底から力を求めるべきなのかもしれない。
そうして、万が一邪神に取り込まれても、
一人でひっそりと消えていくべきなのかもしれない。
ダメだ!妙なことを考えるな!
なんでこんなおかしな事を考えたんだろう。
絶対にそんな手段はありえない。
私はまだまだ皆と一緒にいるのだから。
少し弱気になりすぎだ。
これはきっと力を失った喪失感のせいだ。
心細くてたまらないのだ。
それだけ私は今まで力に頼り切っていたのだろう。
力に拘りすぎてはダメだ。
邪神に取り込まれてしまう。
この状況は女神の想定通りなのだろうか。
私なら乗り越えられると信じているのだろうか。
力に頼り切ってはいけないと教えたいのだろうか。
代償を伴わなければ力を与えられない制約でもあるのだろうか。
それともうっかりミスなのだろうか。
魔力を扱えなくなったのは想定外なのだろうか。
私が神力を使いこなせないのは予定外なのだろうか。
折角会えたのに、
結局女神の事はわからない事だらけだ。
女神ニクスは普段何をして過ごしているのだろう。
女神ニクス以外の
この世界を守ろうとする神を聞いたことはないが、
あの女神は一人きりなのだろうか。
あの女神は質素な格好をしていた。
神とはそういうものなのだろうか。
誰も見せる相手がいないからあんな格好だったのだろうか。
あの幼い容姿で、一人きりで、
世界を見守り続けて来たのだろうか。
聖女アムルや魔王の境遇に胸を痛めながらそれでも戦い続けて来たのだろうか。
アムル達の事を後悔しながらも、
私をこの世界に呼び出し、
セレネを聖女に指名したのだろうか。
私達にどれだけ恨まれても、
力を与える事を選択せざるを得なかったのだろうか。
そうしてまた後悔を重ねていくのだろうか。
次があったらちゃんと話しをしてみよう。
もしかしたら彼女も救いを求めているのかもしれない。
誰にも言えずに抱え込んでいるのかもしれない。
一人きりは辛い。
少なくとも、私はもう戻れない。
ノアちゃんと出会って、
セレネが家族になって、
リヴィが生まれて。
グリアやクレア、ルネルだっている。
ヘパス爺さんやギルド長達、
それにエイミーお姉ちゃんだって。
アリアやルカ、
レーネにだってまた会いたい。
その為になら必死になれるはずだ。
皆に会うための魔法が使えるはずだ。
家族を守る為の力が湧き上がるはずだ。
わざわざ命をかけるまでもない。
私には自分の命なんかより、
もっとずっと大切なものが沢山あるのだから。