15-10.初めての依頼
ノアちゃんの案内で魔物を探しに向かう。
今はノアちゃんに任せているが、
ようやく私も役に立てる時が来た。
戦闘はまだ難しいけど、
冒険者としての経験だけならノアちゃんにも負けていない。
まあ、そんなの当然なのだけど・・・
そう思いつつも、
私は裏方に徹してノアちゃんをサポートするように、
足りない知識や経験を補っていく。
あくまでも主役はノアちゃんとセレネだ。
実際に動く事になるセレネだけでなく、
折角ならノアちゃんにも楽しんでもらいたいからね。
まあ、ここ最近のノアちゃんは終始楽しそうだけど。
自分が一番頼られているという実感があるのだろう。
ノアちゃんは頼られると嬉しくなれる子だ。
ノアちゃん良い子。
ノアちゃん可愛い。
目的の魔物はノアちゃんがあっという間に見つけてきた。
けれど、そう報告したノアちゃんが戸惑っている。
「どうやら先客がいたようです。
現在交戦中です。あまり戦況は良く無いようですが」
「少し様子を見ましょうか。
その状況なら放置したくは無いし、
下手に手を出して恨まれても困るわ。
本当にダメそうなら介入して助けてあげましょう」
「すぐに助けに行かなくて良いの?」
「そういうわけにも行かないのよ。
相手によっては助けてくれたと思うより先に、
横取りされたって思ってしまうの」
「今のセレネのように低ランクなら尚更ね。
自分達がピンチだったのを初心者に助けられたなんて、
彼らも言い出せないし、認めたくないのよ。
事実がそうでないとわかっていても、
最悪、ギルドまで巻き込んで難癖付けかねないわ」
「自分達が追い詰めていたところで、
トドメだけ奪われたって感じにね」
「なんだか実感の籠もった言い方ね」
「実際何度もあった事だからね。
私なんて最初は今のセレネ達より体も小さかったし、
ノアちゃんみたいに見る人が見れば強いってわかるような体の動かし方も出来ないしね」
「もう見た目から弱いくせにって舐められていたのよ」
「それでも何度もそんな事を繰り返してたら、
終いにはギルドにも目を付けられてね・・・
よく考えたらテッサのギルド長さんと面識を持ったのも
最初はそんな理由じゃなかったかしら・・・」
「そんな扱いをされてもめげずに頑張り続けたから、
今は良い関係が築けているんじゃない。
苦労も沢山したのだろうけど、悪いことばかりじゃないわ」
「そうね。
そう思いましょう」
「セレネ、そろそろ行って下さい。
もう持ちそうにありません。
後のタイミングは自分で判断出来ますね?」
「もちろん!
任せておいて。上手くやるから」
そう言ってセレネは一人で冒険者達と魔物の戦いに近づいていく。
今回のターゲットは巨大な虎の魔物だ。
冒険者達は魔物の素早さに翻弄せれて、
全く相手になっていない。
むしろ良くここまで持ちこたえているものだ。
前衛に大きな盾を持った男性と剣を振るう女性。
後衛から弓を射る男性の計三人パーティーだ。
盾の人の力量は他の二人より高い。
お陰でまだ何とか生き延びているのだろう。
それだけ他の二人より体力の消耗も激しいようだ。
もう力尽きるのも時間の問題だろう。
弓をもつ男性はもう矢も尽きそうだ。
腕は悪くないけど、相手は悪い。
どう見ても当たる軌道でも、
当たる直前に避けられてしまう。
この手の魔物は耳も反応も良いので矢は当たらない。
他の攻撃手段はあるのだろうか。
剣士の女性はなんというか、一番ダメそうだ。
果敢に斬り掛かっているけど、当たる気配が無い。
動きは悪いけど、体力はありそうだ。
ちゃんと鍛えているのにセンスが無いタイプっぽい。
もはや魔物もまともに相手にする気すら無さそうだ。
相手が違えばこんなに苦戦する事は無かったはずだ。
普段は盾の人と弓の人が敵を抑えて、
剣の人がトドメを刺すのだろう。
冒険者としてはそれなりに強いほうだ。
こんな田舎であれば、町一番でもおかしくはない。
魔物の知識が足りなかったのだろうか。
それとも、やはりこのあたりの冒険者では彼らが一番強いのだろうか。
もしかしたら彼らしかこの依頼をこなせる可能性がなく、
やむを得ず挑戦したのかもしれない。
そうすると少しマズい。
今はあまり目立ちたくないのだ。
強いということは名声に繋がる。
ギルドも彼らを頼りにしているはずだ。
彼らが良い人であれ、悪い人であれ、
関わったセレネの名前も同様に引き上げられてしまう。
最悪私がランクを明かして彼らにセレネの事を黙っていてもらおうかしら。
Sランク冒険者の願いなら無下にはしないだろう。
冒険者ならその意味はわかるだろうし。
そんな事を悩んでいる間に、
遂に盾を手放してしまった男性に魔物の鋭く伸びた爪が迫る。
そのタイミングで、
セレネの結界が魔物の攻撃を妨げる。
「助太刀は必要かしら」
そう言ってセレネが戦場にゆっくりと歩いていく。
体の後ろで手を握って、
まるで花畑でも歩いているかのような
のんびりとした仕草だ。
あまりの場違いな空気に、
魔物すら硬直する。
違った。あれセレネの拘束結界だ。
相変わらずインチキよねあれ。
「何言っているんだ!早く逃げろ!!
危ないのが見てわからないのか!」
状況に気付いていない女性剣士がのんきに近づいてきたセレネに怒鳴りつける。
どうやら良い人っぽい。
鬼気迫る様子から心底心配しているのが伝わってくる。
「悪いが頼む」
盾の男性はある程度状況を把握しているようだ。
やっぱりこの人が一番強そう。
「わかったわ」
セレネがそう言うと巨大虎の首が落ちる。
えげつない・・・
拘束されて身動き一つできない巨大虎に
下から伸びた結界が逆ギロチンみたいに首を落としてるのが見えたわ・・・
その間、セレネは指先一つ動かしていない。
後ろ手に組んだままだ。
「ありがとう。助かった。君は?
外から来た高ランクの冒険者かな?
僕はカウスだ。君の名前は?」
そう言って弓の男が近づいてくる。
なんかコイツちゃらそうだぞ?
セレネにそれ以上近づくな!
というか、見た目十二歳相当の幼女に粉かけるってどんな神経してるのよ!
私?
ブーメラン?
私は良いんだよ!
「え?え!?」
女性剣士はまだ飲み込みきれていない。
盾の大柄な男性が、
カウスと名乗ったチャラ男の前に出るようにして、
セレネに話しかける。
「俺はシルトだ。
こっちの女性はヴェアト。
本当に助かったよ。礼を言う」
「気にしないで。困った時はお互い様よ」
「二人とも何を言って?・・・
本当にこの魔物お嬢ちゃんが倒したの?」
「そうよ。
余計なお世話だったかしら」
「いえ!いいえ!そんな事無いわ!
ありがとう!もうダメかもって思っていたの!本当に助かったわ!」
セレネに下から覗き込まれた、
剣士の女性ヴェアトはそう言って、
セレネの手を両手で握りながらぴょんぴょんし始めた。
どうやらセレネの可愛さにノックアウトされたようだ。
それ以上はダメよ!
抱きしめたりしたら許さないんだからね!
「アルカ落ち着いて下さい。
あまり気配を撒き散らしては感づかれてしまいます」
ノアちゃんに窘められた。
その後、セレネが低ランクだと知った三人は更に驚き、
セレネが目立ちたくない事を話すと協力してくれる事になった。
依頼の達成は彼らがした事にして、
報酬だけくれると約束してくれた。
どうやら彼らはこの地のギルド長にも顔が効くようだ。
ギルド長にだけ、セレネが冒険者なのを知らない事にして、
こっそり真実を話すつもりらしい。
まあ、彼らも自分達で倒せない魔物を倒した事にしてしまうと後で困るのだろう。
折角だからお言葉に甘えさせてもらおう。
セレネもそう判断したようだ。
結果的に当初の予定よりずっと目立たずに済みそうだ。
セレネ凄いわ!
さすがセレネ!
セレネ可愛い!
「アルカは黙ってやるから問題になるんです。
ちゃんと会話して交渉すれば半分は避けられたんじゃないですか?」
「・・・はい」
「交渉するという選択肢すら考えに浮かばず、
なんでもかんでも自分一人でなんとかしようとするのは
アルカのダメなところです」
「今は私達の事も選択肢に入れてくれるようになりましたが、
それでも、まだまだ足りていません。
沢山苦労して敵が多いと思ってしまうのもわかりますが、
もう少し周りの人の事も見てあげて下さい。
良い人達だっていっぱいいるんですから」
「・・・ごめんなさい」