15-9.路銀稼ぎ
私達はギルドのある町に到着した。
「セレネ。確認しておきたいのだけど、
冒険者登録ってしてもらっても大丈夫?
教会の方に何か悪影響は無い?」
「大丈夫だけど、不安だったら偽名にでもしておく?」
「う~ん。たぶんそこまでする必要は無いと思うんだけど・・・」
「なら普通に登録してくるね。
私とノアだけで行ってくればいいのでしょう?」
「流石セレネ!話が早いわ。
悪いけどお願いね。
受ける依頼はノアちゃんの判断に任せちゃえば問題ないから」
「わかったわ。
ノア行きましょう」
「良いですけど、
二人だけで通じ合っていないで、
私にも状況を教えて下さい」
「私がギルドに行くのは目立つから、
二人だけで行って欲しいのよ。
私は敵が多いから、
今の無力な状態で居場所がバレるわけにはいかないの。
私の身の安全ってだけでなく、
いない内にって考える輩もいるかもしれないからね。
私が少しずつ移動している事がバレたら、
転移が使えなくなったと気付かれる可能性もゼロじゃないから」
「それに、ノアちゃんも私といる事が知れ渡っているから、
セレネの名前で受注して欲しいの。
ノアちゃんは、一応ギルド内では名乗らないでね。
もちろん冒険者カードの提示も無しよ」
「構いませんけど、
それじゃあ大した依頼は受けられないんじゃないですか?」
「大丈夫よ。やりようはあるから。
ノアちゃんは稼げそうな魔物の出現情報を調べて、
その付近の低ランク向け依頼を見繕ってくれる?
それをセレネに受注して貰えば良いから」
「やりたい事はわかりましたが、
そんな事したら悪目立ちしませんか?
セレネもあまり目立つべきではないでしょう?」
「大丈夫大丈夫。
すぐに町から出れば皆きっと忘れるわ。
多くの冒険者は、凄い新人が現れたと思うよりも、
新人が運良く上手くやりやがってって妬むだけよ。
酒でも飲めば忘れてしまうでしょうね」
「忘れてないから、
アルカは行く先々で声かけられているんじゃないですか?」
「それも長くいたところ以外は受付嬢だけでしょ?
こんな片田舎で新人が活躍して受付嬢が騒いだくらいじゃ
すぐに本部まで連絡行ったりはしないわ。
私の行動記録は問答無用で本部に報告されるけどね」
「せめて私のランクを明かしませんか?
受注者はセレネにしておいて、
私はあくまでも付き添いって事で。
それなら無理なく融通が聞くかもしれませんよ?」
「それはダメなのよ。
下位ランクの者がそんな方法で上位ランクの依頼を受注できちゃうと功績の偽装になっちゃうから、受注自体認めてくれないわ」
「セレネを目立たせないようにするために、
ノアちゃんのランクを事後報告して、
偶然現場に居合わせた事にするのも、
二人の容姿じゃ無理があるでしょう?
どう見てもあなた達双子の姉妹だもの。
絶対に信じてはくれないわ」
「最悪、違反行為にでもなってしまえば、
本部にもすぐに報告が行っちゃうの」
「だから、あくまでも不測の事態を偽装しないといけないわ。
そもそも戦った事自体が意図したものでは無かったって言い張れないといけないの」
「その時にノアちゃんが身分を明かしていなければ、
少なくともノアちゃんを口実に
別口から責める事はできないのよ。
どう見ても怪しくてもね」
「ギルドだって、冒険者だとすら明かしていない人に、
身分の提示を強要したりは出来ないわ」
「まあ、流石に怪しまれるから
繰り返しでもすれば問い詰められるでしょうけど、
一回だけなら詳しく調査されたりなんてしない。
ギルドだってそこまで暇じゃないもの。
何よりこの件で被害に遭うのは、
将来、偽装行為で分不相応のランクになった冒険者自身だしね」
「その点、セレネなら実力だけは今すぐSランクにだってなれるもの。
流石に経験不足だけど、それでも心配なんていらないわ」
「本当はセレネだけで依頼の受注まで出来れば
一番なのだけど、流石に依頼の見極めは無理でしょう?
セレネは冒険者なんてやった事無いのだし」
「言いたいことはわかりますが・・・」
「ノアは真面目だものね」
「まあ、どうしても嫌ならノアちゃんが受注してしまっても良いわ。
ノアちゃんだけなら、本部が気付くのが遅くなる可能性も十分あるし。
そもそも都合の良い依頼が無ければ、そうせざるを得ないしね」
「わかりました。
依頼を見てから判断します。
アルカの言うプランで行けそうなら、
冒険者だと明かさずに済ませます」
「ごめんね。
私のせいで嫌なことをさせてしまって」
「いえ。私こそ我儘言いました。
状況はわかっています。
用心するに越したことはありません」
「ありがとう。お願いね」
ノアちゃんとセレネは冒険者ギルドに入っていった。
まあ、そもそもまともな依頼があるとも限らない。
資金稼ぎが難しそうなら、
何の依頼も受けずに次の町に行くしか無いだろう。
私はリヴィと一緒に町の外で待つ。
下手にナンパでもされて騒ぎが起こると台無しだ。
まあ、子連れでもナンパなんてしてくるのかは知らないけど。
最悪、リヴィに守ってもらおう。
今の私より強いかもしれない。
そこらの冒険者なら私も素手でなんとかなるだろうけど。
ともかく、騒ぎが起きたとしても目立たないようにと、
人のいないところに出てきたのだ。
「ママおしごと?」
「そうよ。セレネと一緒にお仕事中。
もう少ししたら来るから一緒に行きましょうね」
「うん!」
「そういえば、リヴィって魔力と神力両方使えるのよね?
どうやっているのか教えてくれる?」
「え~とね!」
私はリヴィに力の使い方を教わりながら時間を潰す。
一生懸命に説明するリヴィが可愛すぎる!
やっぱり私の事もママって呼んでくれないかしら。
「浮気ですか?」
いつの間にかノアちゃんが背後に立っていた。
「なんでそうなるの?
リヴィと遊んでいただけじゃない」
「アルカがデレデレしている気配が伝わってきました」
「デレデレって言ったって種類が違うでしょ?
小さな子どもに可愛いって思うのは普通の事よ」
「デレていた事は認めるんですね?」
「ノアちゃん。リヴィに嫉妬するのは大人げないわ。
せめて、リヴィの前でそんな事を言うのは止めなさい」
「・・・そうですね」
「ママおこった?」
「いえ。怒ってないですよ。
さあリヴィ、行きましょう。
セレネも待っています」