15-8.娘達の成長
あれから数日かけてようやく一番近い村に辿り着いた。
私達でこれなのだから、
普通の人なら数週間かかっただろう。
あの山どんだけ僻地にあんのよ・・・
「アルカ~!だっこ!」
「はいはい」
リヴィはすっかり抱っこが気に入ったようだ。
ドラゴンの時は一人であっちこっちフラフラしていたのに。
まあ、元々構われるのは好きだから、
気まぐれで抱き上げたせいで味をしめたのだろう。
「リヴィ。ダメですよ。
自分で歩いて下さい」
「え~!ママいじわる!」
「リヴィ!?」
駆け出したリヴィをノアちゃんが追いかけていく。
「リヴィも遂にイヤイヤ期かな」
「今って本当は二歳くらいだものね」
「ドラゴンの時の方が精神年齢高かった気がするけど」
「心が体に引っ張られているのかも」
ノアちゃんは子育てに苦労しているようだ。
とはいえ、本気で追う気も無いようだ。
なんだかんだノアちゃんも楽しんでいるのだろう。
「アルカ~!たすけて~!」
「きゃっち!」
私はハシャギながら駆け込んできたリヴィを抱き上げる。
やっぱ子供って可愛いわよね。
「アルカ!ダメですってば!」
「まあまあ良いじゃない。
私の精神安定の為にもなるわ。
魔王化しないためにも重要よ」
「それを盾にするのは卑怯です!」
「その冗談はダメよアルカ。
次は許さないわ」
「・・・ごめんなさい」
冗談じゃなくて、
割と本気で言っていた事は黙っておこう・・・
結局、ノアちゃんもリヴィの事はそれ以上言わなかった。
残念ながらこの村にギルドは無いが、
ノアちゃんがギルドがある一番近い町を聞いてきてくれた。
そのついでに、
道中で余分に狩った獲物等を旅に必要な道具に交換していった。
本当にしっかりしていらっしゃる。
セレネも臨時の診療所みたいな事をして、
食料や路銀を稼いできた。
この小さな村で得られる量はそれ程でも無いけれど。
私はその間、
リヴィと遊んでいた・・・
あかん・・・
もう大人とか保護者とか口が裂けても言えない・・・
穴があったら入りたい。
二人の活躍で、
あっという間に村に受け入れられた私達は、
その日の寝床も提供してもらえた。
久々に屋根のあるところで寝られる!
夏とはいえ、手ぶら野宿は結構キツイ。
しかも、今まであった魔法が使えないのだ。
万能感とも言うべき感覚が
抜け落ちてしまったような気分になる。
時間が経つに連れて心細さが強くなっていく。
この旅は、なんというか、
肉体的にというより、精神的に辛かった。
こんなの続いたら魔王化しそう。
まだまだ先は長いのだけど。
そう言えば、セレネは随分と逞しくなった。
私達と最初に旅に出た時は、
歩き始めて数分でバテていたのに。
今は普通に付いてこれている。
というか私が付いて行く側だ。
情けない・・・
「アルカ。気にしないの。
アルカは今まで散々私達の事を助けてきたのよ?
今までの旅は全部アルカに頼っていたのだから。
たまには私達にもアルカのお世話をさせて頂戴?」
「ありがとう。頼りにしてる」
私は何も言っていないのに、
セレネは的確に私の心境を察して声をかけてくれる。
最初の頃は空気読めない子と思っててごめん・・・
いつの間にやら精神的にもずっと成長していた。
セレネの場合、最初は境遇のせいで
極端に経験値が少なかっただけだ。
自ら学べるようになった今では
そんなハンデものともしていない。
たった数年で誰よりも賢くなった。
相手の心境を察する能力はノアちゃん以上だろう。
ノアちゃんは若干その辺りはポンコツ化し始めてるけど、
それでも私達の中で誰かと仲良くなるのは一番上手い。
知らない人が相手でもすぐに懐に入っていく。
少しだけ気持ちを察するのが下手になってきたのも、
私と出会う前の、人の顔色を伺わなければ
生きていけなかった頃の癖が抜けてきたのだと思えば、
かえって嬉しいくらいだ。
そして、ノアちゃんは生き残る知識が豊富だ。
身につけた経緯を考えると少し複雑だが、
そんな事は一切気にせずに、
この旅で一番動き回ってくれていた。
水や食料の調達、
寝床の確保、
旅の指針決め。
先行して歩きやすい道を探したりもしてくれた。
いつの間にか、
私よりずっと旅が上手くなっていたのだ。
そんな風に娘達の成長を感じながら、
私達は旅を続けた。