14-23.難題
何とかギルドを抜け出した後は、
ノアちゃんの案内で町を巡っていく。
以前にも滞在した宿屋に連れて行かれて
女将さんにまで冷やかされたりもした。
そうして最後には、
以前ノアちゃんと一緒に来た高台の公園にやってきた。
わざわざ最後に選ぶという事は、
ノアちゃんもここが印象深かったのだろうか。
私達がこの町でデートした時もここが最後だった。
今と同じ様に、夕方までのんびり過ごしたのだ。
あの時はいつかノアちゃんが私より
大きくなるだろうと思っていたけど、
不老魔法を使ってしまったせいでそんな未来は無くなってしまった。
本当にこれで良かったのだろうか。
未だにそんな事を悩み続けている。
そういえば、リヴィに出会うきっかけになった
ドラゴン狩りもここでの会話があったからだった。
二人きりで過ごしたこの場所に今はリヴィとレーネがいる。
たった数年で、
あの時から随分と変わった。
良いことも悪いことも沢山ある。
これからもきっと変わっていく。
それでもノアちゃん達との事だけは後悔したくない。
そう願って努力し続けよう。
そうすればきっと変わってしまっても笑っていられるだろう。
そんな気がする。
今度はセレネも連れてこよう。
特別な場所では無いけれど、
私はなんだかここが気に入ってしまったのかもしれない。
夕方までこの公園で過ごし、
ノアちゃんの案内で以前にも来た店で晩御飯を食べる。
レーネに肉料理あんなに食べさせて大丈夫かしら。
人魚に戻ったら消化不良とか起こさない?
満腹になった皆を抱えてテントに戻る。
食べすぎてぽっこりしたお腹って良いよね。
私のフェチズムが暴走しそうになるのを堪えて、
皆をベットに放り込む。
レーネは今日帰るのは無理そうだ。
ベットに転がした途端、直ぐに眠ってしまった。
仕方がないから王様に外泊許可だけ貰ってこよう。
ダメって言われたら叩き起こす事にしよう。
私は一人で人魚の国に赴き、あっさり許可を得た。
一応地上に行くことは事前に伝えておいて良かった。
隠してたら説明が面倒になる所だった。
なんなら暫く地上で面倒を見てやってくれないかと頼まれてしまった。
いくらなんでも甘やかしすぎじゃない?
私の事も何故そこまで信用してくれるの?
少し国王と話をすると、
人魚の寿命もエルフやドワーフ達と同じ様に数百年はあるそうだ。
しかも、人魚はその二種族に比べて成長が速い。
若い時間が極端に長いそうだ。
長寿種族だからのんびりしている様に感じるのかしら。
エルフのルネルもドワーフのヘパス爺さんも
年寄りだから泰然としているのかと思っていたけど、
種族的な特徴でもあるのかもしれない。
エルフの国の人々も似たような所はある。
彼らは彼らで殆どが豪快な気質だからか、
年寄の落ち着きは打ち消されてしまっているけど。
それでも、細かい事を気にしない所は似通っている気がする。
そこでさらに判明したのだが、
王様の言う暫くって数十年単位の事だった。
たまに顔を見せてくれればそれで良いそうだ。
レーネの事を大切にするあまり、
世間知らずに育ててしまった事を気にしているらしい。
とはいえ、年齢的にはまだ赤子同然だろうに。
そんな事を聞くと、
人魚達は幼少期に形成された性格から
殆ど一生変わらないのだと言う。
閉じたこの国にいては、
レーネもずっとあのままだろうとの事だった。
それに、家出の事もある。
大昔の外敵が多かった頃ならともかく、
今の平和な世代の、
好奇心旺盛な人魚達にはよくある事だそうだ。
それでレーネの家出も仕方が無い事だと半ば諦めていたようだ。
けれど今のレーネでは、
外に出てもそう長くは生き延びられないだろう。
それで私が保護してくれるのなら安心できると喜んでいた。
ついでに社会勉強もしてくれるなら万々歳だとも。
流石に頼まれた内容が重すぎる・・・
そんな気軽に娘さんは預かれない。
返事は保留という事にして
その場は下がらせてもらった。
さて、ノアちゃんとセレネにどう話そうかしら。
言い方を間違えると怒られるだろう。
これで私が責められるのは流石に酷いと思う。
一人で来たのは良かったのか悪かったのか。
少なくともレーネがこの場にいなくて良かった。
本人にまで頼まれたら押し切られる可能性も高かっただろう。
というか、王様もレーネがいないから、
あそこまで話したのだろう。
一応気を使ってくれたのだろう。
ノアちゃんだけ来てくれたらもっと良かったかもしれない。
少なくとも私一人よりは後の説明がややこしくならなくて済んだだろう。
まあ、ノアちゃんもお腹を膨らましてひっくり返っていたから、
言っても意味ないのだけど。
ああ、あのぽっこりお腹撫で回して現実逃避したい。
少し憂鬱になりながら、
私はテントに帰還した。