14-8.海底の国
『お待たせいたしました。
皆様どうぞお越し下さい』
戻ってきたレーネは何人もの従者を連れていた。
もしかしたら見張られているのかしら。
また姫が家出したら堪らないものね。
私達は彼女たちについて人魚の国に入っていく。
随分あっさりしたものだ。
それにこの場にいる人魚達からは敵意を感じない。
最初の兵達ですら必要だからああ言っただけかのように、
警戒心はあれど、敵意は向けてこない。
どちらかと言うと好奇心が強いの?
なんかあっさりスルーされてたけど、
リヴィも同じようなものだ。
けど、私達に向けての視線の方が多いくらいだ。
リヴィが何か気付いていないのだろうか。
それとも魔物も友達なの?
なんだかチグハグだ。
さっきの態度はなんだったのだろうか。
国の中央辺りにある、
クジラのような巨大な生物の骨を利用した建物が目的地だった。
私はノアちゃんとセレネと手を繋いで続いていく。
何かあれば何時でも転移で逃げられる。
とりあえずもう少し様子を見てみよう。
玉座の間みたいな雰囲気の部屋に通されると、
兵や従者達は一斉に去っていった。
この場には王様夫婦らしき人達とレーネ、
そして私達だけが残された。
そんな不用意な事をする理由は王様達を視ればわかった。
王様夫婦はこの地の誰よりも強いのだろう。
なんだったら、私達ともそれなりに戦えるかもしれない。
水中なら。
『良くぞ参られたお客人』
セレネとノアちゃんの反応を見る限り、
この念話は二人にも届いているようだ。
複数人に指向性を持たせる事もできるのか。
私も試してみよう。
『こちらこそ。突然押しかけて悪いわね』
言葉遣い不味かったかしら。
ノアちゃんとセレネが脇腹つついてきた。
とりあえず二人にも聞こえているようだ。
『気にすることはない。
娘の恩人だ。歓迎しよう。
それに誰もが興味を持っていただろう?』
『そうね。兵隊さんは何か気にしていたけど良いの?』
『彼らはそれが役目なのでな。
不快な思いをさせたのなら悪いことをした』
『大昔の話だ。
我々は人間に狙われていた時代がある。
だが、今の世代はその事を伝聞でしか知らなんだ。
我々は元々の性質が享楽的なのでな。
昔話の恐怖より眼の前の興味が勝ってしまうのだよ』
『それは安心したわ。
余計な混乱を振りまくつもりは無いもの』
『問題ない。
お主達からは邪気を感じん』
『随分とあっさり信じるのね』
『こうして話をすればわかるというもの。
別に言葉遣いを気にする必要はないぞ。
お主達は外の住人なのだから』
今のはセレネとノアちゃんに向けて言ったようだ。
この人心が読めるの?
『表層だけだがな。
お主こそ我々と流暢に会話できる割には馴染んでおらんな?
何か急ごしらえなのか?興味深い』
念話の事?
適当に生み出した魔法だから詳しくは知らないわ。
それにたまたま会話出来ているだけだもの。
同じ方法なのかもわからない。
『なるほど。
おそらくその魔術とやっている事の根幹は同じだ。
というより魔術で擬似的に再現しているのではないかね?』
勝手に私の思考と会話しないで欲しい。
『これは済まない。
だが、会話できるのであれば、
防ぐ方法もわかるのではないか?』
私は念話魔法を調整してかけ直す。
『それで良い。
余計なものは聞こえなくなった』
どうやら上手くいったようだ。
ならば逆に念話技術の無い相手なら心を一方的に読めるのかもしれない。
さっきセレネに試した時は一方通行だったけど、
調整が効くなら方法もあるのかもしれない。
ノアちゃんにも言ったように普段使いはしたくないが、
今度ノアちゃんとの模擬戦で試してみよう。
思考が覗けるようになれば
位置の予測も可能になるだろう。
それから暫く王様たちから様々な質問をされた。
そしてセレネが感じた疑問も読み取って答えていく王様。
セレネはなんだか心が読まれる事すら
利用して楽しんでいるけど、
ノアちゃんはやりづらそうにしている。
読心妨害の魔術を色々試してみる。
なかなか上手く行かず、
心を読まれなく出来ても、
念話自体も聞こえなくなってしまう。
その後、私達の様子に気付いた王様から
またもアドバイスを貰って魔法を修正していく。
その結果、読心妨害だけでなく
予めかけておく必要はあるものの、
ノアちゃんとセレネとも念話で会話できるようになった。
王様の御膳でだいぶ失礼な事してたと思うけど、
気にせずにアドバイスまでくれるなんて寛容な王様だ。
そこからは、今まで大人しく待っていたレーネと王妃様も加えて全員で話を始めた。
本人達の言う通り、人間や地上の事に興味津津のようだ。




