14-7.姫
私はノアちゃんとリヴィも呼んで全員で人魚さんに付いていく。
人魚さんを見たノアちゃんが驚いた後、
私を見て言った。
「一日持ちませんでしたね」
どうやら厄介事になると踏んでいるようだ。
折角の楽しい休日が終わりそうだと言いたいのだろう。
そうね。私もそう思うわ。
セレネは人魚さんに興味を持ったようだ。
人魚の町に向かって歩きながら、
私を介して会話を始める。
「あなたのお名前は?
私達はアルカとセレネ、ノアとリヴィア」
順に示していくセレネの動きに合わせて紹介していく。
『レイネスです!レーネって呼んで下さい!』
「レーネさんね!よろしくね!
レーネさんは何故あんな場所に一人でいたの?」
『こちらこそ!こちらこそです!!
それが・・・ちょっと冒険に!冒険の旅に出ていました!』
レーネは何故あの場に倒れていたのか聞かれて大いに慌てだした。
「冒険?
それは悪いことをしてしまったわね。
ごめんね。帰るの嫌だったら止めておく?」
セレネもレーネの狼狽えぶりから察したようだ。
レーネは念話で会話しているくせに、
言葉だけでなく、身振り手振りも激しい。
その度に大きな胸が揺れている。
セレネが興味持った理由じゃないわよね?
ママそう言うのイケナイと思うの。
セレネには専用のがあるでしょう?
それにしても、この子家出娘かしら。
まあ、たった三日で行倒れているようなら帰るべきね。
けどその状況で家出を続けるなんて、
意外と根性あるのかもしれない。
単に道に迷って帰れないというわけではなさそうだ。
案内に迷いがない。
真っ直ぐに町に向かっているのだろう。
罠にかけようと、別の場所に向かっているので無ければ。
『大丈夫です!そろそろ帰るつもりでした!
決心がつきました!』
なんか罠とか考えそうにないわねこの子。
申し訳ないと態度で見せたセレネを見て、
慌てて元気づけようとするレーネ。
言葉は通じてないけど、
近い内に身振りだけでなんとかなるんじゃないかしら。
「ありがとう!
じゃあ改めてお願いね!」
『はい!行きましょう!レッツゴーです!』
「どれくらいかかるの?」
『このペースで真っ直ぐ帰れば二、三日位です』
レーネは私達の歩く速度に合わせてくれている。
ちゃんと泳いだらもっと速いだろうし、
何も食べていないのは三日間と言っていたから、
もっと遠いのかと思っていた。
「そうよね・・・
けれど困ってしまったわ。
私は今晩帰らなければ行けないの」
『なら急ぎます!
ついてこれますか?大丈夫ですか?』
「アルカお願いできる?」
「お安い御用よ」
私はセレネとノアちゃんと手を繋ぐ。
リヴィはノアちゃんが抱え込んだ。
レーネに合図して、
凄い速さで泳ぎ出したレーネに魔法でついていく。
飛行魔法の応用で上手くいったようだ。
そうして一時間くらいで町らしきものが見えてきた。
色とりどりの貝殻やサンゴのようなもので作られた建物が見える。
町の近くまで来た所で、
三叉の槍を持った隊長らしき人に連れられて、
数人の兵士達っぽいのが現れた。
『レイネス姫!良くぞご無事で!!
それに人間!?何だ貴様らは!』
『彼女たちは私の恩人です!
無礼は許しません!』
レーネが先程までのハイテンションが嘘のように、
兵士達の前に立ちふさがって命令を下す。
『しかし!
姫は何故この者らをお連れしたのですか!
人間はなりません!
例え恩人でも迎えるわけにはいかないのです!』
『わかっています。
私は父と直接話して来ます。
ここで彼女たちをお願いします。
くれぐれも丁重に!』
『かっかしこまりました!』
『アルカ様すみません。
私はアルカ様達の入国許可を取ってまいります。
どうかこちらでお待ち下さい』
『わかった』
レーネは私にまで丁寧な態度を続けたままそう言った。
オン・オフの差が激しすぎませんか?
というか、つい流してしまったけど、
あなたお姫様だったの?
お姫様の家出って思っていた以上に大事じゃない。
もう帰って良いかしら。
「アルカ?レーネはなんて?」
私はセレネとノアちゃんにも状況を伝える。
いきなり抱き合って内緒話を始めた私達に、
兵士達が少し慌てたような反応をするが、
水中で会話するためには仕方がない。
「アルカ・・・」
「そんな風に思うのは良くないわノア」
どう思ったのかな?
「セレネこそ何でそんなに嬉しそうなんですか」
「だってお姫様よ!」
「アリアだって姫じゃないですか」
「アリアちゃんと私はほんの少ししか会ってないじゃない。
それに人魚のお姫様よ!物語みたいじゃない!」
え!?あるの?
こっちの世界にもそれあるの?
「知りませんよ・・・」
まあ、ノアちゃん本読まないし。
それに小さい頃に親から寝物語を聞かせてもらう
余裕も無かっただろうしね。
「それに良いんですか?
姫って事は家出するのにも相当苦労したんじゃないですか?
それをこちらの都合で帰してしまったのは
レーネに悪いことをしたんじゃないですか?」
「いざとなったら拐ってしまいましょう!」
「変なこと言わないで下さい。
アルカに惚れられたらどうするんですか!」
「そうね。あのお胸は脅威だものね。
うっかりしていたわ」
「何言ってるのよ二人とも。
私がノアちゃんとセレネ以外にデレデレするわけないじゃない」
「アリアに絆されそうになってましたよね」
「それはノアちゃんもでしょ!
というか、その件は互いに心に来るから止めておきましょう」
「確かにそれはありますが!
知っているんですよ!
アルカあれから何度もアリア達に会ってますよね!」
「え!?何でノアちゃんが知って!は!」
「アルカ!やっぱり!」
カマかけられた!?
「ちょっとどう言う事か詳しく聞く必要がありそうね」
「いやでも、会いに来るって約束したし・・・」
「じゃあ何で私に黙っていたのでしょうか?
何もやましいことが無ければ必要ありませんよね?」
「いや、それは・・・
あんな事があってノアちゃんも辛いかなって・・・」
「どうやら本当に私に気を使ったようですね。
けど、最近はそれだけでも無いですね?」
「ノアちゃん!?感情読む力は使わないって言ったのに!」
「使い所を間違わないと約束しただけです。
使うこと自体はアルカも良いと言ったはずです。
それで?何故いつまでも私を呼ばなかったのですか?
言っておきますが、嘘はわかりますよ?」
「うぐ・・・」
「黙ってやり過ごすのは良くないと思うの」
「ぐっ・・・
最初はノアちゃんに気を使って一人で行ったのだけど、
繰り返す内にこっそり浮気してるみたいだなと思って
言い出せなかったの・・・」
「それでコソコソしてたら意味ないじゃないですか!」
「ごめんなさい・・・」
「次からは私も連れて行ってもらいますよ!」
「もちろん!アリアも喜ぶわ!」
「それはそれとして」
「今晩にでもゆっくり話しをしましょうか」
「ちょっと時間はかかるかもしれませんね」
「大丈夫よ。明日の朝までに教会に帰れれば良いわ」
「ではそういう事で」
「はい・・・」