14-6.行倒れ
私とセレネは警戒しながら行倒れに近づいていく。
周囲に危険な存在はいないようだ。
けれど、セレネのように覚視を妨害できる存在もいるかもしれないので警戒は解かないようにする。
行倒れはスタイルの良い女性だ。
でも顔つきは幼い感じだ。
見た目より若そうな気がする。
そして、下半身が魚だった。
人魚!!!
いたの!?
この世界に存在したとは知らなかった。
どうやらまだ息があるようだ。
助け起こして会話を試みる。
言葉通じるのかしら・・・
意識を失っているようで何の反応も無い。
どうしよう。
何が必要なのだろう。
真水とか?
海中に住む生物に必要無いわよね・・・
食料って海産物が良いのかしら。
残念ながらさっき買ったのはもう禄に残っていない。
いきなりホタテの醤油焼きなんてあげて大丈夫なの?
普通、人間の行倒れ相手ならおかゆとか消化の良いものからよね。
試しに焼きホタテを収納空間から取り出してみる。
行倒れから反応が返ってきた。
匂いでも感じているのだろうか。
恐る恐る口に運ぶとパクっと食いついた。
目は開いていないのにもぐもぐしている。
いくつか食べると、かっと目を見開いた。
『なんですか!なんですか!
これはなんですか!美味しいです!美味です!』
頭に大声が響く。
これもしかして念話?
なんてタイムリー。
もうツッコまないゾ!
『ホタテ醤油焼き』
念話もコミュ障仕様なの?
というか、この貝の名前ホタテじゃ無かったわ。
この世界での名前忘れちゃったからまあ良いか。
そもそも人間と人魚が同じ呼び方するとも限らないし。
『ホタテ!しょうゆ!なんだかわからないけど憶えました!憶えましたよ!』
この人うるさい。
テンション高い系の人っぽい。
『行倒れ?』
『そうです!そうなんです!
もう三日も何も食べてなかったんです!!』
ベタねぇ・・
というか、そこら中に貝や魚いるじゃない。
『食べませんよ!皆お友達です!友達なんです!
何言ってるんですか!あれ?人間?
よく見ると人間さんですか?ですね!!』
・・・やっべ。食べさせちゃった。
ホタテとしか言ってないから貝だとはわかってないのかしら。
え?じゃあ普段何食って生きてるの?
『お家にはいっぱい食べ物ありました!あったんです!』
だから何がよ・・・
まあ、面倒だからもう良いや。
私は収納空間から、
試しに肉の串焼きを出して渡す。
謎の人魚さんは躊躇いなく食らいついた。
相当腹ペコだったようだ。
『人間さん凄いです!凄すぎです!
美味しい食べ物いっぱい出てきます!
不思議です!不思議です!』
『少し落ち着いて。うるさい』
ついうっかりストレートに言ってしまった。
『ごめんなさい!おかわりください!ください!』
全然気にしていなかった。
聞けや。
私は彼女が満足するまで串焼きを差し出していく。
『満足しました!感謝です!何かお礼させて下さい!』
ちょっとテンションが落ち着いたようだ。
『必要ない。じゃあね』
もう用はなかろう。
ちょっとあなたのテンションは辛いわ・・・
私はセレネの手を引いて歩き出す。
セレネが良いの?って顔で見て来た。
「とりあえず元気になったみたいだから大丈夫だと思うわ」
「あの子付いてくるよ?」
「・・・転移して逃げても良いと思う?」
「可愛そうじゃない。
それにちょっと興味があるわ。
海底の町とか見てみたいの」
ぐぬぬ・・・
可愛い可愛いセレネからおねだりされたら聞くしか無いわ!
『待って!待って下さい!』
『・・・なら、あなたの住んでる町に案内して』
私は振り向いて人魚さんにそう伝える。
『それは・・・わかりました。
恩人さんの願いです!了承です!』