14-2.使い所
旅立ってから数日が経過した。
もうすぐ目的地だ。
丁度セレネの来る日に間に合うだろう。
寄り道しても良いとは思っていたけど、
このあたり何にも無かった。
未開拓地に一番近い町からなんとなくで歩き始めてしまったから、
まだこの辺りは町も人も少ないのだ。
「なんだか不思議な匂いがしますね」
「ふふふ!それが目的地の証なのです!」
「なんでそんなにテンションが高いんですか?」
「いや、なんとなく盛り上げようかなって。
最近変わったことも無かったし」
「そんな毎回妙なことがあっても困ります。
こうしてアルカと手を繋いで歩くだけで私は嬉しいです」
ノアたん!ハアハア!
「ダメですよ。
まだ明るいんですから」
「まだ何も言ってないわ!」
「アルカの感情はだいぶ視えるようになってきました」
普段から覚視使って私視てるの!?
とう言うか、何しれっと感情まで読み取ってるの?
私そんな事出来ないよ?
ノアちゃん視ても神力纏ってる事と、
私にめっちゃ意識向けてる事くらいしか分からないよ?
「アルカの事しか視えませんよ?
まあ、セレネには必要ないですけど」
ノアちゃんとセレネはパスで互いの感情が常に感じられるものね。
「というよりも、
視えても細かい感情の区別がつかないんです。
敵意とか喜びとかでも人によってなんだか視え方が違うようなんです。
それに、アルカ以外は曖昧にしか視えないですし」
「それでここ数日専念してみて、
ようやくアルカの細かい感情の区別がつくようになった所なんです」
「そんな事してたなんて、全然気付かなかったわ」
「それはまあ元・ア・カの・ばかり見・・すから」
「なんて?」
「いえ。それより!
これでもうアルカは私に隠し事なんて出来ないんですからね!」
「そんな事したっけ?」
「良く言いますね!
アルカはしょっちゅう隠し事するじゃないですか!
この期に及んで目的地も言ってないですし」
「それは、単にノアちゃんに驚いて欲しいからよ。
ノアちゃんの反応がとっても楽しみなの」
「うぐ・・・確かにそう思っていますね。
けど、なんか少しだけイタズラ心も視えますよ?」
「それはもちろんあるわよ。
ノアちゃんが驚く事は私の楽しみでもあるし、
単にそこから喜びに繋がって欲しいのもある。
人の感情なんてそんなものよ?」
「・・・みたいですね」
「それで視るのは止めたほうが良いと思う。
好きな人の事をもっと知りたいって思うのは普通の事だけど、
好きな人の為に隠しておきたいと思う気持ちだって普通の事よ?
その気持を無碍にするような使い方は感心しないわ」
「・・・そうですね。
普段は使わないようにします」
「それが良いと思う。
セレネともそれなりに長い事繋がっているのだから、
感情がわかってしまう事で起こる問題については
言うまでもなくノアちゃんも知っているものね」
「そうでした・・・
軽率な事をしてすみません」
「ううん。
ノアちゃんがそれだけ私の事を強く想ってくれて嬉しい」
「それにもっと使いこなせば戦いにも使える力でしょう?
自分の得意なことを伸ばすのは大事なことよ。
だから使い所だけ間違えなければ良いと思うわ」
「はい・・・」
「さあ、気を取り直して先に進みましょう。
目的地はもうすぐよ!
リヴィにも追いつかなきゃ」
私はノアちゃんの手を引いて、
今度は前を歩く。
こうして手を繋いでいれば、
常にどちらかが手を引ける。
少しくらい落ち込んだってへっちゃらだ。
二人とも落ち込んでしまったら、
セレネを呼んでしまおう。
きっと引っ張ってくれる。
セレネが落ち込んでいたら私達が手を引きに行こう。
ノアちゃんにはそれが何時でもわかるのだから。
それ自体はきっと悪いことなんかじゃ無いもの。
今ならそう思える。
それにしても、
リヴィはどこに行ってしまったのかしら。
真っ直ぐに飛んで行ったのは見てたけど、
もう私の知覚範囲外に出てしまった。
ノアちゃんが慌てていないからまだそう離れてはいないのだろうけど。
いくら人がいないからって、
魔物のリヴィがあまり単独行動してしまうのも困りものだ。
好奇心旺盛だから、
ついフラフラと飛んでいってしまう。
きっと海が近いことに気付いて
見に行ってしまったのだろう。
早速リヴィは喜んでくれたようだ。
きっと今日中には着けるだろう。
明るい内に辿り着けるように少し急ぐとしよう。
私はノアちゃんの手を引いて走り出す。
私の突然の行動に驚いたようだけど、
ノアちゃんは少しずつ自分からも走り出していく。
途中から私が手を引かれながら走り続ける。
そうして、
遂に目的地に到着した。




