2-7.聖女
約束の日の前日、この町のギルドに呼び出された。
どうやらあらかじめ聖女と面会して欲しいそうだ。
そのまま教会までギルド職員に案内された。
そして今度は教会の人に案内される事になったのだが、
教会の人はノアちゃんの顔を見た瞬間驚きの表情を浮かべた。
その後、結局何も言わず教会内の一室に通された。
何この態度?悪意がありそうな感じはしないけど良い気分じゃない。
そこからしばらくして、遂に聖女が現れた。
「「「え!?」」」
!??????
私、ノアちゃん、聖女の三人は驚きに固まる。
聖女はノアちゃんにそっくりだった。
人族と獣人族の違いはあれど、
背丈も顔立ちも髪の色も瓜二つ。
違うのは耳と尻尾と瞳だけだ。
それ以外は鏡写しのようにそっくりだった。
「失礼いたしました。改めまして、
この度は急なお呼び立てにもかかわらず、
ご快諾いただき誠にありがとうございます。」
流石聖女様、思わぬ事態に驚愕したものの、
いち早く正気に戻ったらしい。
「どうぞ、おかけください。
少々お話させていただきたい事がございますので」
そう言うと聖女は私達以外の人間を全て退室させた。
「護衛まで下がらせちゃって良いの?」
ようやく正気に戻った私が質問する。
「ええ。構いません。貴方がたは信用できると確信しておりますから。」
「そう。それが今回私が呼ばれた理由と関係があるのね?」
「そのとおりです。」
「わかった。話を聞くわ」
「ありがとうございます。」
「ちなみに一つだけ先に聞かせて欲しいのだけど、
その前にこの子はノアちゃん。私の相棒よ。
聖女様とそっくりなのは偶然なのよね?」
「ええ。そのとおりです。私も驚きました。
ノア様のお名前だけはギルドを通して伺っていたのですが。」
「そうよね・・・」
仕込みにしても意味がわからないから、
本当に偶然なのだろうとは思う。
見た目そっくり、言葉遣い丁寧だとキャラ被るのよ!
聖女の方がより丁寧だけど!
どっちか口調変えてくれない!?
というかあまりの衝撃に私普通に喋れてる!?
なにこれ初めて!初対面なのに!
顔がノアちゃんそっくりだからかな?
違う。この聖女に強い警戒心を抱いちゃったからだこれ。
いくらなんでもこれは良くない。
相手に明確な落ち度があるわけでも無いのに。
「では、私の方からもお話させていただいて宜しいでしょうか。」
「遮って悪かったわ。続けて。」
「はい。それではお話致します。
この度、私共が向かうのは聖地への巡礼の旅となります。
そして、アルカ様の事を知ったのは神託が下ったためです。
神託の内容は、巡礼の旅に同行させよというものでした。
具体的に何が起こるかは分かっていません。」
「ただ、神託が下った以上は何かしらが起こるのは
間違いないと考えております。」
「それでなんで信用できる事になるの?」
「神託が聖女を害するものであるはずが無いからです。」
わかるような、わからないような理屈だ。
少なくともこの聖女にとってはそれで十分なのだろう。
「つまり私達は側にいるだけで良いのね?」
「ええ。その通りです。護衛の戦力は既に十分揃っておりますので、
ただ旅を共にしていただければ、それで十分でございます。」
だから、「信頼」ではなく「信用」なのね。
意図して使い分けたのかは知らないけど。
まあ、いきなり見ず知らずの人に信頼されても怖いけど。
なるほど。
よくわからない。事がわかった。
少なくとも私にとっては何一つ確信の持てる話ではなかった。
神託なんて本当にあるのだろうか。
まあ、私が異世界から来てるのだし、
神くらいいるのだろう。
私は会った記憶は無いけど。
いきなり異世界に放り込んだんだから
顔くらい見せろと思わなくもない。
ともかく、なんで呼ばれたかは腑に落ちた。
聖女がその神託を信じているからだ。
納得いかない部分も無いではないけど。
こうしていきなり聖女と護衛も無しに密室で放置されているあたり、
少なくともこの聖女の影響下にある人は
神託の内容か聖女の事を信じているのだろう。
この聖女の言う事を信じるならば、
私に危害を加える者はいないはずだ。
ノアちゃんは大丈夫だろうか。
話を聞く限り、神託とは関係無いのだろう。
聖女もノアちゃんの事はギルド以外から聞いている様子は無い。
周囲の人間はどうだろう?
聖女にそっくりなノアちゃんを危険視して、
危害を加える者は現れないだろうか。
一応、こっちは用心しておくべきだろう。
「とりあえず、依頼の内容は承知したわ。」
「では明日よりの道中、宜しくお願い致します。」