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13-23.話し合い

私はギルドから派遣された職員と向かい合う。



驚いた事に来たのはサラさんの上司の男だった。

テッサの町に援軍を派遣してくれた人だ。

名前はユーリスさんというそうだ。


私の味方だと名言していたから、

この件からは外されているものと思っていた。



「あなたが来るとは思っていなかったわ」


「この地に干渉したがっている者達の

手先ではないのが不思議かな?」


「まさかあなたもそうなの?」


「もちろんそれは違う。

単に君に関わる案件に関して、

私達が担当しているだけだ」


「まだ私を冒険者として扱っているの?」


「少なくとも除名はしていないよ?

君が差し出したものにはそれだけの価値があったからね」


「つまりギルドは

この期に及んで私を国王としてではなく、

一冒険者として扱うと主張したいわけね」


「・・・否定はできないな」


「随分と舐められたものね。

それで?今日は何の用事なの?

それなりの役職を送り込んで来てまで

冒険者アルカにやらせたい事があるのでしょう?」


「いや、これに関してはプラナ国の国王として聞いて頂きたい」


「それは虫が良すぎない?

どうせ転移装置のことでしょう?

まさか返してくれる気にでもなったの?」


「あれは敵組織から押収したものだ。

返すという事は組織としての罪も引き受けるのかな?」


「それは飛躍しすぎでしょ?

あれは六百年も前にこの地で生み出された物よ。

例の組織がこの地ごと奪った可能性だって否定はできないわ。

そんな大昔の記録までは残っていなかったのだし」


「六百年前の所有権を主張するのは無茶だと思わないかな?」


「それでもこの地にとっては重要だもの。

多少の無茶は必要よ」



「残念ながら返すわけにはいかない。

そうではなく、あれをギルド本部に設置して欲しい」


「君がいなければこの地は成り立たない。

何時までも転移装置を放って置くわけにもいかないだろう。

装置は我々が責任を持って管理すると約束しよう。

今後は生活に必要な物は転移装置を使って集めてもらって構わない。

君達にとっても良い提案だと思うのだが」


今度は通行料でも取るつもりかしら。



「なら必要ないわ。

そんな事をすればこの地はギルドに縛られる事になる。

それは多少の無茶では済まないことよ」


「この地も自給自足が可能な程度には

農作も上手くいっているもの。森の資源も豊富よ。

たとえ私がこの場を離れても彼らはやっていけるわ」



「それではこの地が完全に孤立してしまうではないか」


「最悪の場合はそうするしかないでしょうね。

大丈夫よ六百年も続けてきたのだもの。

もう六百年くらいならこの平和も続くわ」


「それは楽観的すぎると思うのだが?

不作でも起きればその年すら生き延びれまい」


「少なくとも後数年は面倒を見るつもりよ。

まだ万全とは言い難いけれど

その辺りの対策も十分に考えてあるわ」


「それは本当に数年で済むのかな?

君は一体どれ程この地に留まる事になるのだろうね。

まだ幼い娘もいるそうじゃないか。

しかもその一人は教会の聖女だと聞く。

君だって側にいてあげたいのだろう?」


「それは従わなければ手を出すと脅しているつもり?」


まあ、今のセレネに傷をつけられる者など、

Sランク冒険者にだっていないだろうけど。



「まさか。我々は君の味方だ。

そんな事はしないとも。我々はね」


「そう考える者達もいると言いたいわけね。

それが私が舐められてる理由なのかしら」


「君は抱えるものが多すぎる。

少しは減らしていくべきでは無いだろうか」


つまり娘たちの為に、

この地を切り捨てろと?



「随分直接的な物言いね。

本当にあなたは私の味方のつもりなの?」


「少なくとも我々はそうしたいと思っている。

この場に来たのも、我々なら穏便に済ませられると信じているからだ」


「それはお気遣いどうも。

けど、例え娘達を人質に取られてもこの地を今すぐ見捨てるつもりなんてないわ。

託せる相手でもいない限りね」


「ならば我々に託してみないか?」


「あなた達はともかく、

今のギルドは無理よ。

私はもっと崇高なものだと思ってたのに。

とんだ期待外れだったわ」


私の言葉に触発されたのか、

ユーリスさんは熱の籠もった口調で語りだした。



「なるほど。

君の気持ちもわかる。

今のギルドに発足当初の正義など無い」


「始めは魔物達はもっと身近な存在だった。

なんとか作り上げた街道には魔物が出没し人々を襲った。

ダンジョンからは頻繁に魔物が溢れ出していた。

町を襲う魔物すらいたほどだ」


「ギルドはそんな魔物達から人々を守るために生まれたのだ。

そのためのギルドだったはずなのだ。

いつからか魔物達は人間に近づかなくなっていった。

存在意義を見失ったギルドは、

逆に魔物達の棲家に攻め入っていった」


「今は魔物退治を金儲け程度にしか考えていない。

ダンジョンは脅威ではなく、資源に変わった。

魔物達は素材の為に狩られるようになった」


「ギルドも変わっていってしまった。

君が信用できないのもよく分かる」


ユーリスさんもギルドの在り方には憤りを感じているのだろう。

少なくとも口調からはそう伝わる。



「それで?

その変わってしまったギルドなんかに任せてこの地の人々は幸せになれるの?

搾取され、食い散らかされるなんて絶対に許さないわよ」


「大丈夫だ。

この地の人々には価値がある。

欲深い者達も粗雑には扱わない」


「そして、腐ってもギルドは人々のための組織だ。

我々のようにまだそう考えている人間もいる。

我々がこの地を荒らす事など許さない」


「あなたにそこまで言い切れるだけの力はあるの?

この場で約束できる権限があるの?

私を冒険者としてしか見ていないのに、

国と約束を交わす準備が出来ているの?」


「私がギルドを説得してみせよう。

どうか時間をくれないか?」


「なぜあなたがそこまでする必要があるの?

この地になんの関係も無いでしょう?」


「君のためだ。

我々は君に恩がある。

君が守りたいと思うものの為に力を貸したいと思っている。

何よりも、君がこの地で縛られているのは世界の損失だ。

君には世界を、人々を救う意思がある。

それを手伝いたいのだよ」


「買いかぶりすぎね。

私にそんなつもりは無いわ。

ただ降り掛かってきた火の粉を払っていただけよ」


「それだけでは説明出来ないほどの功績を君は残している。

現に、今こうして国を背負ってまで人々を救っているではないか。

ギルドから離脱してでも必要だと判断したではないか。

君はそうして既に何度も人々を救ってきた。

これからもそれは変わらない。

少なくとも我々はそう考えている」


「・・・そう。

じゃあ精々頑張ってもらおうかしら」



私はユーリスさんとの会話を終えて、

一旦本部に送り返した。

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