13-22.一年の成果
ノアちゃんとセレネの身長はあれから伸びていない。
私が不老魔法を使ったことはあっさりバレてしまった。
というかついうっかり口を滑らせてしまったのだ。
私が母娘らしい関係に拘っていたせいで、
セレネが身長が追いついて来た事を気にしてしまった。
元気づけようとつい軽口のつもりで言ってしまったせいで、
絶対に自分達にもかけるようにと説得されてしまったのだ。
連日セレネとノアちゃんに詰め寄られて、
耐えられなくなった私は遂に使ってしまった。
この件は私も断固拒否は出来なかった。
それ程に二人と変わらずに何時までも生きていけるのは魅力的だった。
けれど、絶対に良いことだけでは無いはずだ。
周囲の人達との差も生まれるし、
今後の心の成長にも影響があるかもしれない。
こんな魔法を気軽に生み出すべきでは無かったのかもしれない。
いつか後悔する時はきっと来るだろう。
それでも欲望に抗えなかった。
二人の身長はこの一年近くの間変わっておらず、
私の肩を過ぎた所で止まっている。
図らずも不老魔術が本物であることも証明されたのだった。
二人は成長が止まったことで周囲に不自然に思われる事よりも、
私と今の関係のまま一緒に居続ける事の方が大事だと言う。
どうやら二人も私の娘でいることも望んでくれているようだ。
私がロリコンだからじゃないよね?
ともかく、ちゃんと解く魔法は作っておこう・・・
それに格好良く成長したノアちゃんに
上から迫られたら逃げられないかもしれない。
美しく成長したセレネに甘やかされたらダメになりそう。
でもやっぱり、そんな二人も見てみたい。
いつか二人が許してくれたら魔法を解いて成長してもらおう。
母としては、娘たちが大人になるところも見たいのだから。
リヴィには使ってないのに、
生後一年半以上経っても、全然成長しない。
いくらなんでも遅すぎない?
食べ物が悪いのかしら。
もしかして魔石でも食べなきゃダメだったりするの?
一応この辺りの魔物にも勝てるくらいには強くなったけど、
リヴィは調理していないものは口にしない。
野生など最初から無かった。
一応、力はどんどん成長しているので、
完全に止まっているわけではないのだけど。
ただサイズだけが変わらないのだ。
魔力や神力も格段に成長した。
神力はどこから得ているのだろう。
多分最大値を上げられるのは神だけだと思うのだけど。
セレネからでも貰っているのかしら。
ノアちゃんとセレネも身体的な成長は止まっても、
戦闘能力は格段に成長した。
最近は、
ノアちゃん&リヴィ
VS
私&セレネ
で模擬戦をしている。
もちろん抱き寄せ魔法は使用禁止だ。
セレネに守りと妨害を任せて探知魔法も併用してなんとか捕捉している。
セレネはノアちゃんの妨害がとっても上手い。
ノアちゃんもセレネの強固な結界を簡単に割っていく。
リヴィも意外と器用にセレネや私の邪魔をしてノアちゃんをサポートしている。
この組み合わせはそれなりに接戦になるので楽しめる。
他の組み合わせだと大体一方的になってしまう。
ノアちゃんはそれだけ強くなった。
セレネも頑張ってはいるが、いかんせん相性が悪い。
ノアちゃんは何でも見抜く上に捕捉出来ないほど速いし、
その上で結界破りまで使える。
徹底的にセレネをメタってしまっている。
私は二人の届かない上空から範囲攻撃したり、
抱き寄せる魔法で強制的に無力化したり、
転移で逃げたり、
手段を選ばなければいくらかやりようはあるのだが、
模擬戦の形式だと難しい。
ルールがあるとセレネの結界の上から攻撃を通す火力も無いし、
結界を転移させるのも触れなければならない。
セレネもそれはわかっているので、
なかなか近づかせてくれない。
数十枚の複層結界とかどうしろと・・・
それを紙切れのように切り裂いていくノアちゃんも大概だけど。
近い内にこのメンバーだけで模擬戦を続けるのは難しくなるかもしれない。
クレアでも混ぜてみようかしら。
今ならノアちゃんも勝てるかもしれない。
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私はグリアと最後の詰めに向けて打ち合わせを重ねていく。
人々も十分な技能を身に着けた。
爺さんももうピレウスに帰っていった。
また転移装置の移設の時は力を貸してもらうけど。
とはいえできる限り姿を見られない方が良いだろう。
生きたドワーフなど本部に知られれば良からぬ事を考える者も出てくるはずだ。
移設作業の時もそのための準備は万端だ。
この地の危険な要素も完全に取り除いた。
もう危険な要素は無いはずだ。
転移装置については管理者エリア側の片方は
修復不可能な程に破壊したことにしてある。
保管庫エリア側の移設なら出来る事にして、
繋がっていた商会の摘発もギルドを通して行い、
転移装置の接収も成功した。
現在、そちらの装置はギルドの管理化だ。
当然のようにこちらに返還したりなどしない。
まあ、予定通りなのだけど。
転移装置の移設にはこちらの技術者が必要な事も伝わっている。
転移装置の移設先をギルドに握らせると同時に、
それすら餌とする事に成功した。
ギルドから近い内に要請されるはずだ。
ギルドにとってこの地が警戒する相手である事自体に変わりはないし、
私が一方的に転移出来る状況は改善したいだろう。
何らかの交換条件でも出してくるはずだ。
そこでグリアは提案するつもりでいる。
いっそこの地ごと持っていって貰って構わないと。
ここの住民は素晴らしい技術を持っているから、
これからも貴重な魔道具を生み出し続けてくれると。
私達はそろそろ手を引きたいのだと告げる事になる。
この辺りのやり取りはグリアと綿密に打ち合わせて、
しっかり仕込まれた。
当然そのまま告げるわけにはいかない。
相手の望みでそんな話になったのだと誘導しなければならない。
私にそんな話術は無かったので、
これにはかなり苦労したが、
流石にこの件でグリアに任せきりにするわけにはいかない。
そうしてようやく、全ての準備が整った。