13-18.別荘
私はセレネとノアちゃんと手を繋いで、
未開拓地の上空を飛んでいた。
「あそこはどうですか!」
ノアちゃんが大きな滝を指す。
「もっと静かな所がいいわ」
セレネが反対する。
今は、別荘予定地を探しているのだ。
国の開拓で得た経験を元に、
私達だけの秘密基地を作ることにしたのだ。
何か二人に子供らしい事をさせてあげたくて、
この件を早急に進める事にした。
二人共私の提案を聞いてとっても喜んでくれた。
お気に召してくれて何よりだ。
「滝があるのも良いわね。
涼しそうだし、美味しい魚が釣れそうだわ。
けれどもう少し小さな所にしましょうか」
二人の意見の中間辺りを提案してみる。
二人の同意も得られたので、
進路を変更して川に沿って飛んでみる。
そうして、良い感じの所を見つけて近くに降りてみる。
少し整地すれば問題無さそうだ。
「一先ずここにしましょうか。
なにか問題があったらまた考えましょう。
すぐに場所を移しても良いのだし」
「「は~い!」」
私達は滝から少し離れた所に空き地を作って、
家を建てていく。
また近くに露天風呂も作るとしよう。
残念ながら私の建築魔法では風呂付きの家が作れない。
地下の町にそんな物は必要ないので、
爺さんが目の前で作る所を見たことがないからだ。
予め見せてもらっておけばよかったかもしれない。
天気が悪い時には欲しくなりそうだ。
まあ、自宅に転移すれば済むのだけど。
折角なら温泉が湧く所を探すべきかしら。
どうやったら見つけられるのだろう。
今度グリアに聞いてみよう。
あっという間に家と畑予定地、
露天風呂が完成した。
後は川から引き込んでため池でも作っておこう。
早速新しい家に入っていく二人。
私は収納空間に収まってもらっていたリヴィを出す。
最近はしょっちゅう幹部エリアに居候していた。
自宅に帰ってこないことすらあるくらいに気に入ったようだ。
どうやら人が多い場所が好きらしい。
その好みは私とは相容れないかもしれない。
リヴィも生後半年は過ぎたのだが、
あまりサイズが変わっていない。
普通はもっと成長速度が早いと思うのだけど。
ドラゴンはそういう物なのだろうか。
一応、私とノアちゃんの訓練にも混ざり続けているのでかなり強くはなった。
それでもまだこの辺りの魔物は厳しいだろう。
リヴィは驚いた事に、
魔力どころか神力まで使っているようだ。
ノアちゃんとセレネが卵に張り付いていたのにも関係あるのだろうか。
最近はセレネからもいろいろ教わっているようだ。
まだ結界が張れる程ではないが、体に纏う事は出来ている。
リヴィは早速滝の方に飛んでいった。
見てないはずなのに音で気付いたのだろうか。
仕方ない。結界を張っておくとしよう。
流石にここから滝までカバーするのは面倒なのだけど。
まあ、リヴィに何かあっても困るし。
リヴィもいるので、ここにいる間は結界で守るけど、
私達が不在の間は魔物除け魔道具を置くことにするつもりだ。
私が家の周囲を整えていると、
ノアちゃんとセレネが家から出てきた。
「リヴィが滝を見に行っちゃったみたいだから、
念の為様子を見ておいてくれる?」
「今は滝で遊んでいますね。
それに近くに居た魔物達は既に離れていきました。
ここからでも感知出来るので安心して下さい。
でも、私も興味があるので行ってきます!」
ノアちゃんの覚視はまだまだ成長を続けている。
もう私では追いつけないだろう。
範囲も精度も段違いだ。
この位置からでもリヴィが何をしているかまでわかるらしい。
私には知覚すら出来ないのに。
まあ、魔法込みの探知範囲ならまだまだ圧勝だ。
仕組みが違うから当然なのだけど。
「私も行ってくる!」
そう言ってセレネも行ってしまった。
寂しい。
私は家の周囲に区切りをつけて、
滝に向かう道を整地していく。
リヴィを頼んでおいてなんだけど、
皆行っちゃったし私も行こう。
道を作りながら滝に辿り着くと、
二人と一匹が水に入って遊んでいた。
まだ春を過ぎたばかりで寒いだろうに、
全く気にせずはしゃいでいる。
私は道を作り終えて近づいていく。
ノアちゃんは両手に器用に二匹ずつ持った魚を私に差し出してきた。
どうやら手づかみで取ったようだ。
魚を受け取って収納空間に入れる。
後でノアちゃんが美味しく料理してくれるだろう。
リヴィも一匹咥えている。
普段生魚なんて食べないのに。
そう思っていたら、リヴィも私に近づいてきた。
どうやら後で料理して欲しいらしい。
私は受け取って、また収納空間に入れる。
セレネは脇から滝を覗き込んでいる。
何が気になっているのだろう。
セレネを見ていると、
ノアちゃんが忍び寄っていく。
後ろから抱きついたノアちゃんに驚いて、
セレネが滝に向かって倒れ込む。
何故かリヴィもそこに飛びついた。
逃げ出そうとノアちゃん(とリヴィ)が駆け出すも、
結界に囚われて動きが止まる。
セレネは結界を傘と足場にして、
水の上に浮かび上がってきた。
どうやらノアちゃんは指一つ動かせないように包まれているようだ。
多分、自分に纏うやつの応用だろう。
セレネいつの間にそんな技を・・・
流石のノアちゃんもどうにもならないらしい。
えげつない。
ノアちゃんは視線で私に助けを求めてくるが、
既に手遅れだ。
セレネはもう真後ろにいるもの。
セレネは拘束したノアちゃんの体を弄り始めた。
あの拘束そんな器用な事まで出来るのか。
私も闇魔法で真似できないかな。
ノアちゃんの頬にキスしたり、
胸を揉んだり、セレネはやりたい放題だ。
そろそろ止めないと、後でノアちゃんがキレそうだ。
私は二人に近づいていく。
「セレネもうそろそろ許してあげましょう。
ノアちゃんが怒っても知らないわよ」
「そう言わないでアルカも一緒に・・・
ってもう触ってるじゃない。
ノア絶対怒るわよ」
「わたしはこの結界どうなってるのかなって思って。
ノアちゃんの為に解除してあげようとしているだけよ」
「嘘ばっかり。
本気で解除する気なら転移させればいいだけじゃない。
そもそも視れば解析くらいできるでしょう」
「ああ。その手があったわね。
あ~気付かなかったな~」
私はノアちゃんを包む結界を転移させる。
「二人共覚悟は出来ていますね」
ノアちゃんは既にブチギレていた。
「私は結界を解除したのに」
「アルカは自分の手元に抱き寄せる魔法もあるでしょ!
やろうと思えば、すぐに助けられたはずです!」
「ノアちゃんのイタズラが原因なのだから、
最低限の仕返しはさせてあげないとダメじゃない。
それより良いの?
セレネもういないわよ」
「セレネ!
私から逃げられると思っているのですか!」
言うなりノアちゃんは一瞬で姿を消す。
足場が悪かろうとお構いなしだ。
どうやらセレネは結界で見えなくしつつ、
空に逃げていたようだ。
どうやっているのか、
私の覚視では知覚できない。
ノアちゃんには通じないようだけど。
あっさり足場にしていた結界をノアちゃんに破られて、
空から落ちてくるセレネの姿が現れる。
ノアちゃんは落下地点に先回りして受け止めた。
セレネを座らせて説教を始めるノアちゃん。
そろそろ風邪ひきそうだから止めるとしよう。