13-11.冒険者ギルドの方針
ギルドから来た調査員は見覚えのある人だった。
テッサの町がある国、イオニアの王都支部で受付嬢をしていた人だ。
名前はサラさんというそうだ。
サラさんは本来はギルド本部側の職員だそうだ。
あの時は諸事情で支部側にいたのだと言う。
本人は伏せたが、私を探す為だったのだろう。
この地に派遣されたという事はそれなりに高い地位にいるのだろうか。
それとも万が一に備えていざという時は切り捨てるのだろうか。
もしくは、まだこの地を国として認めていないという意思表示の可能性もある。
あくまでも、冒険者の一人に話を聞きに来たという体なのかもしれない。
サラさんが送り込まれたという事は、
人選を行ったのは、あの時会った幹部の人なのだろうか。
テッサ襲撃事件の時に援軍を派遣してくれたり、
私に魔道具を貸し出してくれた人だ。
私はサラさんを案内しながら、
まずはこちらの状況を伝えていく。
本部の内情も気になるが、
まずはやるべきことをやろう。
グリアも私とサラさんに面識がある事を知ると、
反対する事はなかった。
今は一緒に付いてきている。
「本当に国王になられたのですね」
サラさんは町の人々の様子を見ながら少し戸惑っている。
少なくともこの町の人々が私を慕っている事はわかったのだろう。
ドワーフのへパス爺さんを連れてきた事と、
ダーナさんやマーヤさんの尽力により、
この国の人々は私の事を慕ってくれている。
たまに顔を出すだけでも、
皆が私のことを覚えてくれたようだ。
もしかしたらグリアが何か仕込んでいるのかもしれないけど。
サクラくらいはいてもおかしくはない。
サラさんに町の中を見せながら、
町の奥に新設した国の中枢となる大きな建物に向かう。
流石に城を建てるのは時間的にもスペース的にも無理があるし、
そもそも建てる意味も薄いので見送った。
そのため、国王を名乗りながらも、
城や宮殿は持たず、官邸に近い形を取ることにした。
建物自体は至ってシンプルなものだ。
役所とかのイメージに近い。
ただ、町中の建物より遥かに大きい。
実際にはまだ下階層の幹部エリアが中心なのだけど、
流石にあそこまで見せるわけにはいかない。
今は教えられない機密情報が多すぎる。
あれを教えるのは引き渡し後になるだろう。
私達は応接室で向かい合う。
グリアがこの国の詳細を説明していく。
今回は建国についてのみだ。
ギルドに譲渡するつもりでいるのはまだ伝える事ではない。
一通り説明が終わると、
今度はサラさんから私とグリアに質問を投げかけてくる。
「なぜ、アルカさんは建国を決意したのですか?」
「この国の人々の行く末に責任を持つことにしたからよ」
「責任ですか?
アルカさんは冒険者として事件解決に尽力してくれました。
そのためにこの地を制圧する必要があった事はわかります。
しかし、なぜアルカさんがこの地の人々の事まで責任と思う必要があるのですか?
それはギルドを敵に回してまでする事ですか?」
「私達はギルドに敵対するつもりは無いわ。
あくまでもこの地の人々の生活を必要以上に壊したくないだけなの。
その為には他国からこの地を守る必要があった。
だから決断したのよ」
「ですが、アルカさんは冒険者です。
ギルドに所属する以上は、
ギルドはアルカさんの行動に責任を取らねばなりません。
ギルドは中立です。
どこかの国に干渉するような行動は取れません。
ならば、アルカさんをギルドから除名させる他無いでしょう」
「除名しただけで責任を取ったことになるかは置いておくとして、
その上でギルドの顔に泥を塗った者が興した国など、
国として認めないというわけね」
「そうなるでしょう」
「じゃあ、ギルドがこの地に何かしてくれるとでも言うの?
この地の人々を守ってくれるの?
私が動かなかったら誰が守ってくれるの?」
「それは論点のすり替えです。
アルカさんの想いはわかりました。
ですが、ギルドとしては認めるわけにはいかないのです」
「その上でアルカさんの疑問に答えるならば、
ギルドはこの地に対して何もしません。
ギルドにその様な役割はありません。
この地がどうなろうとも知ったことではないのです」
「はっきり言うわね」
「事実ですから。
今はギルドの代表としてここにいます。
私個人の感想は関係ありませんから」
「ならわかっているのでしょう?
私が冒険者としての責任しか果たさなければ
この地が今後どうなるのか。
ここはどこの国にも属していない。
軍隊があるわけでもない。
食料は外部に依存しなければならない。
ならどこかの国が利用するでしょう。
この地には莫大な価値があるもの」
「きっと奪い合いになることでしょう。
転移装置の技術にはそれだけの価値がある。
戦争を起こしても手に入れたいと思う国が出てくるでしょう」
「そうして、
例え世界中の国が戦争を起こしたとしても、
ギルドはその原因に関与していたとしても、
関係無いと知らんぷりできるの?
本当に最後まで槍玉にあげられないと思っているの?」
「そんな事は想像でしかありません。
世界を巻き込んだ戦争など、流石に考えすぎです。
転移装置を手に入れた所で、それを扱う技術がありません。
ならば、この様な秘境の地に来れたところで大した価値は無いでしょう」
「例え、奪取した転移装置を研究したところで、
それを扱える様になるのは数十年、数百年かかるかもしれません。
ならば、どこかの国に研究は任せてしまい、
成果だけを奪い取ろうと判断する国も多いはずです。
アルカさんの言うような世界規模の争いになるとしてもその時です。
今の時点でそこまでする国は無いでしょう」
「なら、数十年後、数百年後なら構わないと言うのね?
例えそれが世界を滅ぼすことになっても」
「ええ。少なくともギルドはそう判断します」
「そう。まあ、そうでしょうね。
別にギルドは世界を守るための組織では無いもの」
「なら魔物除けの魔道具はどう?
この辺境の奥地にいる強力な魔物達すら近づけない程の強力な物よ?
これが世界中に普及したらギルドの役割は終わってしまうかもしれないわよ?」
「それも同じことです。
魔道具の複製が簡単に出来るのならば、
もっと出回っていたはずです。
今ではそもそもの魔道具を作れる者ですら殆どいないのです」
「私達なら複製出来るのよ?
いくらでも作り出すことが出来る。
これを世界中にばらまくかもと思わないの?」
「そうなれば今よりさらにこの国を敵視する者も増えるでしょう。
例え世界中がその魔道具を望んでも、
ギルドは生存を賭けて必死になることでしょう。
ギルドは正義の味方ではありません。
あくまでも魔物達を狩って成り立つ営利団体です。
例え人の道理に反していてもこの国と敵対することでしょう」
「それが出来るとでも思うの?
ギルドはこの地に干渉できないのに、
こちらは私がいる限りどこへだろうと行けるのよ?」
「それは宣戦布告ですか?
あまり勢いでものを言うものではありませんよ」
「そうね。失言だったわ。
ともかく、この地は高い価値を持つと同時に、
危険な要素だって沢山あるの。
今言った魔物除け魔道具もそう。
あれは魔物の力を無理やり引き出して奪う事で苦しめる物。
扱いを間違えればとっても危険な物なの。
実際に魔道具が暴走するところも見たことがある。
そうでなくても魔道具の力に順応して強力な魔物も生まれるかもしれない。
これらを抑えるのも十分にギルドの役割に則していると思わない?」
「魔道具の暴走と言うのは、
報告に合ったスライムもどきの事ですね。
確かに、それらは脅威となるでしょう。
他の国に渡れば間違った利用方法や、
中途半端な複製で被害が出るかもしれません」
「しかし、根本的な部分を勘違いしています。
ギルドは起きた事件に対処する事で利益を得ているのです。
被害が起きる前に全てを摘み取る事を目的とはしていないのです」
「・・・そうね。
確かにその事は思い違いをしていたわ」
「当然、そう考える者が全てではありません。
ギルドの中にもアルカさんのように、
純粋に人々の事を想って動いている者達も沢山います。
けれど、ギルドとしての方針は違うのです」
「少し口を挟んでも良いかね?」
私が次の言葉に逡巡した所で、グリアがそう言った。