13-10.進展
遂にギルド本部から調査員がやってきた。
結局、最初に想定していた、
敵の調査の為の人員が準備できる前に事は動き出してしまった。
私が国を興した件はそれだけ本部にも焦りを生んだようだ。
とはいえ、ギルド本部はいくらなんでも及び腰がすぎる。
ダンジョンコアの奪取という致命的すぎる事件が起きているのに、
この動きの遅さはどういう事なのだろう。
それだけ多くの国から横槍が入っているのだろうか。
それとも本部内に潜入している敵の工作だろうか。
もしくは調査はテッサのギルド長さんに任せて置けば十分とでも判断したのだろうか。
一応、既に一通りの情報を流してはある。
この地の件も重要だが、
当然敵を止めることも大切だ。
既に敵の拠点情報も、構成人員も殆どが割れていて、
ギルド本部にも共有済みだ。
流石にこの情報を駆け引きに使うわけには行かない。
そんな事をすれば、ギルドどころか、
世界を敵に回しかねない。
転移装置の繋がっている先の商会店舗も、
そしてその倉庫もギルド本部に任せるしかない。
けれど、この調子で本当に押さえてくれるのだろうか。
中立とはいえ、
各国の政治的な判断に口出しが出来ないとは言え、
流石に今回の件はどうにかしてくれると思っていた。
ダンジョンを管理する者として死活問題だと思っていた。
実際にいくつものダンジョンが消滅し、
ダンジョンから溢れ出した魔物達が町を襲撃する事件が起きているのだ。
ダンジョン被害という点でも、
ダンジョン自体を守るという点でも、
ギルドの管轄であることは疑いようがない。
原因の排除は何よりも優先されるはずだ。
そう要請している国だってあるはずなのだ。
ギルド本部が置かれている国だってその立場だろう。
魔物達に襲撃されたテッサの町はその国内なのだから。
それでも反対意見の方が多いのだろうか。
また、私達が被害を最小限に押さえてしまったから、
脅威を理解しきれていないのだろうか。
あの事件で亡くなったのは、結果的には冒険者達だけだ。
周囲の村々そのものは大きな被害を受けたが、
事前に避難させられたので人の被害は殆どないはずだ。
魔王の時と同じ失敗をしてしまったのだろうか。
被害を最小限に抑えられたこれを失敗と呼びたくはないけど。
ギルドは別に各国の意見を取りまとめて動くわけじゃない。
本来なら自己判断で動けるはずなのだ。
ただ、お互いに不必要な干渉は避けましょうと約束しているだけに過ぎないはずだ。
そのはずだけど、
既に本来の在り方からは外れてしまっているのかもしれない。
いろんな国の思惑に振り回されているのかもしれない。
もしかしたら考えが甘かったのかもしれない。
想像以上に今のギルドは各国と問題を起こすことを恐れているのかもしれない。
幸いグリアと爺さんがいれば、
転移装置の複製と接続先の変更は出来るので、
何も進展が無ければ商会側に設置されているものは破棄することにしている。
商会の大きさから考えれば、
この地の商品が来なくなった所で完全に潰れる事は無いだろう。
被害は相当大きいだろうが。
なにせ、魔道具の安定供給だ。
金銭の問題だけでなく、貴族や国との繋がりにも影響するはずだ。
あの規模の商会が今回の件を把握していないとは思えない。
既に本部や一部の国に知れ渡ってから、
一月以上は経過しているのだ。
情報の取り扱いに長けた大規模な商会で、
かつ自分自身に害が及んでいる案件だ。
今回の事を知らないはずがない。
けれど、表立っては関与を主張できないはずだ。
それは即ち、ダンジョン被害の件も関係あるのだと主張する事になる。
大多数は知らないだろうが、
少なくとも商会の上層部は把握していたはずだ。
この地の商品を扱うには必要があるのだから。
それでも商会はこの地を取り戻そうとしているはずだ。
商会は本拠としている国と癒着している。
その国の建国にすら関わっているらしい。
少なくともここは敵に回っているだろう。
ギルド本部の動きの悪さにも何か関係しているのだろうか。
ギルド本部に横槍を入れている国々の件を解決しないと、
私達の計画は上手く行かないだろう。
ギルドに国と認めさせる事も、
この地をギルドに受け渡す事も出来ないはずだ。
グリアにもこの辺りの考えを聞いておくべきだ。
当然何かしらの策は用意しているはずだ。
正直私には良くわからない。
きっと私に出来る事も殆ど無いのだろう。
私は個人的な武力は大きいけど、
人を動かす事が上手な訳では無い。
武力を介さない駆け引きが出来るわけでも無い。
ここで私が出来る事など殆ど無い。
けれど、ちゃんと知っておくべきだ。
もう後の事は任せようなんて考えないで、
自分から知っていく必要があるんだ。
セレネに言われた通りだ。
私は結局、今になるまで何もしなかった。
今考えていた事だって、
別に今までも考えなかったわけじゃない。
けど、結局はグリア達に任せてしまった。
あげく、誰も私に仕事をくれないと、
暇を持て余していた。
私は事件が目の前で起こるまで何もして来なかった。
自分で動ける理由が無いと、敵を追うことも出来なかった。
それじゃあもうダメだ。
自分から皆を巻き込んでおいて、
後は全部任せたなんて無責任だ。
例え忙しいグリア達に邪険にされたって、
どんどん首を突っ込んで行くべきだった。
自分から出来る事を見つけていこう。
セレネから無責任だと言われてから、
既に数週間は経過している。
結局その間も何もしていなかった。
いくら何でもこれは酷い。
ギルド本部が動き出して、
ようやく事が進んだと、自分の出番が来るのだと、
そう考え始めて今更思い直しただけだ。
酷すぎる・・・
セレネがあそこまで言ってくれたのに、
それでも真剣に考えていなかったのだ。
もっと真剣になろう。
すぐには無理でも少しずつ変わっていこう。
まずは積極的に関わっていこう。
何時までも会話が苦手だなんて言っていないで、
ギルドの調査員にも話を聞いてみよう。
グリアは止めるだろうけど、
それでもやるべきだ。
私が全てを巻き込んだのだから。