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12-21.名前

「アリア。待たせてごめんね」



私達は城を出てアリア達のところに転移した。


私を見るなり飛びついてきたアリアを受け止めながら話しかける。

預かってくれていたマーヤさんにお礼を言って、

アリアとルカも連れてテントに転移する。



「アリア。遅くなっちゃったけど、

これからの事をお話しましょう」


「うん」


私の真剣な態度にアリアは緊張しているようだ。


こんな事ではダメだ。

少し落ち着こう。



「その前にお茶を入れますね。

ゆっくりで大丈夫ですから」


ノアちゃんが空気を察して、

アリアにそう語りかける。



「ありがとう!」


ノアちゃんがテキパキと準備をして、

あっと今に紅茶とお菓子が用意される。


たっぷり砂糖を入れた紅茶を飲みながら、

アリアが落ち着いていくのを待つ。


ルカは相変わらず何も言わない。

けれど、アリアにピッタリくっついている様子から、

不安を感じているのが伝わってくる。


リヴィはそれを知ってか、

ルカのすぐ横で転がっている。



アリアが落ち着いたのを見計らって、

改めて話を始める。



私はアリア達と一緒に暮らせないこと。

私達はあまり一箇所に留まれないこと。

私達と一緒にいれば戦いに巻き込まれてしまうこと。

私がアリア達をそんな事に巻き込みたくないこと。


アリアは静かに最後まで聞いてくれた。



「アルカはアリアが一緒だと困るの?」


「・・・そうね。

私も一緒にいれたら嬉しいけど。

きっと困ってしまうと思うわ」


「そっか・・・」




アリアは納得してくれたのだろうか。

それとも受け止めきれていないのだろうか。


沈黙に耐えきれず、

気付いたら私は、

ちゃんと納得してもらってから

話そうと思っていたはずの事を口にしていた。



「それにね。

アリアには家族がいるみたいなの」


「ルカのこと?」


「いいえ。ルカ以外にもいたの」


「お母さんいなくなっちゃったよ?」


「お母さんでもないの。

お祖父ちゃん達がアリアの事を探しているみたいなの」


「おじいちゃん?」


「アリアのお母さんのお父さんの事よ」


「おじいちゃん・・・」


「アリアが会ってみても良いと思ったら連れて行ってあげる。

少し考えてみてね」








「アルカと一緒がいいの・・・」


アリアは暫く考えてからそう呟いた。

きっとアリアはそう言ったら私を困らせてしまうとちゃんとわかっている。

それでも諦めきれないのだろう。



「アリアはどうしてそう思ってくれたの?」


「・・・お母さんもアルカなの」


「お母さん?」


「なまえ同じなの」


「アリアはお母さんが大好きなのね」


「・・・うん。でも捨てられちゃった」


そう言ってアリアは泣き出した。


私より速く動いたノアちゃんがアリアを抱きしめる。

ノアちゃんに縋り付いて泣くアリアを見て心が揺さぶられる。


この子はずっと我慢していたのだろう。

ルカの為に強くあろうとしていたのだろう。


初めて会った時、

なんでもない事のように捨てられたと言っていた。


それでも本当はお母さんの事を忘れられなかったのだろう。

もしかしたらルカは幼くて憶えていないのかもしれない。



お母さんを探してみようなんて言えるわけがない。

本当に捨ててしまったのかもしれないし、

もう亡くなっているのかもしれない。



アリアが私に拘っていたのは助けられたからだけではなかった。


ほんの少ししか接していないのに拘り続けたのは

きっとお母さんに重ねていたからだろう。

きっとアリアにとって優しいお母さんだったはずだ。



アリアが落ち着いたところで、

ルカが口を開いた。



「アルカ」


「なに?ルカ」


「アリア。おねがいします。

ルカちいさ、から、いっしょいけない。

アリアだけ、おねが、します」


ルカが辿々しい口調で一生懸命に伝えてくる。



「ルカ!何言ってるの!

ダメ!ルカもずっと一緒にいるの!」


ノアちゃんから離れてルカを抱きしめるアリア。



「アリアおかあさんだいすき。

アルカもだいすき。

だからいっしょいる」


「ルカもだいすきなの!

ルカも一緒にいるの!」


泣きながら抱き合う二人はそう言い合う。




私は・・・


「アルカ」


ノアちゃんが言葉にせず訴えかけてくる。

ノアちゃんも二人を放っておけなくなったのだろう。

けど言葉にすれば私を困らせるとわかっているのだろう。



私も二人を受け入れたい気持ちがどんどん強くなっていく。

無責任な事をして二人を振り回したのに、

また同じことを繰り返そうとする。


受け入れたって、

殆どの時間を一緒にいることなんて出来るはずがない。

旅の間は誰かに預けるしかない。

戦いに行くことだって少なくない。


昔のように家に引き籠もっていた時とは違う。

沢山の人を巻き込んで国まで作ろうとしているんだ。

こんな時に引き取れるわけがない。

一緒に暮らせるわけがない。

十分に愛してあげられるわけがない。


それなのに・・・





私はルカがいるからアリアを連れていけないんだなんて言ってはいない。

ルカは自分で考えて、少しでもアリアが幸せになれる方法を探したのだろう。


だからってアリアがそんな事を選べるはずがない。

たった一人残された大事な妹なのだから。

自ら妹を手放すなんて出来るはずがない。



「アルカ。おじいちゃんに会ってみる」


私が何も言えずにいる間に、

アリアは私に向かってそう言った。



「いいの?」


「うん。ルカと一緒に行く」


アリアも選んだ。

私への、お母さんへの未練より、

自分の為に身を引こうとした優しい妹を選んだ。



「わかったわ」


私はどれだけ最低な事を繰り返すのだろう。

結局この子達に何もせず、

何も言えないまま・・・

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