12-20.姫
私達と向かい合って席についた国王は語りだす。
最初は挨拶と、
以前国を救ったことへの礼だった。
どうやら私は救うだけ救って、
すぐに旅立ってしまったようだ。
国王はその時に礼をしそびれた事を謝罪した。
こちらこそすみません・・・
たぶん意図的に逃げたんだと思います・・・
どこの国でも似たような事してたので間違いないです。
だって丁重に饗されるなんてコミュ障にはきつすぎるもの。
そんな地獄の時間が避けられないとわかったら逃げるわよ。
そうやって逃げ回ってるから誰とも仲良くなれなかったんだろうけどね・・・
それからようやく本題に入った。
「アルカ殿が服を買い与えた少女について伺いたいのです」
貴族の一人くらいに思っていたけど、
このお爺さんは宰相さんだそうだ。
「あの店は王家の者も利用する店でして、
つい先日、店の者から問い合わせがありました。
若い女性の冒険者が王族に良く似た幼い娘を連れていたと。
お忍びにしても妙だったため、念の為報告を入れてきたようです」
アリア達の事か・・・
無口で若い女冒険者が王家御用達の高級店で子供服を買い漁るなど、私以外にありえないだろう。
それでギルドに問い合わせたら私が特定出来たわけだ。
あの店員さん王族からも信用されるとは只者では無かったのか。
そんな報告したところで普通なら門前払いだろう。
それに王族達の事を幼い頃から見ているから、
アリアの事も気付いたのだろうか。
「あの子達は孤児。
その少し前に人攫いに襲われてるところを保護した」
「それは!」
国王さんや宰相さん達は何事かを話し合う。
「どうかその少女達をお連れ頂けないでしょうか。
その子達は行方不明になった王女の娘である可能性が高いのです」
話を聞くと、
十数年前にこの国の姫が行方不明になった。
同時期に幼馴染同然に育った若い騎士も消えたため、
二人の関係を知っていた周囲からは駆け落ちしたのだと結論付けられた。
当然、姫を探して大騒ぎにはなったのだが、
結局見つけることは出来なかったそうだ。
そして、今回の目撃情報があった。
今更姫を連れ戻すことは難しいが、
手がかりである事は間違いない。
それにアリア達自身も王族の血が流れている。
可能ならば迎え入れたいのだと言う。
困った・・・
どうするべきか。
私はまだアリアと話が出来ていない。
アリアは私と共にいたいと言ってくれている。
まずは私の気持ちを正直にアリアに説明する必要がある。
私がアリアと暮らせない理由はノアちゃんの事が一番だけど、
当然それだけでも無い。
私達は基本的に旅暮らしだ。
元々動けるように教育されていたノアちゃんはともかく、
あの子達を連れてはいけない。
転移もあるのだし、
アリアだけならなんとかなるかもしれない。
けれどルカには無理だ。
いくらなんでも幼すぎる。
ルカの成長を待つ時間も無い。
かといって引き離すわけにもいかない。
アリアからすれば唯一残された肉親だ。
アリアだってそれでも付いていくとは言えないだろう。
まだこの件に決着がついていないのに、
ここで新たな選択肢を出すわけには行かない。
それでは不誠実だ。今更だけど。
まずは私との話し合いを終わらせて、
その上でアリアに話すしか無い。
会っても良いか聞くしか無い。
まだ幼いアリアにそんな決断を迫るのも酷い話だ。
私は最低だ。
結局流されるままに行動するばかりだ。
アリアの事だって責任を持って育てると決められればどんなに良いだろう。
けれど、もう事態は動き出してしまった。
とにかく行動するしかない。
「少し話をさせて。
あの子達が良いと言えば連れて来る」
私のあんまりな言葉にも、
それでも良いからと答える国王。
行方不明になった姫の事をそれだけ愛していたのだろう。
その姫とやらは、
なぜそうまでして生んだアリア達を捨ててしまったのだろうか。
捨てられたというのは、
アリアの勘違いなのかもしれない。
孤児院の子供達から、
ここにいるのは捨てられた子供だとでも聞かされたのかもしれない。
なんで貧乏な孤児院なんかに預けたのだろう。
この国が特別貧しいわけでは無いはずだ。
この人達の対応を見る限り酷い国だとも思えない。
ちゃんとした所に預けるなり、
国に助けを求めるなりすれば良かったのに。
結局国からは逃げ出さなかったんじゃないか。
アリアがここにいるという事は、
近くに住んでいたはずだ。
いつでも助けを求められたはずだ。
娘の為なら手段を選ぶわけがない。
例え自分が戻りづらくとも、
娘を不幸にするくらいなら助けくらい求められたはずだ。
そうではないのかもしれない。
もうすでにアリアの母は、
その姫は生きていないのかもしれない。
遠く離れた地で暮らしていたけど、
最後の時を悟って、
命からがら国に戻ってきたのかもしれない。
孤児院に預けたのは姫では無いのかもしれない。
もしかしたらその前に姫は力尽きたのかもしれない。
アリアは知っているのだろうか。
ノアちゃんが話を聞いた限りではそんな事は言っていなかったようだけど。
とにかく、まずはアリアと話をしよう。