12-18.アウト
結局、その日は登城しなかった。
まあ、向こうも流石に即日で連絡がつくとは思っていないだろうから大丈夫だろう。
この世界に電話は無いのだから。
何時でも来て良いみたいな感じだったのも幸いだ。
私はグリアにだけ伝えて、
その日はノアちゃんとテントで過ごした。
アリア達にも申し訳ないけど、
まだ少しマーヤさんにお願いしよう。
「ノアちゃん。これ飲んで」
私はホットミルクを入れてノアちゃんに差し出す。
ベットに腰掛けたノアちゃんは黙って受け取り、
少しずつ飲んでいく。
さっきまで泣いていたからまだ気まずいのだろう。
私はノアちゃんの隣に並んで自分の分を飲む。
ちょっと甘すぎたかしら。
今のノアちゃんには丁度良いと思ったんだけど。
「アルカ」
「なに?」
「甘すぎです」
「ごめんね。私もそう思ってた」
私は思わず笑いながら答える。
「でも。ありがとう」
「どういたしまして」
「少しだけ気が楽になりました。
ちゃんとアリアにも謝ります」
「そっか」
「アルカは何も言わないのですか?
私はアリア達に酷いことをしました。
叱らないんですか?」
「必要ないわ。
ノアちゃんが自分で悪いと思って反省しているのだから」
「そうですか」
「明日一緒にアリア達に謝りましょう。
私もアリア達の事を勝手に保護しておきながら、
あとは誰かに任せてしまおうなんて考えていたのだもの」
「・・・そうですね」
「私も今の生活に、
ノアちゃんとの間に誰かを入れたく無かった。
そんな自分勝手な都合でアリア達を振り回した。
ノアちゃんよりよっぽど酷い事をしているのよ」
「・・・けど、アルカが保護しなければ
また人攫いに連れて行かれるだけでした。
そうしたらきっと酷い目にあったはずです。
アルカは必要な事をしただけです」
「それでもなのよ。
それでも責任を取れないなら手を差し伸べるべきじゃないの」
「・・・よくわかりません」
「そうね。
私も納得はしていないけど、
その考えが必要な事だって知っているだけだもの」
「益々わかりません」
「納得できなくても、折り合いをつけなければいけない事もあるってことかな」
「・・・」
「もしかしたらグリアなら具体例を出してわかりやすく説明してくれるかもね。
今度聞いてみましょうか」
「少しグリアさんに気安く頼り過ぎな気がします。
ただでさえ忙しいのに」
「そうね。ついつい頼っちゃうものね」
「それじゃあ、私ももう少し頑張って説明してみるわ。
えっとね。
助けるっていう事は当事者になるっていう事なの。
当事者になると責任が生まれる。
責任を果たせないなら当事者になってはいけないの」
「なぜなら、相手を不幸にするのが、
他の第三者じゃなくて自分になるから。
自分なら不幸にしか出来ないとわかっているのに手を出すのは酷いことでしょ?」
「だから手を差し伸べるには
相手の事を幸せに出来なければいけないの。
少なくとも自分なら不幸にしないと思えなければいけないの。
すぐに出来ないなら最後まで支えると思い続けなきゃいけないの。
それが責任を持つという事なの」
「私は自分でアリア達を引き取る覚悟もなく手を差し伸べた。
彼女達の命を守りきると決意せずに命を預かった。
これが最低な事なのは間違いないの」
「でも・・・」
「納得いかないわよね。私もよ。
だって放っておけばきっとすぐに不幸になるのだもの。
そう思うけれど、それだけではダメなのよ」
「だから折り合いを付けるの。
自分では納得できなくても、
それが原則なのだと理解するしかないの」
「その上で選択するの。
最低な事をしてでも助けるか、
最低な事はしないで助けないか。
全ての責任を負う覚悟で助けるか」
「最後には自分の意思で決めるしかないの。
それで失敗しても、他人は原則でしか判断しない。
その覚悟で手を出すと自分の中で決めておくの。
それが重要なことだと私は思うわ」
「・・・やっぱり良くわかりません」
「そうね。今はそれでも良いと思う」
「そうですか」
「さて、この話はここまでにしましょう。
明日、アリア達に合う時に暗い顔をしているわけにはいかないわ」
「だから、気分転換をしましょう
せっかくゆっくりできるのだし、
なにかしたいことは無い?
何でもしてあげる!」
「・・・キスして下さい」
「ほっぺなら良いわ」
「・・・仕方ないです」
私はノアちゃんを抱き寄せて
頬にキスをする。
真っ赤になったノアちゃんが私の頬にもキスをした。
「他には?」
「暫くこうしていて下さい」
抱き合いながら
たまにキスしてくるノアちゃんに
私もキスを返す。
お互い真っ赤になりながら、
そんな事をいつまでも繰り返していた。
アウト・・・
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