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11-6.町の行方

「グリアさん。調子はどうですか?」



グリアは幹部エリアで書類に埋もれていた。

なんか前にも見た事があるな。


セレネは慣れた手つきでグリアを引っ張り出して、

何事も無かったように質問していた。



「まあ、問題は山積みだとも。

そもそもここの人々は現状、

どこの国にも属してはいない。

ギルドが中立とはいえ、

今後この地の情報が出回ってしまえば、

ギルドが介入することに難色を示す国も出てくるだろう。

その時に備えてこの地の管理に口を出される隙はなくさねばならん。

少なくとも国と対等に立ち回れる程度にはな」



「どれくらい隠しておけると思う?」



「そう時間は無いとも。

本部に報告が上がった以上、

既に把握している国はあるはずだ。

ギルド本部に草を忍ばせるなどどこの国もやっている事だろう」



草とはスパイの事だ。

数年以上もその地の住人として潜入して本国に情報を送る。


ギルドなんて、世界最強の武力集団を警戒しない国は無いだろう。

しかもそれが中立など謳っているのだから。



「ギルドはそこまでしないでしょうね。

どこかの国に売り払うことも無いでしょうけど、

場合によってはすぐに手を引くかもね。

各地の拠点の情報と幹部達の身柄以外に興味も無いでしょうし」



「その可能性は高いとも。

君が連れてきたどこぞのギルド長はやる気だが、

所詮は一支部長だ。本部に逆らって継続する権限はあるまい」



「危険な魔道具を全て壊してしまったのは失敗だったかしら。

あれがあればまだギルドも介入する口実に出来たかもしれないわ」



「それはあまり意味が無いさ。

真先に回収してしまえば済む話だ。

それよりも、そんな物が出回る可能性の方が問題だと思うね。

君の判断は間違っていないとも」



「そうね。

グリアから見てこの町の価値はどれほどだと思う?」



「君もわかってはいるのだろうけど、

この町はとんでもない価値があるとも。

それこそ戦争をしてでも取り合う程にね」


「まず、魔道具だ。

古のドワーフ産程では無いにせよ、

日常生活程度の物でも生み出せる人々がこの町にはいるのだ。

現状、魔道具の製造が出来る者など問答無用で国が抱え込んでいる程だ。

この町はさぞ金のなる木に見えるだろうね」


「次にこの町の立地だ。

未開拓地の深部にいきなり魔物も近寄れない無敵の要塞が手に入るのだ。

どこの国からも攻められる事はないし、

未開拓地の開発拠点としても破格の性能だ。

これだけで、国が動く理由としては十分だ」


「他にも、この町に使われている技術自体にもとんでもない価値がある。

魔物除け魔道具、天井の光源、えれべーたー、

転移装置、それらを賄うエネルギー源、

上げればキリが無いとも」


「それら特殊な物だけではない。

この町の人々は勤勉だ。

質の良い加工品を常に生み出し続けている。

これらを独占出来るだけでも大きな価値になる」



「この町を変えずに維持するには何が必要だと思う?」



「そんな手段は存在しない。

この町は歪だ。

この町は一見孤立しているように見えて、

その実必要以上に外部に依存している。

生命維持に必要な品の全てを外部から賄う等、

自治組織として破綻している。

食料を得る手段がたった一つなど本来あり得ない」


「外部に知られてしまった以上、

今までと同じではいられまい。

必ず利用しようとする者達は現れる。

この町は変わらずを得ない」



「私のせいでこの町は・・・」



「そんな事は関係ないとも。

いずれは破綻を迎えたはずだ。

外部に知られてか、

管理者の心変わりか、

不満による内部分裂か、

転移装置や魔物除け等の設備の寿命か、

理由は様々だ。

ここには爆弾が多すぎる。

六百年続いたからといって、

明日も続くものではない」



「そうね・・・」



「今の問答で君が私に求めている事はよくわかった。

出来る限りは力になるとも。

流石に一人ではどうにもならんがね」



「ありがとう。頼りにしてる」



「君がその思いを通したいのであれば、

君がこの地の支配者となるしか無い。

君なら一人でも国に立ち向かう力すらある。

君にはドワーフ翁氏との友誼もある。

君の功績を考えればギルドにすら味方がいるだろう」



「・・・それは」



「そもそもそんな必要があるのかね?

変わらないもの等存在しない。

この町も変わる必要があっただけの事だ。

それがどんなきっかけかというだけの話だ。

君がそこまで面倒を見る必要はない」


「君は敵の本拠地を抑えて、

ギルドに報告しただけだ。

冒険者としての役目としても過剰な程だ。

その敵が何を抱えていたかなど関係無い。

既に敵は被害を出したのだ。

これ以上を止めるためには必要な事だった。

敵が抱えていたものの行く末にまで

君が責任を持つ必要など無い」



「・・・」



「セレネ君の多忙ぶりはよく知っているだろう?

この地を本気で守るならそれすら比べ物にはならない。

君はそんな人生を選ぶ気があるのかね?

それはセレネ君やノア君より優先する価値があるのかね?」



「セレネとノアちゃん以上に優先するものなんて存在しないわ」



「それで良いのさ。

君はもう十分やったとも。

私達がやるべきことは、

少しでもこの町が悪意に飲まれるまえに自立するのを助けるだけだ。

それ以上は望んじゃいけない。

君がそこまで責任を負う必要はない」



「・・・そうね」



「まあ、少し考えたまえ。

時間稼ぎくらいなら私でも協力できるとも」

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