11-1.師弟
私はセレネとノアちゃんを連れて教会に転移した。
セレネはすぐ戻って来るから、
付いてくるのは私だけでいいなんて言っていたけど、
ルネルの事を伝えてきたのはセレネよ?
私とノアちゃんはルネルのご機嫌伺いにいかねばならない・・・
どうしよう・・・
本気で忘れてたのよね・・・
私は一旦セレネと別れて、
ノアちゃんと一緒にルネルを探しに行く。
セレネは自分が案内するからと渋ったが、
セレネにも準備があるはずだ。
少なくとも数日は教会を離れるのだ。
それなりに準備の時間もかかるだろう。
そう説得してなんとか納得してもらった。
セレネったらそんなに私と一緒にいたいのかしら。
離れているのが寂しくなっちゃったのね!
セレネ可愛い!
私も一緒にいたいけど、少しだけ我慢しよう。
正直ルネルに叱られる所をセレネに見せたくはない。
もしかしたらセレネなら上手くとりなしてくれるかしら。
早まったかもしれない・・・
「ノアちゃん。ルネルどれくらい怒っているのかしらね」
「・・・アルカ。そういう事をあらかじめ考えるのは止めた方が良いです。
私達はルネルさんの思いやりを踏みにじったのですから、
誠心誠意謝って許してもらうしかありません。
不必要に萎縮して会うのは失礼です」
「本音は?」
「・・・余計に怖くなるので止めて下さい」
私とノアちゃんはルネルとの猛特訓を一年近く受けた。
その間、あまりの不甲斐なさにルネルがキレる事も一度や二度じゃない。
あのお婆ちゃん根気よく付き合ってくれるけど、
それなりに怒りやすい。
私とノアちゃんはルネルを怒らせた時の事を良く知っている。
流石に今回みたいな事態は初めてだが、
それだけに怒りの度合いが想像できない。
二人でガクブルしながらルネルを探していく。
「そういえば、何で転移で行かないんですか?
ルネルさんになら繋げますよね?」
「・・・ほら!謝罪に行くのに、
いきなり転移するのも誠意が無いじゃない!」
「本音は?」
「このまま見つからなければいいな~」
「無駄な悪あがきは止めて下さい!」
ノアちゃんに叱られて、
私は渋々ルネルに小型転移門を繋ぐ。
「お師匠様。ご機嫌いかがでしょうか。
これから伺いたいのですが、
お時間よろしいでしょうか」
「バカ弟子・・・
その気持ち悪い声音はやめい。
まだわしを怒らせ足りないのか?
良いからさっさと来んか!
ここに来てからいつまで彷徨いておるつもりじゃ!」
「はい。ごめんなさい」
さすルネ。
私達が来ていた事も察知してたのか・・・
私はノアちゃんに抱きついて転移する。
ノアちゃんが「え!?」って顔してたけど、
別に盾にするわけじゃないよ?
ただお婆ちゃんも可愛い方の孫を先に見たいかなって。
「それで?
まずは経緯を話すのじゃ」
転移してきた私達にルネルは冷静にそう言った。
あれ?意外と怒ってない?
いや、でもさっきの声音はキレてた間違いなく。
前半は呆れのほうが強かったけど。
「さっさとせい!」
やば!
私は慌てて説明を始める。
グリアからも聞いているのだろうけど、
最初から説明しておこう。
ノアちゃんにも補足してもらいながら、
リヴィが地下通路を見つけてからの事を話す。
「なるほどのう。
そんな所に居を構えておったとはのう。
流石にわしも見抜けなんだ。
まあ、二人共良くやってくれた。
これで最低限のケジメもついたじゃろう。
教会の件といい、わしは何もしとらんがな」
「それは本当にごめんなさい。
ルネルが出てきた理由も知っていたのに」
「なに、この件でお主達を責めたりはせんよ。
本拠地を見つけるのにわしは何もしとらんのじゃ。
これで責めるのはお門違いと言うものじゃろう。
そもそもわしは手は出さんと約束したしの。
こうして無事に帰ってきてくれただけで何よりじゃ」
お婆ちゃん!
そうよね!
心配のあまり思わず苛立ってしまっただけよね!
「じゃから、まあ、
褒美に少し訓練をつけてやろう。
お主達が命がけで生き延びて、
どう成長したのかも見てみたいしのう」
え!?
いや、ちょっと嫌な予感がするから遠慮したいかなぁ・・・
ほら、訓練大好きノアちゃんが怯えてるわよ!
おかしいって!
その訓練なにか違うものだって絶対!
問答無用で私とノアちゃんはエルフの国の広場に転移させられる。
相変わらずこれ理不尽すぎない!?
なんで何も視えないのに一瞬で私達ごと転移してるの!?
地中や溶岩にでも転移させれば一発で終わりじゃない!
「さあ、早うかかって来い。
こんのならこっちから行くぞ!」
結局、その後は私達が身動き出来なくなるまで、
苛烈に攻撃してくるルネルに転がり回された。
なんであんな次から次へと魔法放っておいて、
私達無傷なのよ!
手加減の技術力がおかしいわよ!
相手を壊さずにいじめ抜くの上手すぎるわ!
「アルカはまだ元気そうじゃのう。
なら早う立て。続けるぞ」
そう言いながら、
私を転移で強制的に立ち上がらせる。
膝に力が入らず、倒れ込みそうになるのをギリギリで持ちこたえる。
「やっぱり立てるじゃろうが」
無理やり立たせたくせに!!
いえ、ごめんなさい!
もう反抗心は抱きませんから勘弁して下さい!
私が再び倒れ込むと、
今度はノアちゃんが立たされた。
「十分休んだじゃろう」
その次は私・・・
結局、ルネルが満足するまで訓練という名のしごきは続いた。