1-16.顛末
翌日はまたギルドに赴いた。
証拠資料の調査と尋問の結果を聞くためだ。
「厄介な事になった」
現状で十分厄介な事になってると思うけど、
わざわざ言うほどって事はもっとやばいの?
「この件の首謀者は貴族だ。
しかも、例の隣領の領主ときた。
迂闊に手が出せん。」
あうち・・・
この世界の冒険者ギルドは国とは関係なく運営されている。
基本的に国の命令を聞く必要等は無いのだが、
逆を言うと国の問題に口を出す力もない。
勝手に貴族を捕縛する権限が無いのだ。
例え相手が重大な罪を犯した犯罪者であっても。
そもそも冒険者ギルドは魔物への対抗と
ダンジョン管理が役割の組織であり、
警察組織ではない。
冒険者が起こした問題であれば処罰する事も可能なのだが。
当然、国や領主に対して訴えを起こす事は可能なのだが、
その結果どう裁かれるかまでは口出し出来ない。
そして、この首謀者は何度もこの領地に手を出してきた過去がある。
その首謀者の寄親、貴族としての上司がかなりの力を持っている上に、
ずぶずぶの関係らしい。
そのため、何度阻止してもお咎めなしなのだ。
今回も証拠は十分揃っているが、
国やこの地の領主に提出したところで、
もみ消される可能性は高い。
「流石に今回の件は言い逃れできないんじゃない?
ダンジョンコアにまで手を出してるんだし。」
「そう思いたいんだがな・・・」
「というと?」
「証拠が握り潰されば関係ない。」
「まあ、それはそうなんだけど。」
「国に直接提出してもダメなんですか?」
「やった事が無いわけじゃないけど、結局握りつぶされるのよね。
あまりこの地の領主を飛ばすのも良いことではないし。」
「ではその寄親は法務関係の重役という事なんでしょうか。」
「みたいね。」
「まあ、そのあたりは考えても仕方あるまい。
この内容ならギルド本部に任せるっていう手もある。
本部からなら多少はこの国に提言できるだろう。」
「それも結局は変わらないのよね。
国政に口出しをしないことでギルドの中立性は保たれているわけだし。
それが良いことでも悪いことでも。
まあ、それでも今回はダンジョンが絡んでいる以上は可能性もありそうだけど。」
「ダンジョンの権利そのものは国のものだ。
ダンジョンを管理する者として実行犯を捕らえる事はできるが、
首謀者までどうにかなるかはなんとも言えんな。」
「ともかく、今回の件は私達の手を離れるのね?」
「そうだな。ご苦労だった。
お前達のおかげでこの町は救われた。
ダンジョンの脅威から町を守れなかったという汚名も回避できた。
この町の一人として、ギルドの代表として礼を言う。」
頭を下げるギルド長。
横暴だけどこういう所があるから無視できない。
私が引き籠もっても冒険者をやめられない理由の一つだ。
「まあ、一先ずめでたしめでたしと思っておきましょう。
残念ながら消化不良なのはよくある事だしね。」
「本当にどうにもならないのでしょうか」
「そうね。本当にどうにかしたければこの国に仕えるしかないわね。
私はそれが嫌で自由が保証されている冒険者を選んだのだから」
「そうですね・・・すみません。余計な事を言いました」
「良いのよ。私だって最初はゴネまくってたんだから」
「そうだぞ。アルカが殴り込もうとするのを何度止めた事か
それに比べたらノアは聞き分けが良くて助かるってもんだ。」
「余計なこと言わなくていいのよ!」
吹き出すノアちゃん。
最後に笑って終われたのだから良しとしよう。
よし!これで私達のほのぼの日常生活が戻ってきた!
もう数日は家から出ないぞ!
ノアちゃんをこたつに引きずり込んで一緒にゴロゴロ過ごすのよ!