10-17.幹部
「ノ~アちゃ~ん!ごめんね!
そんなつもりは無かったの!
ノアちゃんの説得があったから決められたの!
グリアの言葉だけで判断したわけじゃないから!」
「はいはいわかりました。
何時までも敵地で無駄話しないで下さい。
もう切り替えて調査を続けますよ」
ノアちゃんは言葉通りいつもの態度だ。
さっきの言葉は思わず口にしてしまったのだろう。
それだけに、ノアちゃんの気持ちがより伝わってくる。
またノアちゃんに嫌な思いをさせてしまった。
けれど何時までも拘っているのは止めよう。
ノアちゃんの言う通り、気持ちを切り替えるんだ。
同じことを繰り返すわけにはいかないもの。
「ごめんね。
今はもう言わないから一緒に頑張りましょう」
「それで良いです」
ノアちゃんは笑顔で答えてくれた。
ノアちゃん可愛い。
転移装置の隣の部屋は大量の加工品が保管されていた。
剣や鎧等の武具類、
鍬や鎌等の農具類、
鍋や器等の食器など様々だ。
どれも新品に見える。
これらを転移先で売って食料品を得ているのだろう。
もしかしたらどこかの商会がフロント企業になっているのではないだろうか。
転移先も商会の倉庫とかかもしれない。
流石にまだ転移してみるわけにもいかない。
今は隠れて調査中だ。
町の人達にはもう見られているけど。
ここにも少しだけ魔道具もあったが、
この場所にあるのは日常生活に使われるものだ。
そもそも一般的には魔道具自体高価なものだ。
貴族や王族くらいしか日常で使うことはないだろう。
私は爺さんに作ってもらっていたから特別だ。
割と最近まで気づいていなかったけど、
普通の人は魔道具なんて持っていない。
ここにあるのが少ない理由は単純に需要と技術者の問題だろう。
「特におかしなものは無いようですね」
「そうね。
ここはもう良いから次に行こうか」
「はい」
そうしてこの階層の部屋は全て見終わった。
この階層は保管用のエリアだったのだろう。
そうするとこの下の階層が幹部達のエリアかな?
もしかしたらまた緊急脱出用の転移装置でもあるかもしれない。
そっちは容赦なく破壊する事にしよう。
丁寧に止めている余裕は無いだろうから。
「ノアちゃん。次は敵がいるかもしれないわ。
用心して行きましょう」
「はい!」
私は再びエレベーターの所に戻って、
縦穴を辿って下の階に向かう。
!?
早速エレベーターの前に人がいるようだ。
どうしよう?
このまま転移すれば鉢合わせてしまう。
流石にここからではどこを向いているかまではわからない。
逡巡していると、上からエレベーターが降りてきた。
マズイ!
慌てて、そのまま下層に転移する。
「!?」
転移した先にはさっき確認した通り一人の男が立っていた。
エレベーターはこの人が動かしたようだ。
入口脇の魔石に触れている。
男は急に後ろに何かが現れたのに気付いて振り向こうとする。
ノアちゃんは男が振り向く前に気絶させた。
「ありがとう。ノアちゃん」
判断が速くて助かった。
私は魔道具や武器の有無を確認してから、
男をルスケア兵達がいる無人島に転移する。
幹部かもしれないからギルドの方に送るべきだったかしら。
まあ、あの無人島でも良い感じに扱ってくれるだろう。
もう一年以上住んでいるのにいつまでも無人島と呼んで良いのだろうか。
その後は一部屋ずつ、
私の防音結界+転移とノアちゃんの隠密のコンボで無力化していく。
案の定、転移装置の部屋もあった。
杖の力で破壊する。
ここまでやっておいて、
この人たちが魔道具で悪さをする人達と無関係だったらどうしよう。
あの件に関わっているのは一部の人だけかもしれないし、
ここの人達はあくまで町を管理しているだけだったりしないかしら。
今更すぎるな・・・
最悪、爺さんにこっちの転移装置も直してもらうか。
まあでも、ボスは明確に私達を敵視していたし大丈夫だろう。
きっとたぶん。
あっさり幹部エリアの制圧も完了した。
ノアちゃんの隠密は最強だ!
さて、この後はどうしようかしら。
このエリアの書類まで二人だけで調べるのは無茶だ。
これは一旦置いておこう。
後で人員を確保してからだ。
ここにいなかった幹部も上にいるかもしれないけど。
一先ずそっちも気にしなくて大丈夫だ。
なんだかんだ二十人位は捕らえたのだから十分だろう。
転移装置も止めたから書類を持って逃げ出すのは無理だろう。
証拠隠滅を計られたらどうしよう。
争った形跡も無く、自分以外全員消えたのを見てどう判断するだろうか。
一先ずエレベーターを壊しておけば心配無いか。
他に階段とかは見つからないから。
無いの?本当に?そんなわけなくない?
エレベーターを作るまで使っていたものがあるはずだ。
けど、探索魔法を使っても見つからない。
今は無いものと判断して後で詳しく調べるとしよう。
最悪、幹部の誰かにでも聞けばわかるだろう。
どうやらこの下には階層も無いようだし
一先ずこの辺はもう大丈夫とする。
そうするとあと気になっているのは壁向こうの魔物達の事くらいだ。
魔物の件をどうにかしなければ人を呼ぶわけにはいかないだろう。
一か八か私だけで転移してみようかしら。
「アルカ?一人で行くつもりじゃないですよね?」
何も言ってないのに何でバレてるの!?