10-15.保管庫
「おかしいわね。食料保管庫が町からそう離れているとは思えないのだけど」
地下空洞奥の採掘場を後にして、
また町の方に戻ってきた。
気になっている箇所の中では町に近いはずと判断して、
次は食料保管庫を探すことにした。
しかし、先程の調査で町中にそれらしき施設は見つからなかった。
今は壁伝に隠し扉のようなものが無いか捜索中だ。
不自然に壁に埋もれているような建物や、
突き当りが壁に接している道が無いか探していく。
ある程度の量を運び込むなら大通りに面したところにあるはずだ。
車輪の跡でもあれば確実だろう。
わざわざ隠し扉にする必要があるかは疑問だが、
重要な施設であることには違いない。
食料の確保が難しいこんな地下空間なら特にだ。
それに幹部達の居場所や、
危険な魔道具を保管する場所も近くにあるかもしれない。
魔道具の保管場所は事故の危険も想定して、
食料保管庫とは離している可能性もある。
けれど、地上とは違い簡単にスペースを確保できるわけではないので、
重要な施設を一箇所にまとめている可能性も十分あるだろう。
「アルカ!あの建物見て下さい!」
ノアちゃんが指した先には壁に接している建物が見える。
「行ってみましょう」
私達はその建物を目指して進んでいく。
建物の前はある程度の道幅があり、
想定していた条件にピッタリ合う。
怪しい建物の前に辿り着いた所で、
探索魔法で建物の奥を調べていくと、
壁の中に箱型の部屋のようなものが埋まっている。
なんだろう?食料保管庫にしては狭すぎるし、
そもそも何も入っていないようだ。
直接見ないと細かいところまではわからないだろう。
中に人がいない事を確認して、
私はノアちゃんを連れて箱の前に転移する。
「これエレベーターかしら?」
「エレベーターってなんですか?」
「別の階層と行き来するための乗り物よ。
中の空洞は下に繋がってるようだから、
多分この下にも部屋があるんだわ。
ともかく行ってみましょう」
私はノアちゃんを抱えて、
エレベーターの通る縦穴に転移する。
流石にエレベーターを動かしてしまえば敵に気付かれるかもしれない。
目視と魔法で先の状態を確認しながら下に降り、
下階層のエレベーター前に転移する。
まだ下にも階層があるようだ。
けれど、まずはここから調べよう。
そこからは通路が伸びていた。
通路の両側にいくつか扉がある。
「魔道具がありそうです!」
ノアちゃんは早くも魔道具の発する力を見つけたのだろう。
少し興奮気味に報告してくれる。
「この中ね」
ノアちゃんに先導されて魔道具が格納された部屋に辿り着いた。
感じる力の量からするなら、
かなりの魔道具が保存されているようだ。
私は扉に触れずに中に直接転移する。
「念の為ノアちゃんは触らないようにね。
魔道具の扱いは私に任せて!」
「はい!」
私は杖を取り出す。
ずっと繋いでいたノアちゃんの手を離すのは名残惜しいが、
魔道具を調べなきゃいけない。
全部壊してしまって良いのかわからない。
ここにあるのは見る限りどれも強力なものだ。
でもそうでも無いものもあるかもしれないのだ。
私は渋々ノアちゃんの手を放して、
魔道具に触れていく。
ノアちゃんは私の服を摘んで付いてくる。
ノアちゃん可愛い。
やはり、どれもドワーフの技術が使われた強力な魔道具だ。
詳しい効果まではわからないが、
ルネルが危険視していたこの杖と同じ複合魔石まであった。
しかも、これらは杖の魔石と違ってかなり歪な力を感じる。
視るだけでも気分が悪くなってくる。
魔石の錬成技術が低いのだろう。
やはり、この国を作ったドワーフはお爺さんより劣っていたのかもしれない。
それとも、これは彼亡き後に人間達が作ったものだろうか。
技術が継承されていてもおかしくはない。
仮にそうならやっかいだ。
ここの人達を迂闊に外に出すわけにはいかなくなる。
ドワーフの国を滅ぼした技術を世界中に広められるわけにはいかないのだから。
また問題が増えてしまった。
場合によってはギルドに丸投げするのも考え直さなければいけない。
ギルド経由で技術が広まる可能性だってあるのだ。
それにギルドにも敵は潜んでいる。
あまり派手に動くと、相手に逃げる隙を与えてしまう。
慎重に行動しよう。
けれど、まずはこの地の無力化が先決だ。
この地の人達の扱いは私一人で決めきれる事ではない。
ギルド長さんやグリア達の助けも必要だ。
そのためにもまずは安全を確保しよう。
意を決してこの場にある魔道具を無力化する事にする。
不安定な複合魔石まで干渉しても大丈夫なのかしら?
それで暴走する可能性もあるんじゃない?
土壇場で思い直して、
複合魔石が使われているものは収納空間に納めていく。
なんなら、全て回収するべきだろうか。
けれど私が持ち出してもギルドに預けるつもりも無いのだし、
やっぱりここで無効化してしまおう。
その上で回収する事にしよう。
もしかしたら敵も修復できる程度の技術はあるのかもしれないし。
複合魔石の物が残っていないのを確認して、
杖の力で魔道具を無力化していく。
「さて、これで安全よ。
回収したいからノアちゃんも手伝ってくれる?」
「わかりました!」
ここからは音も出そうなので、部屋全体に防音結界を張る。
その後、私が開けた収納空間に
二人で魔道具を根こそぎ放り込んでいく。
そうして、部屋中の魔道具を回収し終えた。




