10-13.調査
私達は高台を降りて町に入っていく。
なんというか、町自体は普通だ。
あまり活気が無いこと以外は。
町の規模の割に人が少ない気がする。
日中だから仕事に励んでいるのだろうか。
ここにいるのは人間と獣人だけのようだ。
ドワーフもエルフも見当たらない。
まあ、エルフがこんなところにいるわけないけど。
町の人々は私達の事を気にしていない。
むしろ目を合わせないようにしているようだ。
ノアちゃんもいつものように話しかけにはいかない。
まだ様子を見ておくべきだろう。
先にボスを捕まえてしまったとはいえ、
まだ例の組織そのものは健在だ。
下手な事を話して敵に囲まれても面倒だ。
この規模の町を支配しているなら、
組織としての人員もそれなりにいるはずだ。
どうするべきだろう。
流石に町中で片っ端から魔道具を止めてしまうわけにはいかないだろう。
生活に使う程度のものまで奪う必要はない。
ダンジョン制御を奪う魔道具のような危険な物だけ無効化したい。
一先ず、奥の方を目指してみよう。
上から見た感じ、わかりやすくボスの居城みたいな建物は見つからなかった。
適当に時間が経ったらギルド長さん経由でボス本人にも聞いてみよう。
敵の本拠地は最深部にあるというのは定番だろう。
ボスが最初に出てきたのに今更定番も無いが。
「アルカ!嫌な気配がします!」
突然ノアちゃんが手を引いて進路と別の方向を指す。
進行方向から右前方の向きだ。
建物を迂回していかないと行けそうにない。
飛んでいくのはマズイだろう。
できればまだあまり目立ちたくはない。
「行ってみましょう」
私はノアちゃんに先導されながら
町の中を回り込んでいく。
繋いだノアちゃんの手から緊張感が伝わってくる。
どうやらそれ程の脅威が待ち受けているようだ。
町の端まで辿り着いた頃には私にも原因がわかった。
壁の向こうから夥しい数の魔物の気配がする。
それも一体一体が地上いるものとは比べ物にならない程強力だ。
「どこから向こう側に行くのでしょう」
見える範囲には壁の向こうに繋がっていそうな通路は見つからない。
私達は壁伝いに周囲の探索を続ける。
最悪、転移するという手もあるが、
どう考えても危険な場所だ。
転移門を繋ぐにしても向こうの状況がわからないのに、
こんな町中で開くわけにはいかない。
最低限この町に影響のないところまでは移動する必要がある。
一旦地上を経由してみるか?
けれどリヴィアが苦しんだ理由もこの中にあるのかもしれない。
仮にそうならあれだけ離れていても影響があったのだから、
迂闊に地上と繋げば地上の魔物達まで影響を受けかねない。
私の判断ミスで魔物の暴走でも引き起こしたら目も当てられない。
慎重に行動しよう。
まずは調べられる事を済ませてからだ。
「一回ここは置いておいて、
町の奥を調べてみましょう。
上から見えた働いている人達が何をしているのかも気になるわ」
「はい」
私達は再び町の中を調べながら、
地下空間の奥へ進んでいく。
彼らはどこから食料を調達しているのだろうか。
この規模の町を維持するにはそれなりの量が必要なはずだ。
上から見た限り、畑のようなものは見つからなかった。
地上にあるのだろうか。
地上は魔物も多く危険だが、
魔物除けのような魔道具があってもおかしくはない。
やっぱり一度地上から様子を見てみよう。
なにかヒントがあるかもしれない。
「ノアちゃん。少し地上の様子も見てみようと思うの。
すぐに戻って来るけど一緒に来てくれる?
私だけより見つかるものも多いだろうし」
「わかりました。行きましょう!」
私はノアちゃんを抱えて地上側の上空に転移する。
「ここがさっきの地下空間の真上の筈なんだけど、
なにか見えないかしら。どこかに畑でもあるんじゃないかと思うのだけど」
「見当たらないですね。一面森しかありません。」
本当に見渡す限り森しかない。
地下空間と出入り口が離れているにしても、
流石に離れ過ぎだろう。
農作はやっていないのだろうか。
それで十分な食料を得られるとは思えない。
「そうよね・・・
まあ、一先ずさっきのところに戻りましょうか」
私は再び地下空間内に転移する。
「ここの人達はどうやって食料を確保していると思う?」
「う~ん・・・
森で採取したり、動物や魔物を狩っているのでしょうか」
「やっぱりそれしかないわよね。
本当にまかないきれるのかしら」
「アルカみたいに転移を使える人がいるのではないですか?」
「それよ!
なんかつい選択肢から外してたけど可能性はあるわよね。
もしかしたら人じゃなくて魔道具かもしれないし」
「どこかに食料保管庫はあるでしょう。
見つけることができれば運びこむ方法も推測できるかもしれません」
「そうね。食料保管庫も探しましょう。
あと気になっているのは、
働いている人達の事と、
危険な魔道具の保管場所と、
壁の向こうの魔物達と、
組織の幹部の居場所ね」
「ここで幹部を抑えられれば世界中の拠点も判明するかもしれません」
「そうね。
そこまでしてしまえば後はギルドに任せてしまいましょう
一つ一つ回らなくて済むのはありがたいわ」
探知を使っても町の中にそれらしきものは見当たらない。
どこか別の場所に重要な施設があるようだ。