10-9.方針検討
私達が拠点に転移して暫く経つと、
リヴィアはようやく落ち着いた。
「いったい何があったのでしょう」
ノアちゃんは不安げにリヴィを抱きしめている。
「キュキュキュウ」
リヴィは何かを伝えようとしているが、
キュウじゃ何もわからない。
「いずれにせよ益々あれは放って置けないわね。
リヴィは何かに無理やり力を引き出されていたように視えた。
仮にあれが魔物を暴走させるようなものだったら放置するのは危険だわ」
「ドワーフの技術という事はまさか・・・」
「そうね。やつらの拠点って可能性もあるわね。
まさか未開拓地の深部に拠点があるとは思わなかったわ。
仮にそうなら六百年隠れ続けられるのも納得ね」
「単にドワーフ達が何らかの魔物除けをしている可能性もありますよね?
苦しめて近づけさせないのが目的かもしれません」
「まあ、それもそうね。
私はつい、あいつらの事を考えてしまったけど、
普通に考えればそっちの方が納得できるわね」
「どちらにせよ調べるしかありませんね。
その間リヴィをどうするべきでしょうか。
セレネのところで預かってくれると良いのですが」
「まだそこまで無責任な事はしたくないわね。
今更リヴィが危険だとは思わないけど、
魔物であることには変わりないもの。
いきなり人のいるところで目を離すわけにはいかないわ」
「・・・はい。
でもセレネなら・・・」
「ノアちゃんもわかっているでしょ?
セレネ本人は忙しいし、グリアは力不足。
ルネルは絶対に認めないわ」
「そうですね・・・」
「クレアにでも頼んでみる?
リヴィとも仲良くしてたし」
「・・・この前来てもらったばかりですし、
そう何度も呼ぶのは悪いんじゃないでしょうか」
ノアちゃん、さては次にクレアに会う時は
勝てる自信がついてからにしたいのね?
まあ、気持ちはわかるからこれ以上言うのは止めておこう。
本気で落ち込みかねないし。
「一応聞いておくけど、
ノアちゃんがここでリヴィと待っているっていうのは?」
「アルカを一人で行かせるわけがないでしょう?」
わかってたよ。
わかってたから、
その怖い笑顔止めて!
本気じゃないから!
ダメ元で聞いてみただけだから!
仕方がない。かくなる上は・・・
「・・・リヴィに収納空間に入ってもらうのはどうでしょう?」
「アルカ!?一体何考えて!」
「ちゃんと実験はしたから!
この前生きた魔物を入れて問題なかったの確認したから!」
「だとしても!そんな物みたいに扱えません!」
「じゃあ、どうするの?
他にいい案が無いじゃない。
そのまま連れて行っても苦しませるだけよ?」
「そうですけど・・・」
「なら調べるのは今度にする?
セレネかクレアに頼めるようになってからとか」
「・・・」
「キュキュイ!」
考え込んだノアちゃんをリヴィがちょいちょいと手でつつく。
「どうしたんですか?」
ノアちゃんの注意を引いたリヴィは、
私を指してから、
手で丸を描き、
そこに入るような仕草をする。
「収納空間に入ると言うのですか?」
「キュ!」
肯定のようだ。
賢いとは思っていたけどここまでなの!?
私達の会話を正確に認識して、
ノアちゃんが困っているのを察したらしい。
その上、自分から入るとまで言い出した。
やっぱりこの子普通の魔物とは違いすぎる・・・
「ダメです!そんな事させられません!」
「キュキュウイ!」
その後、ノアちゃんとリヴィは暫くそんな話を続けていた。
「アルカぁ・・・」
遂に困り果てたノアちゃんは私に助けを求めてきた。
「キューイ!」
私に収納空間を開くように促すリヴィ。
ノアちゃんの許可は諦めて勝手に入る事にしたようだ。
どうしよう・・・
ノアちゃんが納得していないのに入れるわけにはいかない。
けれどリヴィはノアちゃんの為に行動している。
それならこっちも無視するわけにもいかない。
「ノアちゃん。やっぱりクレアにでも頼む?」
「そうですね。収納空間に入れるくらいなら・・・」
「キュキュイ!!!」
リヴィは猛抗議だ。
「リヴィもこう言っているし、
やっぱり収納空間に入ってもらう?」
「アルカ!?どっちの味方なんですか!!
そんな簡単に手のひら返さないで下さい!」
「もちろん私もリヴィもノアちゃんの味方よ。
二人が納得する方を選びたいもの・・・」
「そんなの無理です!」
その日はリヴィとノアちゃんの会議が遅くまで続いた。
ノアちゃんは結局リヴィの熱意に負けて、
収納空間に入ってもらう事を選んだ。