10-7.好敵手
「ノア!でかくなったなぁ!」
再会早々、ノアちゃんの両脇に手を入れて持ち上げるクレア。
やってることが久々に親戚の子に会った叔父さんみたいだ。
ノアちゃんの喜び方も女の子というより、
甥っ子みたいだから似た者同士かもしれない。
ノアちゃんの要望でクレアに来てもらうことにした。
久々に挑戦したいらしい。
その次は私の番ね!
これじゃあ私も似たようなもんか。
挨拶もそこそこに早速向かい合う二人。
この感じも二人らしい。
「始め!」
私の合図で正面から切り合うノアちゃんとクレア。
ノアちゃんは最初は真っ向勝負を挑むつもりのようだ。
成長を見せたいのだろう。
クレアは言うまでもなく愚直に斬りかかるだけだ。
前と何も変わっていない。
剣の技量と神力の扱いが馬鹿みたいに上がっているけど。
二人の剣を振る速度は速すぎて目では追えない。
覚視でクレアを視ると纏う神力の密度に驚く。
あんなの私でも突破できそうにない。
セレネの結界のように転移させる事も出来ないし、
空間ごと捻じ曲げようにもクレアの動きを止めないと不可能だ。
ノアちゃんのように移動が視えない程速いわけではない。
ただ、大きな力で真っ直ぐにぶつかってくる。
下手な結界程度で止まるわけがない。
どうやって戦おうかしら。
二人の戦いを観察しながら、
自分の場合を想像する。
ノアちゃんは正面から切り結ぶのには満足したのか、
距離を取って気配を隠す。
どうやらクレアは見失ったようだ。
ノアちゃんは私と戦う時のように、
気配を隠しながら、少しずつ切りつけていく。
ノアちゃんの動きに慣れていないクレアは
なんの抵抗も無く攻撃を受けるが、
纏っている神力で全て弾き返している。
ノアちゃんは弱そうな所を狙って次々に攻撃を仕掛けるが、
やはり一撃も有効打はない。
このままでは埒が明かないと、
クレアの防壁を一点突破で破ろうと大きく踏み込んだノアちゃん。
クレアはその瞬間を待っていたようだ。
ノアちゃんの一撃にカウンターをしかけた。
決着の瞬間はあまりにも速すぎて私には見えなかった。
気付くとノアちゃんが尻もちをついて、クレアが剣を向けていた。
「・・・参りました」
「強くなったなぁ!
けど最後は勝負を焦ったなノア。
途中までは速すぎて全然見えなかったぞ。
あのまま攻められてたらやばかったぜ!」
笑顔でノアちゃんの手を掴んで起こすクレア。
ノアちゃんの顔はこちらからは見えないが、
後ろ姿からも悔しさが伝わってくる。
憧れのクレアに良いところまで迫ったのに、
負けてしまったことが悔しくてたまらないのだろう。
私はノアちゃんの所に転移して、
ノアちゃんを抱えてまた少し離れた所に転移する。
「アルカ?」
ノアちゃんは私の行動に不思議そうにする。
私はノアちゃんをこちらに向かせて、
正面から抱きしめる。
暫く何も言わずに頭を撫で続けた。
ノアちゃんは泣くことはなかったけど、
必死に堪えながらされるがままになっていた。
ノアちゃんが落ち着いたのを見届けて、
クレアに向き直る。
「次は私よクレア!」
「いいぜ!かかってこい!」
私はノアちゃんを残して、
クレアの正面に転移する。
お互いに構えて向き合うと、
開始の合図も無く斬り掛かってくるクレア。
私達にとってももう何度も繰り返してきた事だ。
今更驚くようなことじゃない。
私は上空に転移して弓を構える。
最大威力の闇の矢を次々に放っていく。
クレアは迫ってきた矢を切り捨てていく。
矢をつがえる一瞬の隙をついて、
クレアが上空の私に向かって突きを放つ。
どう見ても届くわけがないのに、
咄嗟に危険を感じてその場を離脱する。
左腕に何かが掠って切り裂かれる。
どうやら剣を神力で延長して突きを届かせたようだ。
覚視で神力の剣が霧散するのが視える。
もはやクレアに間合いは関係ないのだろう。
次はこれは避けられないかもしれない。
私は地上に転移して、
クレアに向き直る。
私に向かって突進してきたクレアの進路上に、
巨大な転移門を出現させる。
クレアは剣を振り抜いて転移門を切り裂いた。
私は転移門を目眩ましにして再び上空に転移した。
今度は覚視の知覚範囲外の超高高度だ。
一度地面に降りたのは上空から注意を逸らすためだ。
そして転移門は使い方次第で一瞬なら覚視対策にもなる。
視る場所を強制的にずらす事ができるのだから。
転移門を切り裂いて私を見失ったクレアに今度は超高高度から、
大きく力を込めた爆撃魔法付きの闇の矢を放つ。
闇の矢は落下の加速も合わせて高速でクレアに迫っていく。
知覚領域外からの攻撃に反応の遅れたクレアは、
剣で迎え撃つ事を諦めて、
瞬間的に神力の衣を強化して守りの姿勢を取る。
着弾の瞬間発生した大爆発で吹き飛ばされるクレア。
私は倒れたクレアの元に転移して闇の槍を突きつける。
「参った」
「何が参ったよ。
前のクレアならまだ向かってきてたはずよ。
実際、こんな槍じゃあなたの神力を突破できないわ」
「剣を手放しちまったから負けだ負け。
ノアの前でみっともないことしたくないしな」
「そう。
ノアちゃ~ん!敵は取ったわよ~!」
「お前!いきなり態度変わりすぎだろ!
何で一回確認入れたんだ!性格悪すぎるだろ!」
「だって~
ノアちゃんの前ではっきりとさせておきたかったし~」
「おま!もう一回だ!次は負けねえ!!」
「嫌よ。クレアの馬鹿みたいな防御力そんな簡単に突破できないもの。
また手を考えたら戦ってあげるわ」
「前はそんなんじゃなかっただろ!」
「お陰様で最近戦うのが楽しいのよ~」
「勝つのが楽しいの間違いだ!」
「ふふふ。なんとでも言うがいいわ~」
「アルカ!」
結局そのままもう一戦始まった。