45-36.三人組
「とまあ、クーデターに関してはそんな感じよ」
「そんな感じって……」
「軽いなぁ……」
「恩赦って規模じゃないでしょうに……」
「けど実際問題あの大会を観て抗おうとする国があるのかしら? あのとんでも曲芸大会に参加した全ての選手が今や皇帝陛下の手の内なのよ?」
「「「……そりゃ無理だ」」」
だよね♪
「とんでもないゴリ押しね」
「結局力ずくで従える気なんだね」
「けれど間違いなく、帝国はより絶対的な強国として生まれ変わるわ」
なんだかんだと目的は果たしたと言えるわよね。
「これは本当に安心して良い事なのかしら」
「そんなわけないじゃん。絶対に荒れるよ」
「そうね。全ての国が現実を受け入れるのは難しいもの」
その懸念はある。皇帝があからさまに力を誇示してしまえばどれだけ平和な国を築いても物申す者は出てくるだろう。私の存在こそが大義名分としても機能してしまうのだ。
強大過ぎる力は一長一短だ。抑止力としてだけでなく、敵を作る口実にもなりかねない。抑圧が不満を生むのを待つまでもなく悪と断ずる事が出来てしまう。そして扇動する者達の存在にも心当たりがある。計画の変更はこれからの世界を大きく変えてしまうのかもしれない。
ただしそれ自体は最初からわかっていた事でもある。当然フロル達はそれを理解した上で計画変更に踏み切ったのだ。やむを得ない事情もあったとは言え、無策で強行したわけではない筈だ。
「早速だけど三人には仕事をしてもらいたいの」
「本当に早速だね」
「急すぎるわ」
「もう、二人とも……。やります。アルカさん。やらせてください」
「ありがとう、シア。先ずはこれを受け取って」
三人にメタモルステッキを与えた。
「これに聞けば知りたい事は何でも教えてくれるわ。皆も知っているでしょう? あの事件の時に世界中に現れた少女の事を。これにはその少女と同じ存在が入っているの」
「入ってる? このイヤリングに? っ!?」
イヤリングはステッキの待機形態だ。早速ユニの耳元で人工知性が疑問に答え始めたのだろう。シアとリシュも似たような顔をしている。後はこの子達の思考を読み取って各々の知りたい事を教えてくれるだろう。
「ルカ。後はよろしくね。一先ずコレット達と合流して指揮下に加わって頂戴」
「がってん!」
よしよし。これで心配は要らないわね。取り敢えずの試験採用ってことで。まあ逃がすつもりはないんだけども。
「えっと次は」
『後は大人しくしていてください。これ以上のイレギュラーは許容できません』
あら。遂になのね。お祭りもお終いなのね。
『ひま~♪ おふろ~♪』
まだよ。お風呂は夜にね。
『え~!』
流石にマズいでしょ。まだ皆働いてるんだし。
『それくらいは別に構いませんよ。部屋で待機しているだけなのも退屈でしょう』
それはそれよ。どうせまたパトラ達だって居るでしょうし、退屈なんてしてる暇は無いと思うわよ。
『それはそれでどうなんでしょう?』
大差ないかもだけど。でもすぐに動けない状態で過ごすのもなんか違うと思うしさ。
部屋に戻ると案の定パトラ、ジャンヌ、キッシュの三人が待ち構えていた。というか私のベットでごろ寝していた。いつも通りの光景だ。
「まぁま!」
「あらアルル。エリスはどうしたの?」
「おしごとー!」
あらあら。子供達まで駆り出されているのね。
「私は子守~」
別に咎めたりしないってば。そんな言い訳しなくたって。
「わかっているわ。ジャンヌとキッシュはクーデターに関与した側だし、パトラはお預かりしているお子ちゃまだもの。仕事なんて割り振ったりしないわよ」
変装でもなんでも出来るだろうけど、わざわざそこまでする程じゃないものね。全くの素人を駆り出すのはかえって手間になるだろうし。その点、エリスやシア達は姫やそれに近い高位貴族として生まれた子達だもの。この三人よりは戦力になるでしょ。
「なんだなんだぁ? 失礼だなぁ~」
「とは言えだらけすぎよ。あんまり良い気はしないわよ」
「まあいいじゃん。私はまだ子供なんだからさ」
都合の良いこって。って、自分で言われると思っちゃうわよね。
「それよりなにさ。それ」
「なにって?」
「アルカまた変わってるじゃん」
あら、気付いたの。それは素直に驚きね。
「ほんと手が早いわね」
「それでこそアルカ様です」
ジャンヌはともかく、キッシュのそれは褒めてるの?
「どうしたの? 三人とも少し機嫌悪い?」
「べっつに~」
「そんなわけないじゃない」
「私は違います」
本当かしら?
「ジャン姉、キッシュ姉。行こっか」
「ええ」
「はい。パトラ」
なんでさ?
「まま……」
「どったのアルル?」
アルルまでご機嫌ナナメ?
「……」
私に抱きついて顔を伏せてしまった。お眠かしら?




