10-3.日常
「リヴィア!こっちですよ~!」
ドラゴンの子供は「リヴィア」と名付けられた。
よくある名前のオリヴィアから取った。
オリーブが由来で平和とか優しいって意味があるらしい。
ノアの方舟の話にもオリーブが出てきたはずだ。
そんな内容をノアちゃんに説明して提案してみた。
ノアちゃんはヴァイスと悩んだが、
リヴィアの方を採用した。
リヴィアは毎日ノアちゃんと一緒に駆け回っている。
まだ飛べないようだ。
必死にパタパタと飛ぶ練習している姿もよく見かける。
ノアちゃんとリヴィアはすっかり仲良しだ。
この調子なら問題なく育てられるかもしれない。
魔物だからもっと凶暴になるかと思っていたが、
特にそんな事も無くちゃんと力加減も出来ている。
意外と賢い。
まあ、今はまだノアちゃんの方が力強いのだけど・・・
リヴィアはよく私にも抱きついてくる。
どうやら胸の感触が好きなようだ。
ごめんよ。何も出ないんだ。
この子もしかして男の子だったりしない?
それを見たノアちゃんはリヴィアを抱き上げて
代わりに自分で私の膝に座る。
嫉妬ノアちゃん可愛い。
けどちょっと大人げないゾ!
相手はまだ赤ちゃんだぞ~
「リヴィアは私が抱っこするから良いんです!」
だそうだ。
まあ、リヴィアも大人しく抱かれているから
気にしなくても大丈夫だろう。たぶん。
流石にリヴィアごとノアちゃんを抱っこしていると窮屈だ。
身体能力が高いお陰で潰されてしまう事はないけれど。
ノアちゃんはとても大きくなった。
そろそろ身長もそんなに変わらない。
始めて会った時は私の胸より下に頭があったのに、
もう肩くらいはある。
始めて会った時は、
境遇のせいか年の割にかなり背が低かった。
私と出会ってからは順調に成長して、
今では平均より少し低い程度だ。
今の私は日本基準なら高い方だけど、
こっちでは背が低いほうだ。
ノアちゃんに抜かされるのは間違いない。
何時まで膝に乗って甘えてくれるのだろうか。
もうこうしていられる時間も少ないのかもしれない。
そんな事を考えて寂しくなっていると、
じっとしている事に飽きたリヴィアはノアちゃんの膝の上を飛び出していった。
ノアちゃんは立ち上がると私に抱きついてから、
リヴィアを追いかけていった。
寂しがっているのに気付かれたのかな?
もしかしたらノアちゃんも同じことを考えてたのかな?
まあ、ノアちゃんから甘えてくれなくなったら
今度はこっちから甘えてみよう。
それはそれで楽しみだ。
「アルカも来て下さい!」
ノアちゃんの呼ぶ声がする。
一緒に駆け回るのもたまには良いだろう。
私は二人を追いかけてテントを出る。
ノアちゃんとリヴィアと追いかけっこしているだけで、
また一日が過ぎていった。
リヴィアが生まれて一月程が過ぎた頃、
ノアちゃんが私との模擬戦にリヴィアを連れてきた。
いつもは側で眺めているだけだが、
今日はどうやら一緒に戦うつもりらしい。
いくらリヴィアが賢くてもまだ早くない?
「大丈夫です!しっかり練習してきましたから!」
生後間もないのに既にノアちゃんは戦闘技術まで仕込んだらしい。
いつの間にそんな事をしていたのだろう。
まあ、良いだろう。
ノアちゃんが自信満々で連れて来るくらいだ。
それなりに戦えるのだろう。
模擬戦まで理解出来るほど賢いなら
人間の町を連れ歩けるのもそう遠くはないかもしれない。
開始の合図と共に私は地面を泥化する。
ルネルから教わった地面を操作する魔法だ。
鍛錬を重ねて手を付かずに使えるようにしたし、
単なる操作だけでなく状態の変化も出来るようになった。
ノアちゃんに披露するのも始めてだ。
リヴィアはまだ飛べないだろうし、
ノアちゃん程速く動けるはずもない。
二人で連携するなら有効なはずだ。
「アルカ・・・酷い・・・」
流石にやりすぎたかもしれない。
ノアちゃんが大人げないって顔してる。
ノアちゃん一人なら神力で足場を作ってどうにでもなっただろうけど、
リヴィアの頑張りも披露したかったのだろう。
空気を読むべきだったかもしれない。
「戦闘中に何を言っているの?
相手が嫌がる事をするのは基本よ」
「・・・そうですね。リヴィ!」
ノアちゃんが声をかけると、
リヴィアはそのまま私に向かってブレスを吐いてきた。
!?
もうそんな事まで出来るの!
威力は大したことがないけれど、
視界を奪うには十分だ。
虚を突かれたのもあって、
気配を消したノアちゃんを一瞬で見失う。
私は瞬時に転移してその場を離脱する。
覚視で見つけるにしても、
あのまま棒立ちでいるわけにはいかない。
ノアちゃんを探して集中するが、
更に腕を上げたノアちゃんは見つからない。
ノアちゃんは気配を消しながらすれ違いざまに切りつけてくる。
まだ攻撃してくる一瞬だけ気配が感じ取れるので、
なんとか攻撃を凌いでいるがこのままではジリ貧だ。
ノアちゃんはずっとリヴィアにかまけていたのに、
鍛錬は欠かしていなかった。
今のノアちゃんは簡単には居場所を特定できないので、
上空に上がっても矢が当てられない。
爆撃魔法も見せすぎているので簡単に対処するだろう。
私は自身を結界で囲ってから、
霧を生み出して周囲を覆っていく。
この霧には私の魔力が込めてある。
覚視と組み合わせて、自分の魔力が及ばない場所を探知する。
ノアちゃんを見つけて攻撃に移ろうとした直後、
結界を割られる感触があり、
私に短刀を突きつけるノアちゃんの姿があった。
「参ったわ」
「やりました!」
ノアちゃんはいつの間にか側に来ていたリヴィアと、手を取り合ってぴょんぴょん飛び跳ねている。
「まさかあんなにあっさり結界を破られるなんて。
何をしたの?」
「もちろん内緒です!」
ですよね~
毎日のように競い合ってるのだもの。
あっさり教えてくれるわけがない。
自力で謎を解くとしよう。
たぶんセレネ対策に用意していたものだろう。
その辺りにヒントは無いだろうか。
「さあ、帰ってお昼にしましょう。
けれどその前にお風呂ね。二人共泥だらけだわ」
「え~!!
アルカのせいじゃないですか!
横暴です!!!」