45-10.歩み寄り
「「すみませんでした!」」
「……悪かったわ。言い過ぎた」
あら。ユニまで。
「ありがとう、皆。私の方こそ、」
「ストップ。もう謝らないで。アルカさんは必要な事をしたんでしょ。それをボク達に教えてくれるんでしょ。ならこれ以上謝っちゃダメだよ。堂々としていて」
「……ええ。わかったわ、リシュ」
凄いわね。この子達。
「それから。あなた達の方こそ申し訳ないなんて思わないで。勝手な事を言わせてもらうけれど、私はあなた達の気持ちをありがたいと思っているの。あなた達は私を恨んで尚真実を追い求めようとしてくれた。そうして私の下に辿り着いてくれたの。私を正しく理解しようとしてくれている。これがどれだけ難しい事なのかわかっているつもりよ。私にとっては本当に嬉しい事だったの。だからありがとう。改めて宜しくね。あなた達が満足するまでいくらでも調べていってね」
私が手を差し出すと、握ろうとしたシアを抑えてユニが前に出た。
「勘違いしないで。握手なんかしないわ。無礼は詫びたけど仲良くしたいわけじゃない。私達は恨みを捨てはしないわ。ただ迷ってしまっただけよ。あまりにもあなたを擁護する人達の声が多かったから。あなたが私達に誠実であったから。だから感謝はしているわ。こんな私達に真実を明かしてくれてありがとう。けれどそれはそれよ。あなたを本当に信頼するかはこれからよ。どうか御理解いただけるかしら?」
「ええ。あなたの言う通りね、ユニ、いえ。ユーニスさん」
「結構よ」
「ボクはリシュでいいよ♪ アルカ♪」
「ありがとう、リシュ」
「シアはどうするの?」
「私もどうかシアとお呼びください」
「ええ。わかったわ。シア」
「ふふん♪ これで残るは頑固者だけだね♪」
「何が一蓮托生よ。裏切り者」
「この場合裏切ってるのはユニの方じゃないかな?」
「そうよ。私達はアルカさんの好意で情報を頂いているの。それはそれと言うならユニこそ弁えなさい」
「そんなの仇に対する態度じゃないわ。ハンナが浮かばれないじゃない」
「リシュ、シア。ユーニスさんの言う事も尤もよ。そんな事で追い返したり情報を出し渋ったりは絶対にしないと誓うから、どうか許してあげてね」
「なによそれ……意地張ってる私が馬鹿みたいじゃない」
「だからそう言ってるじゃん」
「わかったわよ! ユニでもなんでも好きに呼びなさい!」
「えっらそ~」
「っ!」
「リシュ。もうその辺で」
「は~い♪」
ふふ♪
「アルカさん。金属生命体についてより詳しく教えてくださいますか?」
「もちろんよ、シア。あなた達が望むならあの時ハンナちゃんが置かれていた状況もより詳しく伝えるわ」
「お願いします」
当然その内容は酷なものだけど、この子達ならきっと受け止められる筈だ。私はそう信じる事にした。
「シーちゃん。お願いね」
「イエス。マスター」
「「「わっ!?」」」
またスルッと現れたわね、シーちゃん。あまりお客様方を驚かせ過ぎてはダメよ。
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「お疲れ様。アルカ」
「うん。ルカも色々ありがとう」
「良いってことよ」
ふふ♪ なにそれ♪
「ルカはこの後どうするの? アリア達の方に戻る?」
「ううん。ここいる」
「そっか♪ あの三人が気になるの?」
「うん。そんなとこ」
「ルカはどう思う?」
「面白い」
「面白い? どんな所が?」
「いろいろ」
「いろいろか~」
「不相応。何もかも」
「手厳しい」
「力も無いのによく吠える」
「ひどい……」
力については概ね見立て通りだったわね。私を追う前にもう少し修行を頑張っておくべきだった気も……。まあ度胸はあるわよね。そこを不安視するルカの気持ちもわかるけど。
「教養も足りてないのに真実に固執する」
「そこはこれからだから……」
と言うか求められてるレベルが高すぎるだけだと思う。世間一般で見れば十分教養はある方だ。正直お姫様説も俄に真実味を帯びてきた。
「縁も無いのに短期間で信用する」
「私としてはむしろありがたく思うべきで……」
これも不安に思う理由はわかるけども。あの子達よくこれまで無事でやってこれたわね。あんな可愛い女の子達三人だけで平和にやっていける程冒険者は甘くないのだけど。
「三人でならどんな困難も乗り越えられると勘違いしてる。まやかしの万能感で無茶をしてるんだよ。そこがとっても面白い。まるで物語の主人公みたい」
「つまり気に入ったと」
珍しく饒舌だ。
「そう。気に入った」
「それは何より」
ルカがアリア以外の人に自分から興味を抱くなんて。やっぱり最初に助けようとしてくれたから嬉しかったのかな。ルカも人の事言えないわね♪
「面倒見てあげる」
「わかった。なら三人の事はルカが担当してみなさい」
「頑張る」
ふふ♪ 少し早いけどルカには期待してるからね♪ なにせ将来は私の側近希望だもんね♪ 学園や修行も忙しいだろうけど頑張って♪
「シーちゃんの講習が終わったみたいね」
思ったより随分と早かった。これは「ILis」を使ったみたいね。
「顔真っ青。皆吐きそう」
仕方がない。内容は金属生命体の寄生についてだもの。かつてはそれが自分達の頭の中にも住み着いていたのだ。彼女達は元寄主だ。命こそ助かったが、同時に自分達が感染源となって広めてしまった事も詳しく知ってしまったのだ。あれはグロテスクな資料を観てしまった事だけでなく、その事実に対して罪悪感を抱いた事も含まれているのだろう。
「お疲れ様。少し休憩にしましょう」
この提案に反対する者は一人もいなかった。




