44-37.大人の対応
「それで何故わらわを呼んだ?」
「ディベートと言えばフロルでしょ!」
「つまりなんだ? お主は言い負かされたら道理を踏み外すと言うのか? 童の我儘に付き合うのも大概にしろ。お主は真摯であるのではない。優柔不断なだけだ。薄情と毅然は違うのだ。くだらん事をやっとらんでとっとと寝てしまえ」
ぐぅ……。
「パトラ」
「はい!」
お怒りフロルに向かってピシッと背筋を伸ばすパトラ。
「あまりアルカを困らせるな。庇護下に置かれている自覚を持て。尚も我を通すと言うのなら筋を通せ。真にお主が説得すべきはアルカではない。自ら両親を納得させるのだ。その為には立派に成長した姿を見せるしかない。だから今はどうあっても叶えられん願いなのだ。そう心得よ」
「サー! イエッサー!」
「うむ。お主には期待しておるぞ。お主は中々見どころがあるからな」
「感激であります!」
「よし。ならばもう寝ろ。子供は早寝早起きの習慣を忘れるな。ここが『Ilis』の中であろうと関係ない。重要なのは習慣だ。お主の心はどうあれその肉体は幼子のものなのだ。それを決して忘れるな。油断すれば心身の成長に差し障るぞ。心は肉体の影響を受けるものだ。そして強き肉体を育て上げるには習慣が何より大切だ。わらわはお主の成長に期待しておるのだ。わらわの期待を裏切るでないぞ」
「がってんであります!!」
「よろしい」
パトラは素直にベットへと潜り込んだ。私の時とは大違いだ。ぐぬぬ……。
「ジャンヌ」
「今日の所は引き下がるわ」
判断が早い!
「明日付き合え。お主とは一度話しておきたい」
「承知したわ」
「うむ。ではな」
「おやすみ。……フロルさん」
「うむ」
フロルは自身の寝床へと帰っていった。
「流石は皇帝陛下ね」
「威厳が違うよね」
「私には無いって言いたいのね」
「「……」」
なんか言えやこら。
「アルカも本気モードだと違うんだけどね」
「どう違うの?」
「寝なさい」
「「は~い」」
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「私も同席してよかったの?」
「当然だ」
それだけ?
「ジャンヌ。わらわに何か聞きたい事はあるか?」
「謝罪を」
「要らん。それより質問に答えよ」
「……ありません。知るべき事は知りました」
「結構。ならば仲直りだ」
「感謝します」
「うむ」
二人は握手を交わしあった。
「それでだ。お主の知っている事を聞かせてもらいたい」
「エデルガルト卿の事を?」
「そうだ。其奴は間接的にとはいえ我が領土を侵した。相応の報いを受けさせねばならん」
「それは難しいかと」
「可能か不可能かは関係ない。話せ」
「あのお方、いえ。彼は……」
エデルガルト卿とは、ヴァガル帝国からムスペル王国を挟んで更に遠方のウルスト王国という国の高位貴族だそうだ。
『私からも補足させてもらうわね』
ジャンヌが知らない事もパトラの記憶を読み取ったアイリスが補足してくれた。
エデルガルト卿は王国を裏から操りつつギルドとも協力関係を結んでおり、莫大な財産による支援活動だけでなく、自らの手駒をギルドの暗部に置く事で世界各地から情報を集めているそうだ。実質的にギルドの重鎮の一人と言って良い。
当然エデルガルト卿が手を結んでいたのはギルドだけではない。アスラを含む世界中のあらゆる大規模犯罪組織とは繋がりがある。勿論それ以外の真っ当な組織とも。とにかくギルドのネットワークを使ってあらゆる場所に手を広げるこの世界の影の支配者みたいな人らしい。
「むしろよく私達は三年程度で失脚させられたものね」
そんな人そう簡単には引きずり下ろせないでしょ。
『本気で潰しにかかったみたいよ。よっぽどアルカの逆鱗に触れたんでしょうね』
こっちの私からするとそこまでした理由がわからないのだけども。
「理由はなんだ?」
『わからないわ。少なくともパトラは聞かされていないの』
「肝心な所が抜けておるのだな。その理由は重要だぞ。事によってはこちらでも何らかの危機が訪れるやもしれん」
そうね。ただ物理的に亡き者にしてるわけじゃないなら世界の危機って言う程でもないのでしょうけど。本当に形振り構っていられないなら直接手を下していた筈だもの。
「ジャンヌはどうだ? 心当たりはあるか?」
「いいえ。私もこれ以上の知識は持ち合わせていないわ」
「ふむ。ならばサンドラ王妃にご足労頂くか」
「そうね。お義母様なら何か知っているかも」
「対価を求められるであろうな」
「ダンジョン知識はあげないわよ」
「まあ任せておけ。交渉はわらわの担当だ」
「お願いね」
「アメリにも調べさせておけ」
「ええ。アメリには悪いけどすぐに動いてもらいましょう。それからノアちゃんにはカリアさんを」
「ミユキに行かせろ」
「……そうね。今回はお姉ちゃんの方が適任ね」
「よし。今はこんな所だな」
「もう良いの?」
「ここでこれ以上話し合っても仕方があるまい。どのみちまだ暫くは『Ilis』に籠もるのだ。何か気付いたら何時でも伝えよ。それ以外は特段気にするな。なんなら忘れてしまえ」
「わかったわ」
「感謝します。皇帝陛下」
「お主も良いのだな?」
「はい。討ち取って頂いて構いません。そしてどうか私にもお役目を頂きたく」
「時が来たら任せよう。それまで精進を続けよ」
「御意」




