44-36.子供の成長
やっぱり引き離そうかしら。世の親御さんは仲の良すぎる兄妹姉弟ってどうしているんだろう? まさか片方追い出して一人暮らしさせるってわけにもいかないし……。
「あ~そこそこ~♪ いいよ~♪ ジャンね~♪」
「うふふ♪」
今は普通に就寝前のマッサージをしているだけだ。なんなら普段の私より健全だ。確かに私はパトラより小さな少女達にも手を出している。人の事をとやかく言えた立場じゃない。
けどそれはそれだ。エリスやアニエスみたいに手を出していない子達だっているのだ。人にはそれぞれの事情がある。ルカやリヴィに手を出してしまったからと言ってパトラまで巻き込んで良い筈が無い。何より私はそう決めたのだ。ここは毅然とした態度を貫こう。
「アルカも~」
もみもみ。
「ごくらく~」
いいご身分なこって。私がこんなに悩んでいるってのに。
「痛たたたた!?」
「あら失礼」
ジャンヌ?
「少し力が入りすぎてしまったわね。痣になっていないか確認するわ。パジャマを脱ぎなさい」
「ジャンヌ」
「あら? 何を怖い顔しているの?」
「この世界で痣なんて気にする必要は無いわ」
常時自動回復ついてるし。例え痣になっていたとしても既に消えている筈だ。
「そうなの? 知らなかったわ」
嘘つき。人格データのインストールなんて言葉まで出てくるくせにそんな事に気付いてない筈が無いでしょうに。
「パトラ。油断してはダメよ。あなたも自衛なさい。ご両親が悲しむわよ」
「えっと……なんで?」
……え?
「アルカはなんで止めるの? お父さんとお母さんは私が幸せなら喜んでくれるよ?」
……いや、え?
「ううん。全然わかんないってわけじゃないんだよ? アルカに子供を守る責任があるって事はわかってるの。知識としてはね」
そう、よね?
「けどなんで二人は悲しむの? アルカがそういうって事はそれが正しいって事はわかるんだよ? アルカの事は信じてるもん。本気で心配してくれているか意地悪しているかの違いくらい私だってわかるの」
「何がダメなのか本当にわからないの?」
情操教育が足りてないってこと?
「えっとね。昔アルカが、ううん、未来のアルカが沢山説明はしてくれたの。幼い子に手を出すのは悪いことだって。判断能力の足りていない子供を利用して自分の欲求を満たそうとする事は悪いことだって。アルカはそう言ってた」
良かった。そこは理解しているのね。
「でも私判断出来るよ? 自分の意思で選んでるんだよ? それでアルカは一度受け入れてくれたじゃん。未来のアルカの話だけどさ。私達にとって身体の小ささなんて些細な問題でしょ? アルカだって子供モードがあるじゃん?」
「……私は今のパトラが大人と呼べる精神年齢に達しているとは思えないの」
「大人じゃないとダメなの? なら私が今のまま十五歳になったら? あと七年この仮想空間や深層で過ごせば認めてもらえるの? お父さんとお母さんが変わらず私を八歳だと思っていても?」
それは……。
「つまりアルカは二人に対して罪悪感があるから認められないんだよね? そこは私の精神年齢と関係ないよね? 現実世界で七年間経たないとダメって事だよね?」
「そうよ。その通りよ。ズルい答えと思うかもしれないけど納得して頂戴」
「それは私が深層で百年過ごしても覆らないの?」
「……そうよ」
「それは嘘だよね。きっとアルカは途中で認めるよ。実際未来のアルカはそうだったもん」
「それは……」
既に両親が……いや、そんな事は関係ない。咎める人がいないから許されるなんて卑怯な考え方をした筈がない。
「今ある問題は二つだけだよね? 常識的な判断とお母さん達への罪悪感。この二つはどうやったら解消されるかな? 時間経過以外の方法って無いのかな? ある筈だよね? だって未来のアルカは途中で認めてくれたもん。私は今すぐにでも皆と愛し合いたいの。その為にはなんでも頑張るから。だからお願い。相談に乗ってくれるかな?」
「いや……それは……」
くっ……。急に理路整然としおって……。
「お願い、アルカ」
「……パトラも誰か同化させてたりしないわよね?」
「疑うの? アイリスに聞いてみたら?」
「……ごめんなさい」
「相談に乗ってくれる?」
「無理よ。それこそ裏切りだもの」
「そっか。罪悪感が邪魔をするってそういう事なんだね」
「わかってくれたのなら諦めて」
「ならアルカは親のいない子になら手を出せる卑怯者なんだね」
「……そうね。認めるわ」
「ダメだよ。アルカはそんな人じゃない。いっぱい悩んだ末だってわかってる。今も私の為に悩んでくれてるってわかってる。だから認めちゃダメだよ」
「パトラは私をどうしたいのよ」
「アルカだけが悩む必要は無いんじゃないかな? 私に相談してよ。アルカがどうしてもって言うなら私がジャン姉を止めてあげるから」
「けどパトラだって」
「うん。我慢出来ないかも。私自慢じゃないけど欲望には正直な方だし」
「本当に自慢出来ないわよ……」
「けどアルカが一人で悩んでるのを放っておける程薄情でもないよ?」
「……そうね。パトラはとっても良い子よ」
「ふふ♪ ありがとう♪」
「……これも作戦の内かしら」
「すっかり疑心暗鬼だね。実際そうなんだけども。これからは私の大人っぽい所も見せていこうかなって」
「いつか流されてしまいそうだわ」
「ふふふ♪ 計算通り♪」
「将来が不安だわ。とんだ悪女に育つんじゃないかしら」
「魔女の弟子だからね♪」
「私別に腹芸得意じゃないわよ?」
「誑かすのは得意でしょ」
そうだけどさ。
「大丈夫♪ ちゃんとジャン姉の手綱も握ってみせるから♪」
「少し前までビビってたじゃない」
「私だって成長するんだよ?」
……そうね。本当に驚く程早い成長よね。ノアちゃんの言う通りだわ。まあ、ここ数日すぐそばで私とジャンヌがバチバチやっていたものね。図らずも手本を見せてしまっていたのよね。ほんと、失敗したわ。
「話をしよう。アルカの覚悟が決まるまで私も待っていてあげるから」
「待つのは私よ。パトラじゃないわ」
「今更主導権を取り戻そうとしてる?」
「手放したつもりはないわ」
「それは無理があるんじゃない?」
「無理だろうがなんだろうが意地を張らなきゃいけない時ってものがあるのよ。大人にはね」
「ふふ♪ 自分が劣勢だって言ってるようなものじゃん♪」
「正直二人がかりで来られたら手を焼きそうだわ」
「ならそろそろ私も参戦しようかしら♪」
「嫌。今日はもうお終い」
「まだまだ夜はこれからだよ♪」
「良い子は寝なさい。早く大人になれないわよ」
「子供じゃないもん♪」
「まだまだ子供よ。あなたは」
「先ずはそこから議論しよっか♪」
「待ちなさい。応援を呼んでくるわ」
「あ! ずっこい!」
「どっちがよ! 二対一の方がズルでしょ!」
「なんだかアルカも子供みたいね」
「そうだ! なら全員子供モードでってのはどうかな! アルカも責任とか諸々忘れてさ!」
「良いわけ無いでしょ!」




