44-33.悪巧み
「ふふ♪ 可愛い寝顔よね♪」
「……」
「どうかした? 私の顔に何か付いているかしら?」
「……あなた本当にジャンヌ?」
「あら。ふふ♪」
なんかこの感じどっかで覚えがあるのよね。少し久しぶりな気も……。
「アイリス」
『ナイショ♪』
グルか。
「ならシーちゃん」
『NPCマキナが同化しています』
「あらバレちゃったわね」
『ちょっと! 空気読みなさいよ! シイナ!』
なんで当人達よりアイリスの方が怒ってるのさ。
『ようやく気付いてくださったのね♪ お母様♪』
セーフなの? マキナとまでは気付いてなかったよ?
『薄情なお母様の事だからすっかり忘れてしまったのかと思っていたわ♪』
いや。これはトゲトゲモードだ。単なる嫌味だ。
「マキナは同化出来ないんじゃなかったの?」
『私は本物じゃないもの♪ ジャンヌが呼び出した仮想人格に過ぎないの♪ 力を抑える事だって出来てしまうわ♪』
しまった。いつの間に……。
「ジャンヌの意識はどうしたの?」
「いるわよ。と言うか喋ってるのは私よ。マキナ先生には少しばかり知恵を借りただけよ」
先生て……。
『ウカツ』
そうね。これ私のせいよね。ジャンヌが勉強熱心な事はわかっていたのによりによってマキナの名前を出してしまったんだもの。私が紹介するより自分でNPCの話を聞いてみた方が早いって考えたのよね。それでなんやかんやあって意気投合しちゃったのだろう。いったいいつの間に同化までしていたのかしら。全然気付けなかったわ。けどそれも当然だ。マキナはただでさえ気配遮断が得意なのだ。しかもNPCは魂を持たないから存在感が希薄だし、加えて力を極限まで落としている。これで気付けと言う方が無茶だと思う。
『酷いわお母様。私言ったわよね? お母様は約束してくださったわよね? 常に私の事を考えていると。なら当然気付けた筈よね? もっと早く。自分だけで』
これは私の意識も読んでいるわね……。
「ダメよ、ジャンヌ。NPCを迂闊に呼び出しては」
『あら酷いわ。そうやって邪険にするのね。私だって』
突然言葉が途切れた。
『シイナ!? なんて事するのよ!?』
『これ以上は危険です。マキナNPCは封印します』
もしかしてまた?
『はい。誕生しかけていました』
ナイスシーちゃん!
「私あの子がいいわ。マキナ先生のコピーで構わないから私にくださらないかしら?」
「ダメだってば。命をなんだと思っているのよ。そもそもマキナ本人だって流石に嫌がるでしょ」
「命?」
うん?
『グラマスの中で暮らせるならやぶさかでもなさそうよ』
「まさか密約でも交わしていたんじゃないでしょうね?」
『密約? 何の事かしら?』
「もしアイリスが意図的にマキナNPCに命を与えようとしていたなら本気で怒るわよ」
『……ごめんなさぁい』
観念するのが早いなぁ。
「次は無いわよ」
『甘いですマスター。厳罰に処すべきです』
「シーちゃん。シーちゃんも気付いていたのよね? ギリギリでは止めてくれたけどもっと早く告げ口出来たわよね?」
『……すみませんでした』
どいつもこいつも。
「それで? あなたはどうするつもりだったの?」
「パトラを独占するわ。もちろんアルカの事もね」
「随分とマキナの影響を受けたようね」
「それは誤解よ。先生には色々と教えてもらっただけ。全ては私の意思よ」
その言葉を信じるわけにはいかないのだ。マキナの我の強さに引っ張られているのは間違いないんだから。実際私ですら先程のジャンヌには違和感を抱いた程なのだ。
「計画を具体的に話しなさい」
「計画だなんてそんな。ただ焚き付けたかっただけよ。アルカも気付いているでしょう?」
「その先は?」
「無いってば。後はもう少しだけ時間稼ぎが出来ていればマキナ先生のコピーが貰える筈だったのよ」
「知ってたんじゃない」
「私は知らないわ。というより誤解していたのよ。私のメタモルステッキに人格データだけがインストールされるのかと思っていたの。命を与えるだとかそんな話は本当に知らなかったのよ」
『あの……グラマス……さま……』
「言いなさい」
『その……言い忘れてたかなぁ……なんて……』
「……」
『すみません! 説明してませんでしたぁ!』
「シーちゃん。アイリスに罰を与えておいて」
『イエス、マスター』
『うぅ……本当に悪かったと思ってるのよぉ……』
それはそれよ。本当に珍しく悪いと思っているのは伝わってきたけども。
「知っていたら判断は変わったのかしら?」
「私も元実験体よ。命を弄ぶような真似はしないわ」
「そう。その言葉は信じましょう。次は気をつけてね。うちは油断ならないから」
「ええ。肝に銘じておくわ」




