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異世界で始める白猫少女との二人暮らし ー だったのに、いつの間にか美少女ハーレムの主になって世界を救ってました ー   作者: こみやし
44.白猫少女とお祭り騒ぎ

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44-16.尋問・続

「実験体?」


 そうだった。アルカは知らないんだよね。



「実験体っていうのは人為的にエルフを再現しようとした技術の被験者達の事だよ。簡単に言うならアルカの不老魔術と似たようなものだね。元はアスラが研究していた技術だったの。ミユキ姉の過去の研究とそれを元に子供の頃のグリアさんが再現した当時の技術資料とかがなんやかんや集まって不老の部分だけは成功しちゃってさ。中でもジャン姉は唯一の成功例なの。今の時点だとエデルガルト卿もまだその事実に気付いてないんだけどね。ていうのも似たような失敗例は沢山あってさ。普通は耳が」


「ストップ。説明ありがとう。けれどこれ以上はダメよ」


 おっと。そうだった。



「けどもう一つだけ。この研究は今の時点でももう何十年も続いているものなの。グリアさんの研究資料のお陰で研究は飛躍的に発展したけど、それだってここから十年くらい前の話だ。当時のアルカはまだ子供でしょ? フロル姉に至っては五歳とかだよ? 黒幕だって言い張るには無理があるよ。仮にヴァガル帝国が関わっていたとしても、現皇帝はそれ以前の主だった皇家の人達を一掃しているんだ。フロル姉がそんな研究を引き継ぐ筈が無いんだよ」


「……」


 ジャン姉が実験体として扱われていたのは既に十年近く前の話だ。おそらくグリアさんの研究資料を元に施術された最初期の実験体だったのだろう。という話だ。この辺はグリアさんの弟さんの事とかも関わっていたらしいので、なんか未来のアルカ達が徹底的に調べ上げていた筈だ。あいにく私はこれ以上の事は知らないけど。キッシュ姉ならもう少し知ってるのかな? 可能性はありそうだ。



「ありがとう、パトラ。話はわかったわ」


 これ以上何も言うなと圧が込められてる。アルカは時間軸を跨いだ情報のやり取りに否定的だ。そこを解禁しちゃえばもっと楽になると思うのだけど。


『ダメよ。完全に同じとは限らないの。そもそも得られるのは誰かの知り得た情報よ。それが真実とは限らないわ。思い込みがかえって視野を狭めてしまう事だってあるのよ』


 は~い。




----------------------




 パトラの教えてくれた情報は確かに重要なものだった。ジャンヌからは明らかな動揺が見て取れる。とはいえ私も鵜呑みにするわけにはいかない。先ずは調査すべきだ。他の子供達からも話を聞いてみたいところね。その辺は城の皆に任せる事になるでしょうけど。



「ジャンヌはその実験体について知りたかったのよね」


「……ええ。そうよ」


「私達が責任を持って調べ上げるわ。信じて待っていてもらえるかしら?」


「……まだ」


「納得いかない? なら質問してみて」


「……今の話しが真実とは限らないわ」


「そうね。私もそう思うわ。そもそも皇帝フロルが同じ技術を自分に施していないとは限らないものね。むしろその可能性の方が高そうだわ。個人であれだけの強さを身に着けているんですもの。それを目の当たりにしたあなたがフロルの強さをエルフのようだと考えたとしても不思議は無い。同じ技術が使われているなら見た目の年齢は当てにならないもの。むしろ証拠が増えたとも言えるわよね」


「……」


「そして何よりあなたはヘルガに唆されたのでしょう? エデルガルト卿とやらの命令だけで動いていたわけでもないのでしょう? 私達が以前から繋がっていたとするなら私がヘルガを使ってあなたを誘き出したと考える事も出来るわね」


「違うと言うの?」


 少し目に力が戻ってきた。これは怒りね。きっとそれだけヘルガに心を許していたのだろう。パトラの言っていた依存対象とやらだろうか。なんだか少し違う気がする。パトラの言葉はやっぱり話半分に聞いておいた方が良さそうね。嘘を付いているとは思わないけど、何もかも見通せる力があるわけでもないのだ。実際にそんな力を持つアンジュにだって見落とす事はある。人の心はそう単純なものじゃない。攻略本片手に思考停止で読み解ける筈もない。



「ええ。勿論違うわ。けどこんな回答に意味は無いわよね」


「そうよ。私は私の見たものを信じるわ」


「そう。けど残念ね。あなたは罪人なの。このまま無罪放免というわけにはいかないわ」


「城を吹き飛ばしたのは私じゃないわ」


「皇帝に刃を向けた時点で死罪以外があるとでも?」


「……私一人で済ませてくれないかしら」


「虫が良すぎるわね」


「あの子達は何も知らなかったの」


「それを私達が信じるとでも? 自分はこちらの言い分を信じないのに自分の言葉は信じろと?」


「……」


「そもそも知っているかどうかなんて関係無いわ。判断能力の有無や年齢なんかもね。皇帝暗殺は例え未遂であっても許されるものじゃない。あなたもわかっていた筈よね? どうやって帝国から逃げ出すつもりだったの? 一人の犠牲者も出さずに子供達を連れ出せる算段があったの? それとも事を成した後でも罪に問われない密約が? 貴方達の起こした騒ぎに乗じてクーデターを起こしている者達とも繋がりがあったの? 或いはエデルガルト卿とやらはヴァガル帝国にすら権力を及ぼせる存在だと? 言っておくけどギルドを通して圧力をかけても無意味よ? 私とギルドの関係の悪さも理解しているのでしょう? 私と帝国に繋がりがあった以上、あなた達はどうあっても罪からは逃れられないのよ? そこの所を本当に理解しているの? 理解しているのなら反発している場合じゃないんじゃない? 子供達の為に必死に命乞いをするべき場面だとわからないの? あなたにこの窮地を切り抜ける力なんか無いのでしょう? 例え全てが私の術中であなたは一から十まで騙されていたのだとしてもよ? それが気に入らないと駄々をこねている場合じゃない筈よ」


「……」


 判断が遅いなぁ。この期に及んで睨みつけてくるだけなんて。少し甘い顔をしすぎたかしら。或いは敢えて揺さぶっているだけなのだと気付かれてしまったのかも。


 そう上手くは行かないわよね。こういう事は帝国組に任せるつもりだったんだもの。今の私は飴担当だ。鞭は専門家に任せるべきだ。でないとどうしても一方的になっちゃうからね。力の差がありすぎるから。だから案外パトラの言う通りだったのかも。半端な事はしないで適当に甘やかしておけば済んだのかもしれない。流石に今回は許されないかと思っちゃったけど、中途半端が一番ダメだよね。だからこそこんな所で投げ出すわけにもいかないんだけど。



「ジャンヌ。あなたは利用されているだけだから自分には罪も責任も無いと考えているのかしら?」


「そんなわけないじゃない!」


「そうかしら? それこそそんな態度には見えないわよ?」


「いい加減ハッキリ言いなさいよ! 貴方達の目的は何! 私に何をさせようと言うのよ! あの子達を救ってくれると言うなら大抵の事は聞いてやろうじゃない!」


 そうか。私達がジャンヌになんらかの価値を見出していると判断したわけか。そうよね。ジャンヌからしたら私の態度こそ意味がわからないわよね。何か裏がある筈だと考えるわよね。なら服従するよりそこを突いた方がまだ逆転の目もあると考えたわけか。先程の変化はそれに気付いたからね。



「私達の目的はあなたに何もさせない事よ。私達で匿ってあげる。理由は先に話した通りよ。あなたは未来でパトラが姉と慕う存在なの。だから身の安全は保証するわ。あなただけはね」


「バカバカしい……」


 なんかもう徹底的に嘘と断定する事にしたみたいね。これも一種の思考停止かしら。



「……あの子達をどうするつもり?」


「どうもしないわ。帝国の法に則って罰を与えるだけよ」


 流石に死罪はないだろうけど。おおかたフロルが特殊部隊でも作るかこっそり養子にでも出すつもりじゃないかしら。それも本人達次第だろうけど。



「心が狭いのね。魔女アルカは少女達を集めているんじゃなかったの?」


「あらそんな噂まで聞いてるのね」


「見た目次第なのね。パトラ達は確かに愛らしい子達だものね。あの子達の吟味はこれからするつもりかしら」


「誤解を解くのは追々ね」


「聞きなさいよ。あの子達は優秀よ。私が育てたんだもの」


 なるほど。売り込みたいわけか。それが助かる道だと。



「ジャンヌ。勘違いしてはダメよ。私の家族になるというのは決して優しい道ではないの」


 いっぱい修行しなきゃだし、それが落ち着いても馬車馬のごとく働かされるのだ。あげく不老不死の呪い付き。どう考えてもブラック企業よね、うちって。



「特別な子達を集めているの? あの子達もそうよ? あのお方が選別した子供達ですもの。経緯は様々だけど特別な力を持った子達ばかりよ。きっと役に立つわ」


 そうじゃないんだけどなぁ。



「ジャン姉。うちって男子禁制なの。アルカは女の子にしか欲情できない性癖なの」


 おいこら、パトラ。



「……」


 ほら。ドン引きしてるじゃん。めっちゃ蔑む目で見てきてるじゃん。少女達を集めてるってそういう事かって納得しちゃってるじゃん。



「パトラ。悪ふざけはやめなさい。今はそんな場合じゃないとわかるでしょ」


「え? あ、うん。そうだよね。ごめんなさい」


 ダメだ。この反応じゃかえって補強しちゃっただけだ。事実なんだけども。



「話を戻しましょう」


「……そうね」


 なんか言いたそう。けどジャンヌはパトラよりも空気が読めるようだ。



「つまり纏めるとアルカは私が欲しいのよね? 色々と理由をこねくり回してるけど」


「纏めないで。あなたが考えているような理由じゃないわ」


 だから交渉の余地は無いわよ。ジャンヌがもう少し素直なら色々要求を聞いてあげてもよかったんだけど。まあ仕方ないわよね。ジャンヌの立場じゃ納得なんてできないものね。未来の知り合いだから保護しましたとか意味がわからないわよね。うん。仕方ない。



「欲しいのは私だよ♪ ジャン姉♪ 私がアルカに頼んだんだよ♪」


「……」


「……」


 まったく。パトラは同席させるべきじゃなかったわね。



「アルカ様。少々パトラ様と話をさせて頂いても……」


 見かねたヘルガが口を挟んできた。



「いいえ。こっちは十分よ。ジャンヌは軟禁させてもらうわ」


「あの子達は」


「それを知りたければ素直になる事ね。私達に恭順するまで一切伝えるつもりは無いわ。パトラ。ジャンヌの事は任せたわよ」


「うん! ありがとう! アルカ!」


 取り敢えず私世界に放り込んでおきましょう。後はもう時間をかけるしかなさそうだし。



『部屋は用意してあります、マスター』


 ありがとう、シーちゃん。



 ジャンヌだけを先に私世界に取り込み、今度はパトラとヘルガに視線を向けた。



「それで? ヘルガはこの先どうしたいのかしら?」


「私に頂戴! キッシュ姉の事も私が責任持って面倒みるから!」


「それだけ?」


「私が知った事は全部アルカに伝えるよ!」


「あとは?」


「キッシュ姉と毎日話す!」


「当然よ。目を離す事は認めないわ」


「それからね! 週一で帰らせるね!」


「そういう細々した事を聞いてるわけじゃないわ」


 わかってて引き伸ばしてるわね?



「ふっふっふ♪」


 何を勿体ぶってるんだか。



「ねえ、アルカ♪ ついでにもう一つお願いがあるの♪」


「なにかしら?」


「パトちゃんズの結成を認めて♪」


「つまり私の為に働くと?」


「うん! メンバーはキッシュ姉、ジャン姉、カティ姉、ラーラ姉ね!」


「……マグナも加えなさい」


「ありがとう!」


「ヘルガも、いえ、キッシュもそれでいいのかしら? あなたは私の部下としてエデルガルト卿とやらの下に潜り込んでもらう事になるわよ?」


「……はい。承知致しました」


「任務さえこなしてくれるなら貴方の秘密を暴かないと約束するわ。勿論害になると判断すればその限りではないけど」


「ご配慮感謝致します」


「あまりパトラに迷惑をかけないようにね」


「……はい」


 精々上手くやりなさいな。約束は守ってあげるから。

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