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異世界で始める白猫少女との二人暮らし ー だったのに、いつの間にか美少女ハーレムの主になって世界を救ってました ー   作者: こみやし
44.白猫少女とお祭り騒ぎ

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44-11.暗躍

『申し訳ございません、マスター』


「痕跡が見つかったのね」


『はい。改竄されていました』


 シーちゃんに改めて調べてもらった所、あの金属生命体騒ぎの際にプロトちゃんの内の一体が何者かにハッキングされていた形跡が見つかった。そもそものアクセスを許したのはプロトちゃん自身が現場の判断でおこなったようだけど。


 ヘルガという少女は自らを治療する為に近づいてきたプロトちゃんを言葉巧みに誑かし、首尾良くアクセス権限とナノマシンの一部を掠め取る事に成功したらしい。彼女はそれから一年近くも潜伏を続けていたようだ。私達に尻尾を掴ませる事もなく。どうやってかプロトちゃん自身からその記録を抹消した上で。



「やるわね。未来から知識を得たってそう簡単な話でもないでしょうに」


 そもそも過去の時間軸への記憶転写についてもあの子の仕業のようだ。未来のアイリスを使って技術を生み出したのではないかという話だ。ヘルガは約一年前のあの事件の時に、そしてパトラは先日私が近くを通りかかった時に、それぞれ未来の記憶を受信したのだろう。だから厳密には私が近づいたからではなく、シーちゃんのネットワークに繋がった端末が近くに存在したから起きた出来事なのだ。



『捕らえて吐かせましょう』


「まあ、待って、シーちゃん。気持ちはわかるけど、ここはもう少し様子を見るとしましょう」


 ヘルガこそが記憶転写事件の黒幕だ。それは間違い無い。けれど彼女はミスを犯した。おそらくパトラが巻き込まれたのは想定外だったのだろう。本来現れる筈のない場所にパトラが現れた事でヘルガも今まさに混乱の只中にある筈だ。


 とは言えこの状況で逃げ切れるとは思わないだろう。確かに一度はシーちゃんの裏をかけたかもしれない。けれど何度も通用する手では無い筈だ。彼女が派手に動いていればシーちゃんは必ず気付いていた。だから折角奪ったナノマシンも極最低限にしか活用出来ていない筈なのだ。


 となれば取れる選択肢は一つだけだ。自首した上で見逃してもらえないかと交渉を持ちかけてくるだろう。待っていてもヘルガの方から声を掛けてくる筈だ。少なくともパトラの状況を確認しようと動くだろう。だから今は様子を見よう。



 今はまだ違うけど、いずれ私の家族となると言うなら望みを聞いてあげるのもやぶさかじゃない。場合によっては手助けだって出来るかもしれない。コソコソ動いている以上はその可能性も低そうではあるけれど。


 とは言え逃げ出さなかったどころか、わざわざパトラの前に出て気付かせた以上は観念する気持ちも無くはないのだろう。危険を侵してでも確認すべきと判断したのもあるか。けど楽観的過ぎる言わざるを得ない。むしろ致命的やらかしを前にした焦りか諦めによる行動なんて可能性もあり得るのか。



『イエス、マスター』


『相変わらず緊急時だけは頼りになるわね』


「だけって言わないでよ」


『褒めてるのよ♪』


「もっと素直に褒めて」


『なら判断を間違えないで』


「イロハは反対なの?」


『今すぐとっ捕まえるべきよ。アルカはあの少女がこちらと敵対する気が無い前提で考えているようだけど、もし仮にその前提が間違いだとしたら厄介な事になるわよ。最悪既に他の誰かにナノマシン技術が渡っているかもしれないわ』


「そっか。あの子が変えたい過去って」


『エデルガルトとやらを勝たせたいのかもしれないわね』


 まったく。向こうの私は何してんだか。


『手が回っていないんじゃない?』


 私も気をつけないとね。


『そうよ。まさしく他人事じゃないんだから』


『それで?』


「どうしよっか」


『すくう』

『ひつよう』


「きっとあの子には変えたい過去があるんだもんね」


 私から声をかければあの子はあっさりと諦めてしまうかもしれない。あの子にとっては私こそが敵なのかもしれない。


 出来ることなら見逃してあげたい。あの子の好きにさせてあげたい。そんな気持ちも無くはない。やり方はともかく一生懸命なのは間違いない。けどあの子は私の助けを必要としていない。単に負い目があるだけなら話は簡単なのだけど、きっと秘密にしている理由はそうじゃない。私達とは相容れない目的を叶えたいのだろう。だから私は止めるべきなのかもしれない。イロハもハルちゃんもそう言っているのだ。こちらから能動的に動かないとあの子の事は救えないのだと。



『勘違いしないで。あのヘルガは単に巻き込まれただけよ。全てを仕組んだのは未来のヘルガよ。今の彼女は被害者よ』


 ……そうだったね。なら止めてあげるべきなのかもね。


『それが』

『すくい』


 ハルちゃんも反対なのね。このまま成り行きに任せるんじゃダメなのね。


『そう』

『じゅばく』

『とく』


 わかった。二人がそう言うなら。今回は。




----------------------




『はじめまして。で良いのかな? ヘルガ』


『……そうですか。やはり気付かれてしまったのですね』


『色々お話ししてくれると嬉しいな』


『……』


『ヘルガ?』


『私はキッシュです。この時間軸ではそう名付けて頂きました』


『そう。ならキッシュと呼ばせてもらうわね』


『……見逃して頂けませんか?』


『目的次第かな。悪いようにはしないからさ。内容次第ではむしろ手伝ってあげる。私はあなたを家族として受け入れるわ。だから相談して頂戴』


『あなたは変わりませんね。勿論その言葉は信じています。一つだけ誤解して頂きたくないのですが、私はあなたを敬愛しています。これは私の我儘です』


『どうしても言えない?』


『……はい』


『そっか。なら悪いけど見張りは付けさせてもらうから』


『カティとラーラにその役目を?』


『まさか。その子達はその子達の好きにやっているだけよ。勿論パトラもね』


『……パトラは私のせいですか?』


『"ヘルガ"のせいよ。キッシュもパトラと同じ被害者よ』


『……すみません』


『あなたが謝る事じゃないわ』


『……』


『そう。やっぱりあなたも引きずられてしまっているのね』


『……私は私です』


『あくまで"キッシュ"の意思だと?』


『はい』


『悪いけどその言葉を鵜呑みにするわけにはいかないの。けれど今回の作戦が終わるまでの間は泳がせてあげる』


『もう少し猶予を頂けませんか?』


『どれくらい欲しいの?』


『三年程』


『却下』


『それでは目的が果たせません』


『最初から無理があったのよ』


『計画は順調でした。つい先程までは』


『そうかしら? どのみちジャンヌに加担してる以上は今回で終わりでしょう?』


『逃げる為の策も用意がありました』


『それこそ私達から目を付けられていたわよ』


『切り札はあります』


『もう役に立たないんでしょう?』


『……ありました』


 でしょうね。やっぱり少し投げやりになっているみたい。



『実を言うと私もパトラ達に任せた手前、今はあんまり干渉はしたくないのよね』


 イロハとハルちゃんの意見もあるから回収するべきだとは思うんだけどね。けど今のこの子は放っておいても害になりそうな気はしないのよね。本人の精神も安定してるみたいだし。



『……勝負をしましょう』


『それも良いかも。パトラの判断に任せてみよっか。あなたがそこの三人に捕まったらそこまでってことで』


『ありがとうございます』


『あ、でも。当然だけどトニア達に捕まってもお終いよ? その時は潔くお縄について話を聞かせてね』


『はい。約束します』


『よろしい。それから無茶もしないように。いざとなったら私が直接捕まえに行くからね。お互い怪我の無いように』


『……無茶はします』


『あなた正直ね。けどダメ。その時は私の判断で介入する可能性もあるからね』


『……はい。承知しました』

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