44-5.大切な思い出
「流石アルカさんね!」
「もうわかったってば。カーちゃんそればっかり」
「二人も十分強くなってたよ」
私のよく知る未来の二人程じゃないけど。
「パトラこそおかしいわ! なんで私達より強くなってるのよ!」
「そうだよ。驚いたんだから」
「あはは~」
お姉ちゃん達よく見てるな~。酷い乱戦だったのに。皆で寄って集ってアルカに挑んでたのに。
「今日はもうアルカと一緒に居なくて良いの?」
何故かカティ姉に誘われて三人だけで出てきてしまった。アイリスはいるけどマグナ姉は置き去りだ。可愛そう。
「そろそろ良いわね!」
聞いてない。て、あれ? ここどこ? 路地裏? なんでこんなところに連れて来られたんだろう? 何も気にせずついて来ちゃったけど。普通にこの三人でお祭り見て歩くのかと思ってた。流石に少し飽きてきてたけど。
「パトラちゃん。私達はパトラちゃんと話したくて出てきたの」
あら。そういう事。
「話しなさい! あなたに何があったのか!」
「今のパトラちゃんは私達の知ってるパトラちゃんじゃないんでしょ?」
本当によく見ている。でもそうだよね。お姉ちゃん達はこの頃からいっぱい可愛がってくれてたもんね。隠しきれるわけなかったんだよね。
「実は……」
私は話した。あっさりと。
二人は信じてくれた。あっさりと。
「つまりパトラの方がお姉ちゃんなのね!」
ううん。私にとってはカティ姉達がお姉ちゃんだよ。それは何があったってかわらないよ。
「話してくれてありがとう、パトラちゃん」
こちらこそ。聞いてくれてありがとう。受け入れてくれてありがとう。また手を引いてもらっちゃったね。やっぱり二人は私の大好きなお姉ちゃんだ。私が変わっちゃっても二人は何も変わらない。どんな未来でだって。きっと。
「カティ姉、ラーラ姉。大好き♪」
「ふふ♪」
「あはは♪」
二人は私の手を握って歩き出した。結局このままお祭りに繰り出すようだ。楽しげに笑いながら今日の計画を話し合っている。カティ姉が無茶を言って、ラーラ姉が困ったように諌める。この二人はいつも変わらない。どんな時だって二人一緒だ。昔はそれで寂しく思った事もあったっけ。我儘を言って困らせた事もあったよね。二人には知るよしも無いことだけど。きっと今の私がそんな気持ちになる事は無いんだもん。そう考えると少しだけ寂しいかもしれない。アルカの言う通り未来の記憶は消しちゃうべきだったのかも。ううん。違うよね。どの思い出だって大切なものだ。そんな未来はもう存在しないのかもしれないけど、それでも持ち続ける事に意味はある。忘れないように大切に。誰かの為じゃなく私の為に。未来の私も未来のお姉ちゃん達も関係ない。未来のお姉ちゃん達には二度と会えないだなんて悲しむ必要も無い。私はもう乗り越えたんだから。受け入れてくれたんだから。
「へっへっへ。嬢ちゃん達よぉ。子供だけでこんな所歩いてちゃいけねえよなぁ♪」
空気読んでほしい。
「下がってなさい!」
カティ姉が私とラーラ姉を庇って前に出た。ラーラ姉は私を安心させる為に抱きしめた。震える手で。よく見たらカティ姉も少し震えてる。二人ともこんなチンピラ達よりずっと強くなったのに。武闘大会でもっと大きくて強い大人達だって投げ飛ばしてきた筈なのに。急拵えの詰め込み教育では精神の成長とこの手の経験までは積めないもんね。仕方ない。
「二人とも、ここは私が」
「待ちなさい!!」
私が言いかけた所で鋭い声が飛んできた。よく知る声だ。
「なっなんだお前ら!?」
「ふんっ! あんたらに名乗る名なんて無いわ!」
巨漢のチンピラ達が次々と取り押さえられていく。それを成したのは私達より少し年上の少年少女達だ。先頭に立っていたのは中でも小さい方の少女だ。けど私の記憶から逆算するとこの少女の年齢は……。
「ジャン姉」
「あら。私の事を知っているのね」
しまったつい。
「パトラの知り合い?」
「もしかして未来の?」
察しが良い。
「パトラ? 聞き覚えが無いわね。あなたどこで私の名前を聞いたの?」
「えっと……さっきちらっと聞こえて……」
「あり得ないわ。作戦中はコードネームを使っているもの」
めんどくさいなぁ……。
「あなた怪しいわね。少し付き合ってもらえるかしら?」
どうしたもんかなぁ……。
「逃げよう」
「「了解!」」
「ちょっ!? 待ちなさい!」
当然今の私達に多少腕が立つ程度の少女が追いつける筈もない。ジャン姉達の姿が見えなくなった所で転移して無事自宅へ帰還する事に成功した。
「おかえり。見てたわよ」
「覗きはダメだと思うなぁ」
話しが早くて助かるけど。相談しなきゃとは思ってたし。
……本当だよ?




