43-44.未来からの刺客?
「帝都って広いよね~」
「ですね~。フロルって偉い人なんですね~」
「だね~」
『なによそのバカみたいな会話』
『現実逃避している場合ではないのでは?』
『いさぎよく』
『あきらめる』
『こりゃ引き籠もりたくもなるわよね。折角小春が外に出られるようになったのに』
お姉ちゃんや。いったい何時の私と比べているんだい。
まあでも。困ったものだ。凄い視線を感じる。これは決して私がハーレム王に相応しい美人っぷりだからってだけではあるまい。
『あの小春がこんなに自信家になっちゃって……お姉ちゃん嬉しいような恥ずかしいような。なんだか複雑な気分よ』
今日はお姉ちゃんモードでいくの? 何時もは未来ちゃんモードが抜け切らないのに。私としては嬉しいけど。
『ミユキの事はどうでもいいのよ。それよりこの状況をどうにかしましょうよ』
どうにかって言ったって。この状況もある意味セレネ達の計画通りと言えるのよ? 変装しちゃうのは違うんじゃないかしら?
「これはギルドからの刺客だけではありませんね。個人的な興味を持った方々も大勢いるようです。アルカはかつての旅でヴァガルには訪れなかったという話でしたが、武闘大会目当てに国外からも集まってきた影響でしょうか。或いは例の事件と結びついて情報が広まってしまったのでしょうか」
私の声だけは世界中の人達が聞いたことあるんだもんね。たしかに往来で普通に喋ってたら気付かれるか。
「おそらく声だけでなく私達の身体的特徴ともセットで噂が流れてしまったのでしょう。或いはギルドが意図的に広めた可能性もあります。その方が監視も捗るでしょうから」
そうね。この視線の全てがギルドの情報源となり得るのだものね。ある意味この帝都にいる全ての人々が私達の監視者となったとも言えるわけだ。
『まだ全ては過言でしょうけど、それも時間の問題よね』
『流石に注目を集めすぎやもしれません。ここは一度撤退するべきかと。このままではかえって計画に支障をきたしかねません』
はぁ……。やっぱりそれしかないかしら。
『どうしても回りたければ声も姿も変えるしかないわ』
「私もですね。私とセットだからこそ広まりやすかったのもあるでしょうから」
ノアちゃん程の猫耳美少女はそうそう居ないからね。今日は傍から見たら私達二人だけなのも問題だったのかも。
『セレネならこんな時どうするか考えてある筈よ』
それもそうね。早速念話しちゃいましょう♪
『セレネ。かくかくしかじか』
『好きにして良いわよ。鬱陶しかったら変装してもいいし。もう十分に役目は果たしてくれたわ』
だそうで。
「けれどどうやって視線を断てば良いのでしょうか」
そうだった。今まさに私達は監視されているのだ。それこそネズミ一匹抜け出せないような監視網のど真ん中だ。最悪路地裏にだって付いてくるだろう。
『なら逆にこのまま転移したって構わないじゃない』
ああそっか。とっくに知られてるんだもんね。
「それでも目撃者は極力減らすとしましょう」
そうね。ギルドに知られているからって関係無い人達にまで広める必要は無いものね。とにかく一旦帰って仕切り直しましょう。こんな場所で変装するわけにもいかないし。
「そうですね。こちらです、付いて来てください」
ノアちゃんに手を引かれて路地裏に向かった。
「アルカ!」
路地裏に入って人の目が減った所で突然背後から声を掛けられた。家族の声じゃない。私には聞き覚えの無い声だ。けれど掛けられた声音は明らかに私を知っているものだ。その必死さすら感じる呼びかけについ振り向いてしまった。
「やっぱりだぁ! やっと会えたぁ!」
泣きながら飛びついてきたのは八歳くらいの小さな女の子だ。やっぱり見覚えがない。
「失礼ですが貴方は?」
ナイス! ノアちゃん!
「ノア姉!? 何言ってるの!? 私だよ!? パトラだよ!?」
え? 誰?
『……本当に無いわね。アルカが忘れているわけじゃないみたいよ』
え!? 何それ怖いんですけど!? だってこの子ノアちゃんの事まで!?
『これは新しいパターンですね。成りすましでしょうか』
そういう事!? まさか誰かに利用されて!? こんな小さな子が!? イロハ!
『アルカも躊躇いが無くなってきたわね』
イロハがパトラと名乗った少女の心を覗き込んだ。
『……おかしいわね。この子本当にアルカと会ったことがあるわよ。というかこれは……けどそんな筈……』
ちょっとイロハ!? 怖いから考え込まないで欲しいんだけど!?
『取り敢えず連れて行きましょう。この謎は解くべきだわ』
大丈夫なの!?
『心配要らないわ。この子はアルカの家族だもの』
何言ってるの!?
『落ち着きなさい。冷静に対処しましょう。もしかしたら偽神関連かもしれないわよ』
あ! そういう!?
『未来から来たのかもしれないわ』
送り込まれてきた!? 今このタイミングで!?
『いいえ。たぶんだけどそういう事でもないみたい。詳しく調べたいわ。とにかく連れていきなさい』
『ルーシィ』
『よんだ』
『そうね。何か知っているかもしれないわね。むしろミユキは知らないのかしら?』
そうだ! お姉ちゃんはなんで何も言ってくれないの!?
『未来のネタバレになるからよ。けどそうも言ってられないみたいね。正直私も混乱しているわ。そもそも私はパトラの事を知っているの。未来で小春の家族になる子よ。それは間違いないの。けど経緯が全く違うのよ。こんな風に突然現れる事なんて無かった筈よ。あの人が、偽神が何らかの手を加えたのは間違いないと思う。けどもしかしたら意図的じゃなかったのかも。この子は偶発的に捻じ曲げられてしまっただけなのかもしれないわ。少なくともあの人からすればこの子に特別な価値なんて無い筈だもの』
わかったわ! わけわかんないけど取り敢えずは!
『調べれば推測も可能かと。一先ず落ち着ける場所へ移動しましょう』
そうね! そうしましょう!




