43-40.長い夜
「それで一日に四人も?」
「本当に大変だったんだってばぁ~」
もしかしてマズかった? やっぱりダースなんて冗談だった? 調子に乗りすぎ? 怒られる?
「ふふ♪ その調子で頑張りなさい♪」
あら? 許してくれるの? でも毎日四人も増やしてたら一ダースじゃ済まないよ? 四十人くらい増えちゃうよ?
『なんなら私が好みの子を生み出してあげるわよ♪』
アイリスにはそれが出来ちゃうのよね。最早生命の創造すら思いのままだ。私達は遂に原初神すらをも生み出してしまったのだ。その事実にはあのイオスすら絶句していたくらいだ。その後直ぐに爆笑してたけど。やっぱり小春は面白いとか言ってアイリスに色々手ほどきしてくれたのだ。お祭りが終わったら本格的に弟子入りさせてくれるらしい。もしかしたらアイリスを自身の後継者にするつもりかもしれない。マキナも頑張ってくれているからどっちになるかはわからないけど。
『それも面白そうね♪』
でも本格的に力付けちゃったらこうして私の中で過ごす事は出来なくなると思うわよ?
『ふふ♪』
ちょっと不穏な笑い方しないでほしい。
『大丈夫よ♪ 私は万能のアイリス♪ この世の全ては私の思うがまま♪ グラマスのリフォームくらいお茶の子さいさいよ♪』
調子に乗ってるなぁ~。
『ならさっさと偽神を倒してきなさいよ』
『この世の外の相手は難しいわね♪』
『そもそも今のアイリスは言う程万能でもありません。その力を行使出来るのはあくまでアイリス世界の中だけです。原初神と同等の権能を発揮出来るというのも同様です。あくまで器と素質を作り上げただけなのですから』
『きっと此方側の器も直ぐに満たされるわ♪ イオスが直々に修行を付けてくれるんだもの♪』
『そんな調子で大丈夫かしら。イオスの修行って生半可で乗り越えられるものとは思えないのだけど』
ニクスですら泣き言言ってたくらいだしね。
『ニクスはしょっちゅう言っている方では?』
かもしれない。
「行くわよ、アルカ」
「もしかして今からまた?」
「そうよ。約束したじゃない」
そう言えば誰ともデートの約束果たして無かったわね。
『明日こそ行けると良いわね』
ほんとにね。
「えっと、カティちゃんとラーラちゃんは」
「ノアが見ていてくれるそうよ」
あら。いつの間に手配済みだったのかしら。
『マグナは私にお任せを』
優しくしてあげてね? 色々驚かせちゃったもの。修行も結局中断しちゃったし。
『VIP待遇で饗します』
なんなら何人か付けてあげてね。
『カティ達と共同生活を送らせましょう。当初の予定通り』
そうだった。そこも有耶無耶になっちゃってたわね。カティちゃん達は取り敢えずこっちに連れて来ちゃってたけど、今晩は私世界で過ごしてもらいましょうか。中途半端になっちゃった修行のお詫びに目一杯豪勢にね。
『イエス、マスター』
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「ふふふ♪」
セレネがご機嫌だ。私の手を握って少しだけ引っ張るように前を歩いている。
「お祭りは大成功だね」
「ふふ♪ そうね♪ けどまだまだよ♪ 本番はこれからだもの♪」
だね。最後までこの調子でいくと良いのだけど。
『本当に良いの?』
アイリスの件はお祭りと関係ないし……。
「そういえば最初の方に計画してた反乱の手引とか言うのは中止になったの?」
「ええ。そんな物騒な案はとっくに破棄されているわ」
流石に自作自演が過ぎるよね。邪神襲来もどっこいかもだけど。
「もう屋台も終わりみたいね」
「今日は初日だもの。ここで張り切り過ぎても最後まで保たないわ」
「キッチリ行き届いてるみたい」
「ええ♪ フロルの治世は文句無しね♪」
少なくとも帝都にはその差配が行き届いているようだ。皆素直に時間を守って営業してくれている。一先ず一日目は大きな犯罪とかも無かったみたいだ。こんなに治安の良い大都市はそうそうあるまい。他にはアルカディアくらいだろう。
「モントニャハトの方はどう?」
「順調よ。順調過ぎて怖いくらいにね」
「何か不安要素でもあるの?」
「強いて言うならスキルの普及があまり進んでいないのよね」
「国外の人達が本格的に来るのは春からなんでしょ?」
もう二ヶ月くらい先の筈だ。帝国は冬でもそんなに寒くはならないけど、モントニャハトの方は旅をするにも厳しい寒さだ。どのみち今の時期はあまり旅人も多くはあるまい。
「それでもって話よ。当初想定していたより抵抗が大きいみたいね」
「スキルを貰う事自体忌避されてるって事?」
「ええ。入信とセットだと誤解されているみたいなのよ」
ああ。本当にタダで貰えるとは思ってないわけか。タダより怖いものはないって言うもんね。それで皆警戒しちゃってるわけか。特に商人は顕著だろうし。
「ならお金でも受け取ってみたら?」
「ダメよ。商売でやってるんじゃないんだから。神の権能を切り売りするみたいなやり方は後々誤解を産んでしまうわ」
「それならほら。お賽銭って言うかさ。私の生まれた国だと特に信仰もしてなくたって神社に行ったらお賽銭して願い事をするものなの。それと同じでさ。希望者だけ少額のお賽銭を入れるような箱を用意しておいてさ」
「そんなものそうそう根付くわけないじゃない。きっと誤解を生むだけよ」
「そうかなぁ~」
「ねえ、仕事の話はやめましょう? 今はデート中よ?」
「でももう屋台閉まっちゃったよ? 私達も帰らない?」
「嫌よ。やっと時間が取れたんですもの。夜はまだまだこれからよ♪」
「酒場にでも行くの?」
「たまには良いじゃない♪」
珍しい。セレネが自分から行きたがるなんて。ルビィと暮らすようになってからは特にだ。セレネはお酒好きだけど、ガヤガヤした所で飲むより自宅でゆっくりしっとり飲む方が好きなのだ。
「良いけどね。いくらでも付き合うよ。セレネが望むならいくらでも」
「言ったわね♪ 今晩は寝かせないわよ♪」
「長い夜になりそうね」
飲んだ後はまた深層に籠もるんだろうし。
『私も参加したいわ』
『ダメに決まってるじゃない。大人しくしていなさい』
ありがとう、イロハ。アイリスはまた今度ね。
『セレネの次よ♪ それなら良いでしょ♪』
はいはい。わかったわかった。
『ふふ♪ そんな態度で居られるのも今のうちよ♪』
今日はまだまだ終わらなそうだ。