43-37.二つの結論
結局マグナちゃん達の問題を解決する手段は見つかっていない。直接的間接的問わず、私が干渉する事自体が望ましくないからだ。例えマグナちゃんが偶然向こうの世界に到達したとしても、彼女に偶然があり得ない事である以上、言い訳として成り立たない。どうにか所有者登録を解除してマグナちゃんをこの世界から放りだしたとしても、因果を騙すには至らないわけだ。やるとしたら自分自身をも騙す方法を見つけ出さなきゃだ。果たしてそんな方法があるのだろうか。
『無いわね。見事に詰んでるわ。今回ばかりはお手上げよ』
『ですが、完全に諦める前に今一度問題を整理してみると致しましょう』
そうね。私が気にしているのはテルスの帰還が遅れる事と、マグナちゃん達の現状を知ってしまった事による同情みたいなものよ。
『その二つを諦められたならこの問題もお終いってわけね』
『逆にその二つを解消出来たならこの上ない結果に繋がるでしょう』
私の中の悪魔と天使が正反対な事を言う。
『なんで私が悪魔なのよ』
だってイロハもう飽きてるんでしょ?
『答えの存在しない謎解きに何時までも付き合っていられないわ。だから二つに一つよ。気になるなら全部背負ってしまいなさい。そうでないなら見逃しなさい。今回の件はそもそもアルカと一切関係の無い話よ。主人公はアルカじゃない。今あなたはマグナやメグルの、或いは他の誰かの物語に首を突っ込もうとしているだけなの。手を出すなら彼女達の全てを背負いこむ気概を持ちなさい。都合の良い抜け道なんて存在しないわ』
まあイロハの言う事もわかるけどね。ニクスにも散々同じような事言われたし。
『ニクスとアムルも付き合いきれなくなってデートに戻ってしまったじゃない』
そうだね。少し悩みすぎてたね。そろそろ答えを出すとしましょうか。
『手を引きなさい。女神組の消極的な姿勢を見ればそれが如何に無謀なのかわかるでしょう。それでも必要ならイオスもラフマも手を貸してくれた筈よ。お祭りを理由に断ったりなんてしなかったわ。ノルンに至ってはこちらから頼むまでもなく遣いを申し出てくれた筈なの。ニクスだって途中で切り上げたりはしなかった。もっと真剣に案を出してくれたでしょうね。つまりこれは出来る出来ない以前に必要な事ですらないの。アルカだって全部わかっているでしょう?』
……そうだね。うん。イロハの言う通りだとは思うんだ。
『それでも諦めきれぬのがアルカ様です♪ マグナが泣いていた。そしてまだ見ぬメグルがいずれ悲しむかもしれない。アルカ様にとって動く理由はそれだけで十分なのでは?』
うん。そうなの。二人ともよくわかってくれてるね♪
『当然よ』
『当然です♪』
ふふ♪
『それでどうするの?』
『覚悟はお決まりですか?』
「取り敢えず様子を見ましょう。お祭りが終わるまでは」
『『がってん』』
マグナちゃんを鍛えておけば自分で活路を見出してくれるかもしれない。選択肢が足りないなら与えてあげればいい。念の為所有者登録の解除方法も継続して調べておこう。方針としてはそんなところかしら。ニクス達の口ぶり的に向こうの世界とやらで決着がつくのはまだ暫く時間がかかる筈だ。それも下手をすると年単位で。なら今はまだ焦って動く時じゃない。そう考えるとしよう。今の所は。
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「「アルカさん!」」
大はしゃぎのカティちゃんとラーラちゃんが駆け寄ってきてくれた。お城見学は随分と楽しかったようだ。ふふ♪ 可愛い♪
「今日のところはこんなものでしょうか」
そうだね。武闘大会の予選も三日目からだもんね。
「ノアちゃんもお疲れ様。色々とありがとう」
「ええ。それでどうしますか? この子達を鍛えるなら今から始めるべきかと思いますが」
あら。すっかり忘れてたわね。そっちも決めちゃわなきゃだわ。深層を使って訓練する分には時間も掛からないけど、そもそも弟子入りするかどうかも決まってないわけだしね。
「イレーニアさんはどう思う? 特殊な修行方法があるから予選までにこの子達が勝ち上がれるだけの力は付けさせてあげられるわ。流石に本戦優勝までは約束出来ないけどね。けどそれやると色々約束してもらわないといけないの。もし興味があるなら条件を話し合いましょう」
「是非ともお願いするよ」
あら。あっさり。
「いいわ。なら一旦家に帰りましょうか」
「いいや、そっちじゃなくて。この子達をアルカの弟子にしておくれ。どうか頼みます」
え? すり合わせしないの?
「本当に良いの? この子達と居られる時間が減ってしまうのは間違いないわよ?」
「アルカについていけば間違いなくこの子達は幸せになれるさ。それがわかっていて止める必要なんて無いんだよ」
「せめてニルダさん達も呼んで話し合わない? 代わりの手伝いは派遣させてもらうから」
「必要ないさ。私が無理言って抜け出して来ただけなんだ。ニルダ達は端っから二人の旅立ちに賛成していたのさ。このまま帰ってこなかったとしてもそれはそれってね。何せ私達も昔はそうだった。それに比べたらこの子達は少しばかり幼いけれど何も心配は要らないよ。何せ私達の娘だからね♪」
そうだったのね……。この世界の人達からしたら十歳で親元を離れる事も珍しくは無いけれど……。それでもきっと沢山話し合った筈だ。今回の件は試験でもあったのかも。二人が旅なんて出来そうにないなら連れ帰るつもりだったのかもしれない。けど二人は私を見つけ出した。偶然の結果とは言え、私達の下にやってきた。その時点でイレーニアさんとしては認めざるを得なかったのかもしれない。
「わかった。それでも色々伝えておくことがあるから一旦帰りましょうか」
家に帰るなりテーブルに着いて条件を伝えていった。やっぱり二人には暫くの間通いで来てもらう事にした。この国の成人年齢である十五になるまではという約束で。それ以外は何時も通りだ。私の下で暮らしていれば秘密や危険が盛り沢山である事や、今後は家族に加わってもらう事も。いずれは私のお嫁さんに……というのは今回見送る事にした。もう五十人以上もいるからね。またそういう話になったら挨拶に伺いましょう。二人は健全組の仲間入りだ♪
「それじゃあね。しっかりやりなよ。二人とも」
イレーニアさんは先に帰る事にした。お店の方もやっぱり忙しいようだ。
「絶対本戦出るから! お母さんも観に来て! 約束よ!」
「そうだねぇ。その時は店閉めてでも行くしか無いねぇ」
「やったぁ!」
ふふ♪ 本当に仲良しね♪
三人を連れて帝都の隣町に転移し、イレーニアさんを送り届けてから隣で宿屋を営むニルダさん達にも挨拶をして、カティちゃんとラーラちゃんを連れて再び自宅に転移した。
「それじゃあ早速修行を始めましょう」
「今回はどの程度潜るのですか?」
「そうねぇ。修行の進捗次第だけど、あまり二人が成長しちゃわない程度に抑えたいわね」
「アイリス多めで行きましょう」
「フィリアスはどうするの?」
「今回も無しよ。二人は当面、普通の範疇で鍛えるわ。足りない分はメタモルステッキを使ってもらいましょう」
「その条件では難しいのでは? 二人はまだ身体が出来上がっていません。十分な修行期間か、フィリアス、或いはアルカとの契約のどれかが必要です。知っての通りアイリスだけでは補えないかと」
そうね。アイリスはあくまで仮想現実の世界だから。実際の肉体が影響を受けるわけじゃないのよね。
「ふふ♪ 安心して♪ 私に考えがあるわ♪」
『あれを使うのですね。マスター』
「丁度良いテスターよね♪」
『この上ない条件かと』
「勿体ぶらないでください」
「そうよそうよ」
イマイチやる気のない野次だ。お姉ちゃんたら正直大して興味無いわね。
「ふふふ♪ 実はね♪ すこ~しメタモルステッキに改良を加えたの♪ プロトちゃんと混ぜてね♪ 所謂AI搭載型デバイスってやつね♪ インテリジェント・デバイスだとそのまんま過ぎるかしら♪ それからそれからね♪ 小型のアイリスも内蔵されててね♪ 何時でもどこでも修行が出来る優れモノでね♪ 使い方次第では思考加速なんかも補助してくれるの♪ 安心して♪ ニクスの認可も降りているわ♪」
「流石に盛り込みすぎでは? 武装に頼るのは……いえ、それってフィリアスとあまり変わらないのですね」
「そう♪ 言わばシーちゃん版のフィリアスってわけね♪ これなら着脱も容易でしょう? フィリアスと一度契約しちゃうと離せなくなっちゃうからね。二人は一生こっち側って決まったわけでもないしね♪」
「悪くないです。当然魔術的な補助も担えるのですよね?」
「ええ勿論♪ 転移も念話も変身も必要なものは一通り♪」
「私にも一つください」
「私も私も!」
今度は興味を惹かれたようだ。
「二人には必要ないと思うけど。まあいっか。シーちゃん」
『イエス、マスター』
ふふ♪ 折角なら二人にもテスターになってもらいましょう♪ 師匠としても扱い方は知っていないとだしね♪