43-30.旅人
『マスター! 緊急事態です!』
え!? 今!?
『ごめんね! 小春! 私のせいなの!』
『アリスだけの落ち度ではありません! 私達も気がつけなかったのです!』
それよりハリ~♪ イレーニアさん来ちゃってるから♪
『侵入者です! マスター!』
え? もしかして私世界に?
『そうなの! 隕石がね! ぴゅーどーん!って!』
隕石が? 侵入者ってエイリアンなの?
『いえ。恐らく神の創造物です。既に拘束は済ませました。これより対話を試みます』
創造物? 神や人じゃないの?
「ごめん。ちょっと緊急事態みたい。悪いけどノアちゃん、ここはお願いね」
「ふふ♪ アルカは相変わらずだねぇ♪」
「ほんっと! ごめんね! イレーニアさん! すぐ戻るから!」
「あいよ♪ 気にせず行っといで♪」
今回はイレーニアさんが考えてるようなやつじゃないんだけどね。と言うか私達にも想像がつかなかった事態だし。
侵入者とやらは以前トールが蛇ちゃん、ヨルムンガンドを放り込んできた際に開けた穴から飛び込んできたようだ。私達は誰も穴の存在に気付かなかった。管理者であるアリスだけでなく、私達全員がまだまだ経験不足だ。世界管理について一度ニクスのレクチャーを受けるべきかもしれない。
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「私はマグナ! 人呼んで奇跡のマグナ! 決して怪しい者じゃないよ♪ だからこの拘束を解いておくれ♪」
なんというか陽気な侵入者さんだ。ちょっとテオちゃんに似てるかしら?
「え!? あれ!? 所有者が書き換わった!? 嘘!? なんで!? どういう事!? どうしよぉぉぉ!! メグルぅ! 助けてぇ! 私書き換えられちゃったぁ! 汚されちゃったぁ!! NTRちゃったぁ! うわぁぁあああんん!!」
急に人聞きの悪い事を言いながら泣き出してしまった。さっきまでの陽気さが一瞬で消し飛んじゃった。
「シーちゃん。この子は?」
「おそらく神造生命体の一種です」
それはさっきも聞いた。つまり詳しい事はわからないと。
「取り敢えず拘束は解いちゃって」
「イエス、マスター」
さて。この泣き虫ちゃんはどうしたものかしら。
「エーテルの子じゃないかしら?」
フランクフルト片手にイオスが現れた。
「みたいだね。確かに力を感じるよ」
ニクスとアムル、ノルンとミーシャ、へーちゃんとレリア、マキナとリジィ、ラフマとアンジュも続々と現れた。まだ戻っていないテラフ以外の女神組もそれぞれお祭りデートを満喫していたようだ。手には様々な食べ物が握られている。
けどマキナとリジィとアンジュはお仕事中よね? 休憩時間だったのかな? 悪いことしちゃったわね。
「エーテルってアイテールの事? つまりニクスの子供?」
「私のじゃないよ。その辺はややこしいんだ。アルカもよく知っての通りにね」
つまりノルンと同じなのね。娘だけど娘じゃない。そんな関係性なのだろう。
「あの子は相変わらず器用ね」
「だね。それに面白い構成だ。大した力は感じないけどきっとこの子は役立つよ。良い拾い物をしたね♪」
「いやいやダメでしょ。こんな泣いてる子ネコババしたら。ちゃんと持ち主の下に帰してあげなきゃ。ほら。さっきからメグルって名前を呼んでるじゃない。もしかして同郷の人かしら。ならエーテルって神が管理する世界での異世界転移者か何かよね。取り敢えずエーテルさんの所に送り届けてあげてよ。イオスなら出来るでしょ?」
「気楽に言ってくれるわね。あそこ結構遠いのよ? 今行ったらお祭り終わっちゃうじゃない」
イオスが単独顕現するならともかく、この子連れてくなら無理があるのかしら? 持ち物扱いでどうにかならない?
ああそうだ。それかいっそ。
「トールみたいに出来ないの?」
ハンマーで打ち込んできたみたいにさ。直行便でさ。
「受取人がいなかったら砕け散るでしょうね」
そりゃダメだ。当然か。神話の、それも不死の怪物でもあるまいし。
「ラフマが代わりに行ってこれない?」
「え~!」
嫌だってさ。
「お姉ちゃんは流石にまだ無理だよね」
『勘弁してあげて。きっと泣くわよ』
まあ、うん。ようやく帰ってきたばかりだものね。しかもこのタイミングで帰ってきたって事はお祭り終わったらまた修行に戻るのかもだし。
「ひっぐ、えっぐ……」
お。ちょっと泣き止んできた。今なら話が出来るかも?
「今……エーテルって……」
良かった。話は聞いていたのね。だいぶ反応鈍かったけど。
「ええ。あなたのお母さんでしょう? 送ってあげるから泣き止んでくれるかしら?」
「ちがっ! ダメ! ダメ、なの! ぐずっ……」
ダメなの? あなたも家出してきたの? たいむりー。
「メグル……見つけないと……離れ……離れ……なっちゃった……」
なっちゃったかぁ……。
「メグルちゃんと家出中なの?」
「ちが、旅……してた……」
そっかぁ。旅かぁ。良いなぁ。私もまたしたいなぁ。
「メグルちゃんは今どこに?」
「わから……ない……」
「あなたはどうやってここに?」
「わか……らない……」
犬のお巡りさんになった気分だ。
「あなたのお名前はマグナちゃんだっけ?」
確か最初そんな風に名乗っていたわよね。
「うん……マグナ……今は……へっぽこマグナ……」
あらら。奇跡は売り切れらしい。でもここに落ちたのは結構な奇跡だと思うよ? イオス以上に頼りになる存在って中々居ないからね。自分で言うのもなんだけど、私だって話はわかる方だし。マグナちゃんが困っているなら力を貸してあげましょう♪
「マグナちゃんはメグルちゃんを見つけ出したいのよね?」
「うん……」
「なら私達が手伝ってあげる」
「……いいの?」
「ええ勿論♪ もし他にも困っている事があるなら言ってみて♪」
なんか所有者がどうこうとか言ってたわよね。
「ありがとう。えっと……」
「私はアルカ。少しの間かもしれないけれどよろしくね♪ マグナちゃん♪」
「う、うん! ありがとう! アルカ!」
良かった。元気になってくれたわね。
「えっとね、アルカ。その……ね」
「うんうん。マグナちゃんはさっき言ってた所有者云々でも困っているのよね?」
「そう! そうなの! 私アルカの物になっちゃったの! けどダメなの! 私はメグルのだから!」
「よくわからないけどちゃんと返してあげるからね。メグルちゃんに会えば解決するのかしら?」
「わからない。こんな事初めてだから。もしかしたら母さんに戻してもらわないとダメかも」
「そっか。じゃあやる事は決まったわね。メグルちゃんを見つけて女神エーテルが守護する世界に戻してあげる。そんな感じで良いのよね?」
「うん! ありがとう! アルカ!」
「ふふ♪ どういたしまして♪」
よしよし。これでこっちは一先ず落ち着いたわね。メグルちゃんを探す方法は皆に考えてもらうとして、私は待たせてるイレーニアさんの方に戻らせてもらうとしよう。
「皆。悪いけど手が空いている子はマグナちゃんの件を調べてくれる? メグルちゃんの行方だけじゃなくマグナちゃんの状態とか諸々任せていいかしら?」
「「「「がってん!」」」」
「ということでマグナちゃん。先ずは健康診断を受けてくれるかしら? あなたの情報を色々調べさせてほしいの。所有者制度なんてものがあるなら所有者の履歴情報なんかも残っているかもしれないわ。それにマグナちゃんの記憶も覗かせてもらえればメグルちゃんの事もより詳しく調べられると思うの」
「うん! 何でも提供するよ!」
凄い信頼っぷりだ。これも所有者になった事と関係があるのかしら?
『流石アルカね。瞬く間に籠絡してみせたわね』
イロハも覗いていたのね。まだお菓子食べてるのかと思っていたわ。
『なによ。悪いの?』
ううん。心配してくれてありがとう。
『それより気を付けなさいよ』
何に?
『あの子が墜落したのはきっとアルカのせいよ』
え? 何故に?
『きっとあなたの強すぎる因果と放置された世界の穴が、たまたま側を通りかかったあの子を吸い込んでしまったのよ。これは起こるべくして起こった事故よ。無理やりメグルからマグナを引き離したのはアルカなのよ』
え゛? 掃除機みたいに?
『まさにそんな感じね。アルカは因果の渦の中心だもの。カーティアとラーラが絡め取られたのと同じなのよ』
ごめん……マグナちゃん……それからまだ見ぬメグルちゃんも……。そしてカティちゃんもラーラちゃんもイレーニアさんも……。
『いい加減対策を練るべきね。どこかに蓋でも転がってないかしら』
或いは逆位相の回転でもぶつけてみる?
『対消滅でもする気なの?』
いや、適当に言ってみただけ。
『真面目に考えなさい』
イロハだって……いえ。何でもないです。反省します。
『一緒に考えましょう。私だって他人事じゃないもの』
ふふ♪ だ~よね♪