43-27.お祭りと迷子
「秒でエンカウントしましたね」
「エネミーみたいに言わないでよ」
あと流石にこの娘は違うわ。普通の迷子よ。迷子センターに送ってあげましょう。
「おねーちゃん……」
「大丈夫よ♪ サリタちゃん♪ きっとすぐにお母さんも見つかるわ♪」
「うん……」
あらら。
「サリタちゃん、どうぞ♪」
ノアちゃんが棒状のドーナッツみたいなお菓子を差し出した。どこか近くの屋台で買ってきたのだろう。いつの間に?
「ありがとう!」
サリタちゃんは一瞬で笑顔を取り戻してくれた。
「お母さ~ん! サリタちゃんのお母さ~ん! いらっしゃいませんか~!」
お姉ちゃんが声を張り上げてくれている。私がやると妙なものを引き込みかねないからって止められたのだ。解せぬ。
サリタちゃんは三歳か四歳くらいかしら? まだお母さんの名前は言えないようだ。今は私の腕の中で無邪気にドーナッツを頬張りながら満面の笑みを浮かべている。自分が迷子になった事を早くも忘れてしまったかのようだ。
「見つかりませんね。そう遠くないと思っていたのですが」
そうだね。こんな小さな子がお母さんから大きくは離れられないもんね。お母さんの方がよっぽど変な方向に探しに行っちゃったのかしら?
「取り敢えずこのまま周囲を軽く回ったら迷子センターに直行しましょう。お母さんも探しに来るならそっちだろうし」
「そうですね。私は少し離れます。何かあったら何時でも呼び出してください」
「がってん」
ノアちゃんはどうするのかな? 先行して聞きに行ってくれるのかな? 或いは空から見つけ出すのかも。ノアちゃんならこの人混みの中でだって子供を探す母親は見つけられるだろう。きっとすぐにサリタちゃんのお母さんを連れてきてくれる筈だ。
「あ!」
「どうしたの? お母さんいた?」
「なくなっちゃった……」
そっか♪ ふふ♪ 食べ終わっちゃったのね♪
「次は何が食べたい?」
「う~ん……あれ!」
「よし♪ じゃあちょっと寄っていこうか♪」
「うん!」
可愛い♪
『あんまり人様の子供に勝手に食べさせたらダメよ』
まあまあ。折角のお祭りなんだし。
『なら尚更でしょ。お母さんがサリタちゃんと楽しむ分が無くなっちゃうじゃない。そんな小さな子が二つも三つも食べたらお腹いっぱいになっちゃうわよ』
それもそっか。なら半分こにしましょう♪
『まったく。浮かれすぎよ』
はいはい。後でイロハにも買ってあげるから。
『聞いちゃいないわね』
そんな事ないよ~♪
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「サリタ!!」
「ママ!!」
よかった。流石ノアちゃん。あっさり連れてきてくれたわね。
サリタちゃんのお母さんに何度もお礼を言われつつ、名残惜しい気持ちを振り払ってどうにかお別れしてから、ノアちゃん達の方に振り返った。
「それで? その娘は?」
何故かノアちゃんはサリタちゃんのお母さん以外にもう一人幼子を伴っていた。
「迷子です」
「迷子じゃないわ!」
だそうです。
「あなたお名前は?」
「ふふん♪ 仕方がないから名乗ってあげるわ♪ 光栄に思いなさい♪」
「カーティアです」
「ちょっと! 何であなたが言っちゃうのよ!」
「本人曰く、武闘大会に出場して名を挙げる為に上京してきたそうです」
「信じてないのね!?」
そりゃあまあ。こんな小さな娘が言ってもねえ。見た目ノアちゃんと同じくらいだから十~十二歳くらいってところかしら。少なくとも見た目は冒険者や旅人って感じはしない。どこにでもいる普通の女の子だ。それくらいから冒険者を始める子もいない事はないけど、この子はどう見てもそっち側じゃない。本人の言う事が本当だとしても精々隣町から乗り合い馬車に乗って来たとかその程度だろう。
「カティちゃんはどこから来たの? お母さんは? お母さんのお名前も言える?」
「イレーニアよ! 言えるに決まってるじゃない! って!? 人の母親の名前聞き出してどうするつもりよ!? まさか人質にでもするつもり!?」
なしてさ。
「私の力を恐れて出場させないつもりなのね!? さては貴方達も挑戦者なのね!? そんな卑怯な真似はこの私が許さないわよ! 挑戦者なら正々堂々と武闘で示しなさい!」
わ~。盛り上がってるなぁ。めんどくさい。
「ノアちゃん。迷子センターに送ってあげて」
「がってん」
「迷子じゃないって言ってるでしょ! 離しなさい! この無礼者!」
「はいはい。行きますよ」
「え!? うそ!? 力強っ!? 待ちなさい! 待って! 待ってってばぁ!」
ノアちゃんとカティちゃんはあっという間に遠ざかっていった。いったいなんだったのかしら?
『フラグが立ったわね』
『あからさま』
『ガッツがありそうですね。私が鍛えてみても?』
『アイリス使いますか? ダークホースとして出場させてみるのも一興かと』
『なんで皆して乗り気なのよ……』
なんでだろうね~♪ 皆もお祭りの熱気に浮かされてるのかな♪