43-23.束の間の休息
スパの建築速度は城の時より更に輪をかけて速かった。春までどころかたったの二ヶ月ちょいで完成してしまった。それだけ皆の熱量も凄かったのだ。冬の寒さも何のその、雪なんて溶かしてしまう勢いで作業は進められた。
そうして出来上がった複合リラクゼーション施設は、温泉と温水プールに加え、飲食やマッサージ、サウナ等様々なサービスを受けられる他に、国民の集会場としての役割も果たせるよう、広大なホールも設けられていた。
更には地下から汲み上げられた温泉が建物自体を巡る事によって室内はどこも程よい暖かさを維持している。
当然そこまで高度な建造物がこの世界の技術レベルで生み出せる筈も無い。建築技術とか以前にそもそも耐えうる素材が発明されていないもの。だからまあぶっちゃけ、今回ばかりはシーちゃんにも色々と手を出してもらっているのだ。神木と同じだ。この世界の素材を元に数世代先の防水素材や保温材なんかを生み出してもらったのだ。その辺のインチキっぷりも建築の速さに一役買ってくれている面も無くはない。
これらの特殊な技術については神から人々へのプレゼントだ。ここまで頑張ってくれた皆に送る、城と教会に並ぶ第三の大型施設にはその技術がふんだんに盛り込まれている。他二つには僅かにサイズで劣るけれど、迫らんばかりの規模と機能は備えていると言えるだろう。神と王は国民をそれだけ重要視している証拠でもある。
なんて噂がいつの間にやら広まっていた。まさかセレネ達が撒いたのかしら? それとも自主的に? 元々信者が大半を占める国だものね。どっちも有り得そうだ。勿論悪い事なんて無いだろう。信仰はそのまま信頼へと結びついている。セレネ達が民を大切に想っている事だって真実だ。その想いが間違いなく伝わっている証拠でもある。きっとこの国はこれからも類稀な団結力を示し続けるのだろう。
『それこそ危険視されるかもしれないわね。瓦解させようと工作をしかけてくる外敵も現れるかも』
まあ、うん。ちょっと不安ではあるのよね。他にもルスケアのように信仰が強すぎて極端な方向に走ってしまう可能性も無いでもないし。
『信仰が強すぎれば洗脳なんかも疑われるでしょうね』
それも覚えがある。ルスケアで辿った道だ。
『他所から見たら異常に映るわよ。多くの国民達が冬の間もぶっ通しで働き続けていたのだから』
そうだね。この世界は私とお姉ちゃんの生まれた世界とは違うもの。こっちの世界の常識で考えたらありえない状況よね。
『一応商人達の興味を引くという目的は達成された筈よ。だから悪いことばかりではないわ。今後は不測の事態に備えつつ少しだけペースを落としてみると良いんじゃないかしら』
うん。そうだね。セレネも同じ考えみたい。港町の方はやっぱり焦らずに進めていくってさ。それにこれから二月程はスローペースでいくって。国民の皆にも休んでもらわないとね。折角完成した温泉も楽しんでもらわないと。
『そうね。ここは素直に一番寒い時期に間に合った事を良しとしましょう』
だね。不安要素なんて上げだしたら切りが無いし。それに私達はこの二ヶ月でヴァガルの方の問題も片付けないとだ。
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「ひまだ~!」
「「ひまだー♪」」
ちょっと。子供達が真似するじゃない。
ヴァガルの方もいよいよと言った所だが、当然留守番組は留守番のままだ。クレアの出番はもう直だけど。
「思う存分鍛えたらいいじゃない」
「「もうやった~」」
エリスまですっかりクレアに染まっちゃって。あの修行マニアはどこにいってしまったのかしら?
『そもそもクレアからしてこんなんじゃなかったじゃない。つまり二人ともアルカの影響を受けたのよ』
私って毒電波でも放ってるの?
『あながち間違いでもありません』
なんでさ。
でも本当に良いのかしら? ヴァガルの武闘大会ももうすぐよ? 大会中は何時もの身代わりクレアじゃなくて本物のクレアが参加する事になるのだ。フロルはきっと本気のクレアを下す為に鍛え直している筈だ。こんなにノンビリしていたら負けてしまうかもしれない。
取り敢えずそっち方向に誘導してみるか。
「私達は別に働いてもいいのよ? 何かお仕事探す?」
「おう! 次のやつ考えようぜ!」
「「さんせ~!」」
やっぱりなんだかんだと根は頑張り屋さんのままなのかもしれない。
「今日は何をするのですか?」
出たな。ノアちゃん。
「こえ~!」
ふふ♪ アルルはすっかりオセロがお気に入りね♪ でもごめんね。今はそういう流れじゃないから。
「ノア姉ちゃんに相手してもらおっか」
「うん!」
「良いですよ♪ 早速始めましょう♪」
あらら。今度はノアちゃんが餌食に。エリスはしれっと押し付けたわね。けど無理もない。アルルったら可愛い顔して結構容赦がないから。ノアちゃん泣かされないかしら?
「私達は何か考えようぜ♪」
わかったってば。クレアのコレって自分じゃ思いつかないから考えろって言ってるのよね。仕方ない。可愛いお嫁さんの願いは叶えて進ぜましょう♪ 私としても好都合だし♪
「とはいえ何があるかしら。お城を作って、スパを作って、国花を作って、アニメやドラマ、曲を作って。他にも色々やってきたのよね。後やっていない事は……」
「「わくわく!」」
あざとい。可愛い。
「教本作りなんてどうかしら?」
「「きょうほん?」」
ありゃ? ピンときてない?
「クレアとエリスは剣術の指南書を作るの。私は魔術のね。勿論これは本の形に拘る必要はないわ。映像データでも構わない。むしろそっちもあった方が喜ばれるでしょうね」
「「お~!」」
ふふ♪ 良い感触♪ これで修行の見直しも出来て一石二鳥よね♪ フロルも応援してるけど、やっぱりクレアにも頑張ってもらいたいもの♪
「いっそ学校でも作っちゃう? 子供達だけじゃなくて大人でも通えるような専門学校みたいな形がいいかしら?」
ギルドもいつ追い出す事になるかわからないものね。一人でも多くの人が戦う力を身につけられたら少しは安心出来るかも。なんならギルドに変わる新しい仕組みを生み出してもいいんだし。
「面白そうですね。是非私も一枚噛ませてください」
「ノアちゃんそんな暇あるの? アメリと作ったイオニアの拠点はどうなってるの?」
「心配は無用です。ヤチヨとヒサメも合流しましたから。表向きの活動は二人に任せていますので」
「裏工作がメインじゃない。あくまでそれは隠れ蓑の話でしょ?」
「そちらも抜かりありません。アメリがギルド職員に就職しました。既に幹部に取り立てられている程です。当然内部の把握も完了しています。何かあればすぐに制圧出来ますよ」
「結局カリアさんは切り捨てちゃったの?」
「いいえ。勿論そんな事はしていませんよ。ただ足並みを揃えるのが難しくなってきただけです。今は彼女のペースに合わせてゆっくりやっている余裕がありませんから」
めっちゃゆっくりノンビリしてるじゃない。ノアちゃん暇すぎて遊びに来てるじゃない。
「あっ!?」
え? なに?
「あ~~~!! そんなぁ~~!」
「♪♪」
ああ。オセロか。やっぱりノアちゃん負けちゃったのね。
「もう一回です! アルル!」
「うん!」
後何回で泣き出すかしら?