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43-22.一段落

「遂に出来たわね!」


「随分と早かったですね」


 感想が正反対だ。実際に中心となって働いていた者とたまに手伝う程度の者の違いだ。この半年、セレネはテオちゃんと共にとても頑張っていた。ようやく一つ目の大プロジェクトに区切りがついたわけだ。その達成感もひとしおだろう。



「立派なお城が出来たわね」


 設計図とか途中経過も見てはいたのだけど、改めて完成したものを見てみると想像以上の出来栄えに感心するわね。まさかセレネ達がこれ程のものを仕上げてしまうなんて。



「皆も頑張ってくれたわ♪」


 本当にね。シーちゃんテクノロジーでインチキして用意したのは骨組みくらいだ。後の部分はこの世界の人達の力で成し遂げたのだ。言うまでもなく、たった半年で城を建てるなんて前代未聞の出来事だ。皆の頑張りには感謝しかない。


 今回は他国からも技術支援という形で職人を派遣してもらった。ムスペルやヴァガル、カノンの実家からも少しずつ職人を用立ててもらい、エルフの国からも凄腕の魔術師達を派遣してもらった。彼らの協力無くしてこの建築速度は実現し得なかったろう。そして彼らもまた驚いていることだろう。


 きっと神の御業なんて噂を自国に持ち帰ってくれる筈だ。或いはテオちゃんとセレネの手腕を褒めてくれるかも。それかモントニャハト公国の団結力に驚いてくれたかな。


 これまで本当に皆が頑張ってくれた。そして皆の熱はまだまだ収まりそうにない。誰も彼もが目を輝かせている。テオちゃん達の統治によって国が急速に発展していく事を確信しているようだ。まるでこの城はそんな未来を示しているかのようだ。



「次は考えてあるの?」


「もちろんよ。むしろこれからが本番よ」


「けどもう冬ですよ? 旅人なんて減るでしょうに」


「近くに温泉でも作る?」


「採用!」


 いいの? 他にも何か考えてたんでしょ?



「無茶言わないでください。どこに湧いてるっていうんですか」


「違うわ。スパを作るのよ」


「スパ? 今から?」


「当たり前じゃない」


 また大仕事になりそうだ。その前にお城が出来たお祝いもしなきゃだろうし。皆に何か還元出来ると良いのだけど。



「どうやってお湯を用意するのです? まさか本当に源泉を掘り当てるつもりですか?」


 むしろ薪風呂よりは現実的よね。手に入る薪だって限りがある筈だ。一応資材調達班はずっと動かし続けていたみたいだから越冬くらいは問題無いでしょうけど。



「先ずは調査よ。判断はそれからよ」


 どない?


『あります。マスター』


 あらそうなの?


『元々ここは所謂龍穴の上に作られた町なのです』


 というと?


『我々の足元には莫大なエネルギーが眠っています。地下水は程よい温度を保っていることでしょう』


 それ大丈夫なの? 色々問題ありそうじゃない? この国の安全性とか、そんなお湯に浸かって大丈夫なのかとか、そもそも普段飲用に使ってる井戸水だって健康に害はないのかしら。ただあるだけでお湯が沸くほどの莫大な魔力って危険そうじゃない? そこは普通マグマとかじゃないの?


『安全面については徒に刺激しなければ問題ありません。そしてこれは地中深くの話です。人間の技術力で刺激することは出来ませんし、井戸水とは深度が異なります。ここまで及ぶ影響は極僅かです。多少他の土地より魔力量が多い程度です。健康に害はありません。むしろ健康促進に一役買ってくれることでしょう』


 至れり尽くせりね。と言うかシーちゃんにしては珍しい長文ね。もしかして興味あるの?


『掘削作業に関しては私にお任せ頂ければと』


 ノリノリね♪ いいわ♪ それくらいならニクスも許してくれるでしょうし♪



「承認」


 即答だった。



「大至急進めよう。取り敢えず城の敷地内に一棟作ろうか」


「むしろ城を建てる前にやるべきだったわね」


 なんで誰も気付かなかったのかしら。



「今更言っても仕方ないじゃない。急ピッチだったのよ。余分なものを組み込む余裕は無かったの」


 まあそうね。それに大前提として城の構造の大部分はこの世界の一般的な基準に合わせているものね。そもそも選択肢に上がらなかったのも当然か。



「城の敷地内はダメよ。元々そんなに余裕は無いし折角なら国民が気軽に出入り出来るような場所に作りたいの。頑張ってくれた皆に温泉だけでも無料開放出来るようにしたいわ」


 名案だね♪ これからどんどん寒くなるしきっと皆も喜んでくれるよね♪



「けれど毎日全員が利用するとなると相応に規模も大きくしなきゃだ。それに国民の管理も徹底しなきゃ。国外の人達が聞きつけて殺到しちゃったらきっと混乱も生まれるし」


「抜かり無いわ」


 そりゃあセレネなら住民票とかは作らせてあるんでしょうけれども。それとも住民カードみたいなのも配布済みなの?



「そういうつまらない話は私に任せておきなさい。それより計画を立てましょう。浴場以外にも飲食や整体なんかも欲しいわね」


「最初からそこまで作り込むの?」


「必要よ。無料開放の浴場だけでは採算が取れないわ」


 なるほど。そっちで維持費を賄うのか。到底賄いきれるとは思えないけど無いよりはマシな筈だ。



「実を言うと大型施設の計画だけは水面下で進めていたの。土地と資材の準備にも然程時間は取られないわ」


 いつの間に。いや、そうか。それで資材班も動かしていたのか。この様子だと後は本当に組み上げるだけかもしれないわね。



「飲食はともかくマッサージの方は人を育てないとよね」


「それも追々よ。先ずは箱だけ作ってしまいましょう」


 さすが王様、なんでも無理が通る。


 王様はテオちゃんだけど。そのうち聖女セレネは王様の愛人とか言われそう。既に権力与えすぎって思われてそう。



「そう言えばこの国の体制ってどうなってるの? 王権が最上位の決定権持ってるの?」


「あら。そういう事にも興味あったのね」


 一言余計じゃい。



「いいわ。教えてあげましょう♪」


 ちょっとルンルンしてる。セレネこそこういう話好きなのね。自分が支配者だからかしら。



「今は三権分立と近い形を目指しているわ」


 それって私の生まれた世界を参考にしたってことかしら。



「内訳は覚えているわよね? 『立法権』『行政権』『司法権』の三つよ」


 うん大丈夫。それくらいなら覚えてる。



「つまり私が法律よ♪」


 あかん。



「冗談よ。そんな顔しないで」


 本当に? セレネの事だから本気でそう思ってない?



「私達『教会』が『立法権』。公王テオとその重臣達、つまり『城』が『行政権』。神であるニクスが『司法権』。原則はこの構成に則って政治を行う事になっているわ」


 それでいくとセレネの冗談もあながち間違いじゃないのよね。教会って事実上セレネの支配下にあるし。実態としてはグリアって参謀役もいたりはするけど、セレネがこうと決めれば押し通せちゃうのよね。今はまだ制度も完全に浸透したわけじゃないんだろうし。



「現状城側の人員が不十分だから教会からも助っ人を派遣しているけど、ゆくゆくは完全に分けてしまいたい所ね」


 実際行政を担ってるのも教会だよね。つまりそこは少しずつ移行していくつもりなわけか。そうやってやることを明確にした上で城側の人員も集めていくって事なのね。



「あんまり意味なくない? 結局全員私のお嫁さんじゃん」


「そうよ。つまりのこの国の最上位権限者はアルカとも言えるわね」


 あぅ……何かが着実に積み上げられてる感じが……。



「何度もそう言ってるじゃないですか」


 ノアちゃんすら呆れてらっしゃる……。



「教会と神の関係はそれでいいの?」


「いいのよ。こんなの表向きの話でしかないもの」


 身も蓋もない。



「ファミリー経営だけじゃ諸外国に示しがつかないでしょ。この国には貴族だっていないんだし」


「え? そうだったの?」


「とっくに引き上げていったわ。それは前に話したでしょ」


 そっか。一応少し前まではどこかの貴族の領地だったんだもんね。それを一旦国が回収したけど、新たな管理者は派遣されてこなかったのか。元々教会はリオシアに恭順していたものね。表面上は。



「これから引き入れたりするの?」


 もしくは役職に準じて貴族位を与えるのだろうか。



「貴族制は廃止したわ」


 それはそれは。思い切った事を。



「受けが悪いんじゃない?」


 色々問題もあるだろう。貴族を蔑ろにする国だと思われちゃうだろうし。居着く事がないだけでなく観光にだって来てくれないかも。



「どのみちここは既にリオシアとも別の国なの。そんな事にも気付かず偉そうに踏ん反り返るような奴が来たら問答無用で追い返すわ」


 まあそれもそうか。隣国で貴族ってだけじゃ、こっちで優遇する理由は無いわけだし。



「大丈夫? そろそろスキルの話も広まってるでしょ?」


「まだ様子見しているみたいね。だから今がチャンスよ。貴族連中が来るまでにはスパも仕上げましょう」


 商機を逃すわけにはいかないもんね。きっと旅行者が増えるであろう春までには備えないとだ。

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